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「ほら!食え食え食え食えー!!
学校と幼稚園遅れるぞ!」
朝から勘八くんの声が家に響き渡る。
「杏奈ー。
今日もお手伝い偉いなぁ。」
勘八くんの大きな手が杏奈の頭をくしゃっと撫でる。
「だって、母ちゃん昨日もアニメ見とってまだ寝とーちゃもん。」
お皿を並べながら、カタコトのような福岡弁で杏奈が答える。
「杏奈ー。
女性の出産は大変なんだよ。
うちは子沢山だろ?
それだけ杏には負担かかってんだぞ。
杏は身体休めてるんだから、いいんだよ。」
勘八くんの優しい声。
「でも父ちゃん昨日夜勤で寝てないっちゃないと?」
天才児の杏奈が心配しながら、勘八くんのよそったご飯を並べる。
「気にすんな。
家事は俺の趣味なんだよ。
杏は毎日子供と遊んでるだけでいいよ。
それに俺は、タフなんだぜ!」
勘八くんはニカッと杏奈に笑いかける。
杏奈もそれに答えて天使のような笑顔を浮かべる。
そうしてるうちに、2Fの部屋から降りてきたモンモンが自分の席に着く。
「よ!モンモンおはよう」
「おはよう。お父様。」
「おはよう。モンモン姉ちゃん。」
「おはよう。杏奈。」
いつもの朝の風景だ。
「モンモン。ヒロシと杏子は?」
「ヒロシも杏子も自分で身支度整えてたけど。」
物静かにモンモンが答える。
「そっか。
じゃ、あとは頼んだぞ。
俺、そろそろ出ねーと。」
勘八くんがバタバタとダイニングから出て行く。
「お父様は、朝食済んだのかしら?」
モンモンの問いかけに勘八くんが慌てて答える。
「今日は時間がなくてな。
作りながらつまんだからいい。
食器は各自水洗いして食洗機に入れとくんだぞ!
じゃあ、いってきます。」
ガチャっとドアが開き勘八くんが病院に向かった。
勘八くんは、敏腕外科医だ。
今日もたくさんの患者さんが勘八くんを待っている。
患者さんからの指名が多いお陰で勤務時間を増やし、なんとか家計を回している。
そうこうしてる間に、身支度を終えたヒロシと杏子がダイニングに来た。
「あれ?父ちゃんもう行ったと?」
「ヒロシ、なにを寝ボケてますの?お父様は忙しいんですのよ!」
まだ3歳の杏子がヒロシに姉御風を吹かせる。
「でも、おはよーくらい言いたかったばい。」
「ヒロシがグズグズしてるからぁー!」
「杏ちゃんもヒロシも早く食べりっ」
杏奈がヒロシと杏子を席に座らせる。
「いただきます!」
ヒロシと杏子が可愛く合唱。
「おはよう。杏奈。今日もお手伝いしてたんだね。」
「聖兄ちゃん!」
降りてきた聖が杏奈に話し掛ける。
「杏奈はお利口さん。」
勘八くんがしたように、聖が杏奈の頭を撫でた。
聖の綺麗な瞳と目が合い、杏奈は照れながら俯く。
「あれ?健一は?」
聖が杏奈に問いかける。
「健一兄ちゃんは、今朝は遅くていいみたいで、まだ寝とるとよ。」
「ふーん、そう。」
「聖兄ちゃんは健一兄ちゃんに会いたいと?
お部屋行っていってきます言ってあげるといいばい。」
「い…いや、遠慮しとく。
杏奈がいればいいや。」
聖が杏奈に笑いかける。