一夜
歌うような風。運ばれていく人の群れ。止めどない思いが、星が、瞬く。
消滅するべきものが、そこにあり、またその周辺から湧き上がる幾千もの憎悪が、ぶつかり合い、果てていく。
悲しみが、こんな夜にあるとは、誰も何も知らなかった。
たしかに、彼は、少しはやく生まれてしまったのかもしれない。
いつしか、時代も追いつき日の目を見るだろう。
どこからともなく、そんな無慈悲な言葉が水面に映り、はじけて消えた。
森の民は、移住を始めた。
明くる日のこと、鬼は訪ねた。
人の世のなんと儚きことか。夢の跡は、いつも悲しみに満ちている。どんな栄華を極めても、虚構であるしかない、「ひと」の生き方に「未来」はあるのだろうか。
鬼は、笑い去っていく。そこにあった「なにか」を弔って。
第一の日、物語を始めるにあたっていくつかのルールを決めた。
目に見えるものだけが、正しい。聞こえない声は、無力。群れは、孤独。
Xは、森へ出かけた。Yは、夢想家であった。母親の声も知らない。無垢な男だった。
Xは、Yとともに森へ出かけた。Dは、隣人であった。Dは、Xを憎んでいた。
Aは、680年の時を経て生まれ変わった。
生産。精算。
ゼロは、数字でしかないのか。Fは、神に祈った。
けれど、そこに神は不在だった。
世界の変革の音が聞こえる。
崩れゆくファンタジー。闇。
幻想から、妄想へ。
具体は、抽象へ。
還元されていく。消えていく。生まれていく。
せいさん、だ。
時を戻せば、人は「何」を求めて生まれてくるのだろうか。
生まれることを拒むことはできるのだろうか。
生まれることを望むことはできるのだろうか。
そこに、葛藤はあるのだろうか。
・・・・4。
生きる。
死ぬ。
夢破れて、追憶の日々。白い光。麗しい光。眩しい。強さ。
光からやがて女神が現れて、Aを生かした。
固定する。魂の固定だ。世界を規律するシステムに刻む。
運命とともに。
螺旋の世界。鎖を切って、放り込む。新しい世界。
ようこそ、そしてさようなら。
・・・なにか、ありますか。どうしています。生きて、いるのですか。
彼よりも大きな魂を持つものはいない。
事実であるのかは、不明だ。Aの物語は、ここで消えている。
・・・・・息はできる。
吐くことを意識して、イメージの中で自分の固定をおこなう。
生まれたばかりの彼は、まだ外界の様子を探ることができない。
天より伸びし糸。逃げるのか、進むのか。
Sは、責任を感じていたが、自分にはどうすることもできないことを決められていた。
Xを望んだ。Xの覚醒を望んだ。彼にならばできるはず、 。
彼の祖父の口癖が、自由のために自由と戦えだった。
彼には意味がわからなかったが、戦いについては学んだ。
やがて、祖父を殺すその日までは、彼は自由の意味を知らなかった。
自由は、自由であり、自由ではない。自由という概念はあるが、自由は自由という形に支配されている。
自由を信じるのか、自由と戦うのか、それもまた自由だ。
飽きるまでは、自由を腹いっぱいに溜め込みたい。
切り替わるようなタイミングで、大胆に攻撃。
一瞬の駆け引きが、一生を支配する。
生物の根源たる、有象無象。原初そこは、 。
神より授けられし、現象。
神は不在。
神は、いつしか千切れていった。
Sは、自分を呪った。生まれてくるばかりの頃の責任が、私にあったのではないか、と。
Xの帰還を望むよりも確実で、たしからしいからだ。
しかし、叶わないこともわかっていた。
それほどまでに、深い隔たりがあったからだ。
闇とも言えぬ、闇へ。光よ、光の渦よ。
星の瞬きの根源よ。原初なり。我は、貴君の根源なり。根源足りうるものなり。
憂鬱な「じかん」を過ごした。Xは気怠い。
眠ることが機能として最重要と思われた。整理をしたい。
Xは、ふと外界に「いしき」を向けた。
澄み渡る。クリアになっていく視界の中に「 じかん 」はあった。
自分とは違う姿を確認した。
何者だろうか。
興味は持たないが、気にはなった。
暗闇から、自分を救ってくれる存在かもしれない。
本能的な感覚だった。
感覚器官Aを、対象物に向けた。
割れた。
・・・・・だめだ。また失敗した。
風が吹くことが当たり前だと思っていた。
でも、それは違った。
Sは、知っていた。
Dは、幼い頃から、Sが好きだった。
Sは、可憐だ。すべてが愛おしい。支配したい。
神より授けられし、勾玉の力を使ってでもSが欲しいと願った。
用意周到に、周りから埋めていく。
気付かれないように、悟られないように。
そして、今夜。
彼は「ひと」を捨てた。
・・・・・・・7。