9.続終焉 ~エピローグ~
続編最終話です。
「ぐぬぅぅぅ」
俺は人間サイズに戻った。あれ以上の巨人化は無理。今は人間サイズのアモルファスを維持するのもギリギリだ。
敵旗艦アイテールは乗員のほとんどがアレス感染者だったのか、今は完全に沈黙している。防衛要塞アークも既に飛行機能が死んでいるのか着陸し、沈黙している。
「レイン……」
俺は時々崩れそうになる体を何とか維持しつつ、アーク内部へと向かった。
歪んでうまく開かない扉をたたき壊し、コントロールルーム内へと入った。あちこちの操作盤が破損し、物が散乱している。
「レインっ! どこだ! 無事か!」
「……、コースケ、ですか?」
計器盤などに半分埋もれたような状態で、レインは倒れていた。俺は機材を退けてレインを抱き起す。
「レイン、大丈夫か?」
大分薄汚れているが、見たところ義体に損傷はなさそうだが……。
「……、大丈夫、です。まだ、生きて……、います?」
「微妙に疑問形かよ!」
「少し焼き切れそうになっただけ……、いえ、少し焼き切れました」
そう言いつつ、レインは薄く笑う。無事ではないがとりあえず大丈夫そうか……。
「とりあえず出よう」
「いえ、まだです、まだ空白領域は、健在です」
そういってレインは倒壊した機材に手をつき立ち上がり、コントロールパネルに手を伸ばす。防衛要塞アークはまだ生きていたらしく、レインの操作でアーク全体が振動する。
「大丈夫か?」
「はい、このくらいなら……」
モニターにアークの状態が表示され、各部からロボットアームが展開される様が示される。それらが地面に付き、アークを持ち上げて移動し始める。
「なんか、蜘蛛みたいだな……」
防衛要塞アークがアイテールに乗り上げるように停止し、新たなロボットアームがアイテール内部の機関部を剥がし取り出し始める。なんかに似てると思ったが、肉食の昆虫が獲物を捕食する様とそっくりだ……。
その時、背後で激しい破壊音
『うぼおぁぁぁぁぁぁ!!! 我らは生きるぅぅぅ! 増えるぅぅぅ!!』
コントロールルームの入り口が上部へと大きく裂け、10mを超えるような大きなタコのような塊がその隙間をこじ開け、中へと入り込もうとしてくる。
『じゃまぁぁぁぁぁぁっ!!』
10以上の触手がレイン目掛けて伸ばされる。俺は辛うじて拒絶障壁でそれを防ぐが、奴の放つ反思念力の余波が俺を打ち付ける。
「ぐっ」
アモルファス体の一部が崩れ、俺は膝をつく。
「コースケ!!」
『きぃぃえぇぇろぉぉぉぉぉ!!』
奴は再び触手を振りかぶり、俺とレインに向けて振り下ろす。
『最後まで油断せぬことだ』
だが、その触手は、ハーヴァシター氏が張る異常に強固な障壁により阻まれていた。
「貸しだぞ!」
フィーデの振るう赤熱した爪が、すべての触手を断ち切る。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
「おれも居ますからね!! 攻勢手甲・重撃!!」
ルクトの放つ拳撃が巨大なタコを吹き飛ばし、防衛要塞アークのドーム内を舞う。
「外に」
『出ていけ!!』
白い光を纏い、元ファフニールの手足らしきパーツだけを操るフィルトゥーラの拳打により、タコは上空へと打ち上げられる。
え、なんであんな恰好? というかアッシュの声も聞こえた気がしたけど、どこに居るの!?
『ぎゃばぁぁぁぁぁ』
『私はタコが嫌いだ』
ドームに空いた穴から外に飛び出したタコが、アルバート専用マグナの持つ二刀により千々に切り刻まれる。完全に自分の好みを言ってるな、アルバート。
『消えなさい!』
エリーゼの声が届いた直後、バラバラだったタコのかけらは跡形もなく消し飛んだ。
「重力ジェネレータ、摘出します」
レインが声を発した直後、これまであった何かの圧迫感が消え、なじみ深い流れが戻ってきたのを感じた。
モニターには、かろうじて生き残っていたアレス感染者たちが、次々と白煙に消えていく様が映っていた。
『許せとは言わないわ……。共存できないなら、私たちはあなたたちを滅ぼすしかない』
エリーゼの呟きは誰に向けたものだったのか……、俺達は消えゆく彼らをただ、見守るしかなかった……。
「今更だけど、やっぱり帰るのか?」
「はい」
俺の問いに、フィルトゥーラは少し寂し気な笑顔で答える。
旗艦アイテールを奪取した後、しぶとく生き残ったアレス感染者も、数日で消滅した。しかし、帰還軍には非感染者もいた。俺達は彼らを一旦捕虜として収容し、「王国民として生きる」か「火星へと帰る」かと意思を確認し、「火星へ帰る」ことを選んだ者たちを送り返すこととした。
奪取した重力ジェネレータを用いて魔導艦ファフニールを復元し、火星帰還船とした。そして彼らと共に、フィルトゥーラも火星へと帰るという。
「父は自由にしていいって言っていました……。でも、やっぱり、私にとっては火星が故郷なのです」
「そっか……」
彼女自身が決めたことだ。それ以上は何も言うまい。
「フィルトゥーラのおかげで、私たちは救われたわ……。今後もしまた地球に来るなら、その時は王国がバックアップするわ」
「はい、ありがとうございます……」
エリーゼの言葉に、フィルトゥーラは笑顔で応える。
「体の具合は大丈夫そうか?」
俺はフィルトゥーラの後ろに立っていたアッシュに向けて声をかけた。
「ええ、まだ動きに慣れない部分はありますけど」
彼の体は今、半有機義体だ。防衛要塞アークにあった設備を使ってアッシュ用の義体を作成したのだ。もちろん、素材は"人間"などではなく、水や二酸化炭素、土中のリン成分なんかをμファージで有機合成して作った素材を使った。
「そろそろ出発時間です」
魔導艦の整備員から、出発の声がかかる。
「また会おう、元気でな」
「ええ、皆さんもお元気で……」
フィルトゥーラとアッシュが乗り込んだ魔導艦ファフニールは重力反転で浮上し、上昇していく。青く晴れた空の先、その船は輝きだけを残して彼方へと旅立っていった。
「さて、レイン、次はどこへ行こうか」
「少し北方向が良いと思います」
「え!? あなたたちまだ何処かへ行くの!?」
俺とレインのやり取りに、エリーゼが驚きの声を出す。
「まだまだ行ってない場所のほうが広いくらいだよ」
「"オメガ"を探さなくてはいけません」
俺達の言葉に、エリーゼは肩をすくめた。
旅はまだ始まったばかりだ。
これを持ちまして、本続編を完結とさせていただきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
少々蛇足っぽい続編ですが、なんとか完結にこぎつけました。これもご覧いただける皆さまのお陰です。重ねてありがとうございます。
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