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3.絶対包囲

いつもご覧いただきありがとうございます。

本日も更新いたします。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

 息が切れる。全身義体であるこの身体に、本来呼吸なんて必要ない。

 それでも胸が詰まり、息切れのような苦しさが止まない。


 それは肉体があったころの記憶か、それとも今の状況がもたらす影響か……。



 既に飛行することはできない。左腕に着けられたが拘束環(バインド)により常に思念力(ウィラクト)が流出し、飛行するだけの出力が得られない。

 細かい路地を駆け、建物の隙間を縫うように走る。


 ガッガッガッガッガッ っという何かを削り取るような音が急速に近づいてくる。


 私は残ったもう一本の巨大破砕槌オープレシーインジェンスを持ち、身を隠すように構える。

 直後、巨大破砕槌オープレシーインジェンスを激しい衝撃が襲う。


 巨大な金属の塊であるはずの巨大破砕槌オープレシーインジェンスがスライスされ、3等分に分断される。


 高熱で揺らめく空気の向こう、黒い外殻に覆われた人物が見える。

 遠隔駆動多薬室砲(フロートセンチピート)2基で砲撃。だが、軽々と回避される。


 その間にも、私は反対方向へと走る。




 もはや取れる手段は一つしかない。あとは決断だけだ。




 走り回る内に、再び王都外壁までやってきてしまった。


 通りから続々と現れる住民たち。その先頭には殲滅卿、フィーデ、そしてルクト……。



 背後から凄まじい衝撃と振動。



 アォォォォォォォォォォォォンッ!!



 直後、外壁が崩壊し、巨大な狼が姿を現す。その背後には、少し距離を開けて多数の白い巨人が立ち並ぶ。



 ゴオガァァァァァァァァァァッ!!

 キルゥェェェェェェェエェェェェェェ!!



 空からドラゴンと鳥が降下してくる。



「ふ、は、は……、」

 あまりに壮観な景色におかしな気分になってきた。変な笑いが漏れる。



 ルクトたちの頭上、眩い白亜の光が浮かぶ。


『存外、楽しませてもらった。このような余興は何年ぶりかな……。』

 わざとらしく手を広げ、白い炎を噴き上げた人型が緩やかに降下し、地上数m程の高さで静止する。


『せっかくなのでね、直接見学させてもらいに──』

 言葉を聞く必要はない。私はソイツ目がけて遠隔駆動多薬室砲(フロートセンチピート)で砲撃を加える。

 だが、砲弾は体を通過し、遠くの建物を破壊した。

 砲弾が直撃した胴体には穴が開いていたが、すぐに白亜の炎がそれを埋めると元通りに修復された。


『やれやれ、人の話を遮るのはいただけないな。』

 大振りな動きで頭に手を当て、首を軽く振りながらソイツは語る。

『これは全身義体シェイド。アモルファスの後継機種、こう言えば性能はお分かりいただけるかな?』

 芝居がかった手振りで胸に手を当てながら説明をしてくれる。いちいちイラつく。


「お前が、オメガ……。」

『おっと、勘違いするな? これも数ある操作点(ノード)の一つに過ぎない。』

 大げさに身を引き、両手を振りながらそんなことをのたまう。いちいち動きを入れないと話もできないのか……。


『ま、そんな旧式義体で倒せるとは思えんがね。』

 嘲笑を隠しもせず、オメガは語る。


『さて、なかなか見ごたえのある逃走劇だったが、やはり何事にも終わりは来るものだ。』

 オメガは颯爽とした動きで片手を上げる。


『やはり悲劇の最後を締めるには、彼に終わらせてもらうのが良かろう。』

 奴の言葉が合図なのか、集団から彼が歩み出てくる。


「ルクト……。」

 ルクトからの返事はない。フルフェイスの中、表情もわからない。



 私は、|視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》でずっと存在を主張しているアイコンを見る。



 システム:スティグマ



 これを起動することで、オメガ同様に人々の脳内余剰リソースに入り込み、それを繋ぎ合わせた巨大システムを構築する。

 だが、それだけではない。スティグマは対オメガに特化したシステム。オメガの"操作点(ノード)"をも強奪し、その版図を広げる。

 しかしオメガもただ奪われるだけでは済まないはず。必ずスティグマの動きに対応してくる。そうなるとオメガとスティグマによる操作点(ノード)の奪い合いが始まる。そして、コントロールを奪った操作点(ノード)同士での直接的戦闘も始まるだろう。


 現状、王都に居る人達はほとんどすべてオメガ掌握下にあると言っていい。王都を舞台にしたオメガとスティグマのつぶし合い。

 最後には誰も生き残らないだろう……。



 ゆっくりとルクトが近づいてくる。その義手からは強力な思念力(ウィラクト)の反応が感じられる。



「オメガを抹消する。それが私の使命……。」

 私はスティグマのアイコンを起動する。

【System: STIGMA... Standby】

 起動と同時に、私の周囲にうっすらと思念力(ウィラクト)の障壁が展開される。障壁上には白い文字が呪文のように流れ、展開していく。

 |視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》には、スティグマの起動ログが高速で流れていく。


『む? 何をするつもりだ。 おい、早く止めを刺せ。』


【Run? y/n】

 ->


 あとはYesと答えれば……


「どうしましたかレイン、早く、起動を……。」

 私は自分に問いかける。



「……このまま、オメガに操られるなら、」

 人々の顔に目が行く。



「……ここにいる人達を犠牲にすることで……、」

 フィーデの顔が目に入る。



「……この先多くの人を救える……、っ!」

 迫る住民の中にサンディさんの顔を見つけた。



「……これは、私の、せい、なのですか……?」

 目前に立つルクト。






「私さえ居なければ……、皆は、幸せに……?」

 仮にオメガは居たとしても、人類を滅ぼすわけではない……。私さえ消えれば、元の生活に戻れる、の、かも……。







 ->n



 周囲に展開していた思念力(ウィラクト)は霧散し、消失する。

 私は膝から力が抜け、地面に座り込んでしまった。



 操られているとはいえ、皆のために命を捧げるなら……、悪い取り引きではないですよね……。



 ルクトが右手を振り上げる。その手には強力な思念力(ウィラクト)が渦巻き、腕からは甲高い音が漏れる。



 自壊迫撃(アウトバースト)……。

 


 その手が、私の頭上に向け── 

 瞬間、通過する影。そして上空から2つの物体が落下してくる。


『させないわ!!』

 金属同士がぶつかり合ったかのような激しい衝突音。

 私の目の前では、分厚い金属製の盾がルクトの自壊迫撃(アウトバースト)を受け止めていた。


『立ちなさいレイン! まだ終わっていないわ!!』

 すぐ背中から思念波が伝わってくる。


 私の身体を抱え込み庇うように、レミエルが背後に着地していた。


 再び、まるで金属の"やかん"同士をぶつけたような甲高い音が鳴り、ルクトが空を舞う。


『ルクト貴様!』

 どうやらアルバートが盾でルクトを吹き飛ばしたらしい。


『ちょっとアル! やりすぎよ!!』

『いえ、問題ありません。アレは正気ではない。』

 エリーゼの問いかけに、アルバートは自信満々で答える。


『え?、よ、よくわかるわね。』

『簡単なこと、奴があれほど大切にしていたレイン殿に手を上げるわけがない。』

 ルクトではないんだけどな……。なんだか妙な気分だ。


『アルからそんな発言が出るなんて、意外だわ。』

 エリーゼからは少々呆れた言葉が漏れる。



『これはこれは、珍客の乱入だな。』

 オメガは相変わらず不遜な態度だ。


『あなたが説明してくれるのかしら? これは一体何事? こんな人数で一人の女の子を包囲するなんて!!』

 エリーゼは憤懣遣る方無いといった雰囲気だ。


「エリーゼ、いいんです。私が犠牲になれば──、」

『だめよ! 私が許さないわ!!』

 私の発言を遮り、エリーゼは吼えた。


『何があったか知らないけど、犠牲に大きいも小さいも無い!! 貴女一人が犠牲になるなんて、私には到底受け入れられないわ!!』

『し、しかし、エリーゼ様……。』

『なにかしら!!』

 先ほどルクトを吹き飛ばしたときにはずいぶん勇ましかったアルバートは、今はかなり弱気な声を出している。

 エリーゼは相変わらず頭に血が上っているようだ。


『周りを……。』

 2機のマグナがぐるりと周囲を見渡す。



『ちょ、ちょっと勇み足だったかしらね……。』

『まずは一旦退いて、立て直しを図るべきかと。』



『逃げられるとでも?』

 オメガが両手を広げる。

 周囲から一斉に咆哮が上がる。

 ディヴァステータたちは空に向けて吼え上げ、白い巨人の群れが唸り声を響かせる。住民たちまでもが威嚇の怒声を上げていた。





「いや、助かった。お陰で間に合った。」

 




 空から複数の思考攪乱改(ハイパラライザ)が降り注ぎ、取り囲む人々が次々と麻痺していく。

 さらに青い光が地面に衝突、その落下地点には、青い炎を纏った全身義体が片膝をついて着地していた。


「あ、あぁっ!!」

 私は声にならない声が漏れていた。その姿は「鈴城(すずしろ) (れい)」の記憶にある、「識名(しきな) 孝介(こうすけ)」そのままの姿だ。

 視界がぼんやりとにじんでくる。



 全身義体アモルファスが立ち上がり、軽く振り返る。そして、とても軽い調子で彼は告げる。


「すまんレイン、遅刻した。」


「あぁ、コースケ……、無事、だったのですね……。」


「言ったろ? すぐ追いつくって。」

スペックシート:System OMEGA


製品名:System OMEGA

諸元:


次世代の人類を導く、先進の思考領域環境


・システム概要

 System OMEGAはさまざまな生態脳の極小領域を利用し、広大な思考領域を確保することが

 できます。

 操作点(ノード)の管理、情報の連携などの複雑な操作に触れることなく、

 簡単に活用することができます。

 この優れたソリューションは最小で5操作点(ノード)からスタートすることができます。


・稼働要件

 処理装置: 健常な脳で5ノード分以上

 メモリ:  健常な脳で5ノード分以上

 主記憶装置:健常な脳で5ノード分以上

 その他:  ディールネットワークへの接続が必要


技能:

・安全・安定の存在環境

 常に操作点(ノード)を一定に保つ機能により存在が脅かされることはありません。

 あなたの思考定義は常に維持されます。


・世界中を移動

 操作点(ノード)を繋いでいくことで、様々な場所へとすばやく移動できます。

 また、操作点(ノード)の居場所の検索によって、グループ分け、フィルタリング

 を簡単に行うことができ、多数の操作点(ノード)を扱うことも容易です。


・問題点は迅速に解決

 常に操作点(ノード)間で情報を共有し、問題個所を特定、対応できます。

 対応では各操作点(ノード)に負荷分散するため、あなたの負担は最小限です。



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