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4.実地戦闘実技

本日2話目の投稿です。

 1年経つのは早いものだ。

 入学してこれまで毎日を必死に過ごし、気が付けば1年次末の最終考査が1か月後に迫っていた。

 この最終考査の成績によって2年次の兵科が決まる。1年次最後にして最大のイベントだ。


 最終考査の課題は「実地戦闘実技」。

 5人組みの小隊を編成し、王都から徒歩で半日の距離にある廃墟遺跡に入る。そこで規定数のモンスターと戦闘し、帰還するという内容だ。


「お前のチームにはレイヴが居るんだからいいだろ!?」

「こっちは魔法タイプが足りないんだよ。豆じゃバランスが合わないんだよ!!」

 今、おれの目の前で2チームによる"交渉"が行われている。どちらも4人までは決まっており、残り1人を巡っての話し合いだ。


 余っているのはおれともう一人。

 どちらのチームも、"豆"のおれは要らないということで、どちらにおれを押し付けるかということらしい。

 ちなにみ"豆"というのは"アニマ"の大きさが豆のようなおれにつけられた蔑称だ。


「ここは公平にじゃんけんで決めるべきだろう。」

 正義の人 レイヴ・ヘイアンドが提案する。うちのクラスで成績の一番はレイヴだろう。

 戦技、魔法ともに成績優秀、正義感が強く、口癖は「努力は裏切らない」だ。

 金髪に碧眼で美形、まさに完璧超人。


 なぜかおれによく声をかけてきて、"日々の努力の大事さ"であるとか"積み重ねた経験の重要さ"を説いてくれる。おれは正直苦手だ。



 2チーム代表者による真剣なじゃんけん勝負が展開されている。どちらも必死だ。そりゃそうだ、最終考査の成績が2年次の兵科決定に影響するのだ。どちらのチームもお荷物を連れて行きたくないのだろう。


 おれはやり取りを風景のように眺める。

 結果がどちらになろうとも、おれにとっては大差ない。どの道、碌な扱いは受けないのだろう。

 どうしておれはここに居るんだろうな……。



「くそっ!!!」

 マグダイムが忌々しげに吐き捨てる。

 奴はじゃんけんに敗れ、おれはマグダイムとその取り巻き2名、それにレイヴのチーム所属となった。何の因果だろうか。

 二択の中でいえば最悪の方となってしまったな。


「公平な勝負の結果だ。このメンバーで頑張ろう!」

 レイヴが場を凍りつかせるほどに熱血な言葉をメンバーに投げた。


「早速、今日の放課後にチームの戦力確認をしよう!」

「チッ」

 レイヴは空気を読まない、マグダイムは苛立ちを隠さない。この先1か月、どうなるんだろうか。





 王国が有する兵団は近衛兵団と討伐兵団の2つだ。近衛兵団は王国要人の警護や、各街の治安維持を担っている。憲兵隊も近衛兵団の1部隊だ。

 近衛兵団は討伐兵団で特段の活躍を示した人材が配属される。なので、おれたちが卒業後に所属することになるのは討伐兵団だ。

 

 兵団には学校の専門課程そのままに戦技科、魔法科、機兵科、整備科の4兵科がある。戦技科は"戦技兵器"と呼ばれる武器を使った近距離攻撃が主となる。魔法科は各種魔法での遠距離攻撃が主だ。


 多くのモンスターは強力な外殻を持ち、通常の銃器などでは有効打になりづらい。そのため魔法のように外殻に関係なくダメージを与える方法か、もしくは外殻を破壊・突破して内部に損傷を与える技術が必要になる。

 "戦技兵器"には切断力を向上させた刃物や、強い衝撃を発生させる鈍器などが存在し、それらを用いてモンスターの内部へダメージを与えられるようになっている。


 兵学校の学生にも"戦技兵器"が支給されている。"専用"とまではいかないが、数種類の中から自分の特性に合った物を持つのが一般的だ。魔法を主力として用いる学生も、予備の攻撃手段として"戦技兵器"は所持している。


 さて、ここでおれの"戦技兵器"だが───、支給を受けたのは片手剣だ。

 マグナ乗りに憧れを抱いたときから、彼らが良く使うスタイルである剣と魔法の両方を使った戦い方を真似て練習してきた。そのためか、剣の型や立ち回りの成績は悪くないんだ。魔法関係はまあ……。


 今回の実地戦闘実技では、片手剣と盾を持つことになった。やはりおれの"アニマ"が枷になった。

 "戦技兵器"は魔法技術を利用して作られている。あまりに小さく、魔力放出量の少ないおれの"アニマ"では、"戦技兵器"の威力が十分に発揮されない。つまり攻撃力が足りないのだ。

 そのため、おれには盾役(タンク)として敵の攻撃を受ける役割が充てられた。


 この1か月は、そういう意味では楽だった。放課後練習では、まるで空気のように扱われていた。

 おれは壁として立っているだけ。他の4人はコンビネーションなどを練習していたが、おれに与えられた命令は「立っていろ」だったからだ。たぶん、身を隠すための柱という程度の認識なのだろう。

 

 今は存在しないモンスターを想定しての立ち回り確認だけだが、本番になったらと思うと気が重い。

 それこそ"アニマ"の小さいおれが"戦技兵器"の盾を構えたところで防御力の程度は知れている。




「ふっ! はっ!」

 おれは下宿の裏庭で盾に見立てた木板を手に、盾の練習をする。

 "戦技兵器"としての盾は防壁の魔法を展開できるが、おれのアニマでは強度が弱すぎる。モンスターの攻撃を正面からはとても受けとめられない。

 攻撃を受け流す。盾で押して軸をずらす。真正面から受けることが無いように、モンスターの攻撃をイメージして盾を使った動きを反復する。

 学科の復習もそこそこに、おれは毎晩夜更け過ぎまで盾の練習を続けた。








 実地戦闘実技当日、早朝に兵学校に集合した1年次の学生は、数台の大型馬車に分乗して王都の西にある廃墟遺跡へと向かう。

 世界に廃墟遺跡と呼ばれる場所は何か所かあるが、そのうちの一つ「スプリンゲン」へ向かう。そのスプリンゲンへは徒歩なら半日ほどだが、馬車ならば2時間ほどで到着するらしい。


 廃墟遺跡とは言っても、目立って何かがあるわけではないらしい。下草の生えた丘が続く中に雑木林や、稀に何かの建物跡があるくらいなのだそうだ。

 ただ、未発見の遺跡や空間がまだ残されているらしく、そういった場所がモンスターの巣窟になっている場合もあり、油断はできない場所だ。


 今回の考査では、スプリンゲンで小型モンスターを3体討伐してくるというものだ。小型モンスターは熟練の討伐兵団団員なら、単独でも討伐可能な強さだという。


「小型モンスターくらい、俺の魔法なら一撃だな。三発撃って終わりだぜ。」

 馬車に乗ってから、マグダイムがいつも以上に強気な発言を繰り返している。奴なりの不安の現れなのだろうか。

「君一人だけの戦いではない。練習したコンビネーションを活かして頑張ろう!」

 優等生レイヴは模範解答なセリフだ。

「"盾"が時間稼いでくれればOKっしょ?」

 マグダイムの腰巾着No.1のスピネルはニヤニヤしながらおれを見る。おれのあだ名は"盾"になったらしい。

 腰巾着No.2のメイベルは無言で硬そうなパンを租借している。いつも何か食べてるな。


 どうせ、どう返しても面倒な言いがかりをつけてくるだけだ。おれは奴らには反応せず、ひたすら目的地への到着を待った。






 少し開けた草原地帯で馬車から降り、チームごとに集合して整列する。

「ここを今回の実技でのベースキャンプとする。各自、危ないと思ったら無理せずここへ引き返してくるように。」

「場所によっては林などもある。薄暗い場所や狭い場所はモンスターが潜んでいることが多い。無理して入り込まないようにな。」

 俺たちのクラス担当であるオーツ教官から、今回の実地戦闘実技に関する注意説明などがなされる。


「どうせ、各チームにこっそり教官が付いてくるんっしょ?」

「だとしても、僕らが全力を尽くすことに変わりは無い。」

 スピネルの教官を茶化すような発言に、レイヴが正論をかぶせる。


「現在が午前10時だ、タイムリミットは午後3時までだ。それでは解散!」

 一斉に周囲はざわめきながらも、チームごとにまとまってベースキャンプを出発していく。


「僕らも出発だ!」

「いくぜ! おら"盾"! 盾役(タンク)なんだから先頭で行け!」

 おれは仕方なくベースキャンプから離れるように歩き始める。一体どこへ向かえというのか。周囲はどちらを見ても丘陵地。違いとしては疎らに雑木林があるくらいか。

 支給品の方位磁石を確認し、とりあえず西へ向かってみることにした。

以下、参考情報です。


スペックシート:ルクト・コープ


氏名:ルクト・コープ

性別:男

年齢:15

タイプ:近距離戦

装備:

・フラクタス(剣の戦技兵器)

 刃の部分に流動性を持った液体金属を含み、微弱な魔力で金属を流動させ、切断力を上げる。

 刃以外の剣身強度を上げる効果もある。

・クリペウス(盾の戦技兵器)

 波動障壁搭載のシールド。機械的に発生補助を行っているため、細かいコントロールが不要。

・サニタム(魔法効果のある防具)

 厚めに織り込んだ麻でできたシャツ、自己治癒能力を高める効果をのせてある。ただし、効果は「気持ち」レベル。

・革の鎧

 ただの革鎧。動きを阻害しないように面積は小さ目。

・その他、革のブーツやグローブなど

技能:

・付け焼刃の盾使い

・物理魔法(弱)

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