4.魔改造
夜明け少し前。俺たちは第13独立部隊屯所へと戻った。
「俺の容疑は晴れたかな?」
「そうね、付き合ってくれてありがとう、助かったわ。」
たぶん、本気で疑っていたわけではないのだろう。とはいえ、形式上でも容疑がかけられているってのは、いい気分しないからな。
「それにしても、またアルバートはやられたな……。」
「う、うるさい。前回修理の後から、まだ操作系に慣れていなかっただけだ!」
マグナを製造する場合、複数の魔核を組み合わせて造る。そのため、魔核ごとの特性に影響を受ける形で、操作系はかなり癖が強い状態となるのが普通だ。
これは修理の場合も同様のことが言える。先日のアルバートは白い巨人によってマグナを大破されてしまった。この場合、全身のかなりの部分について魔核が入れ替わってしまうことになる。そうなると、以前の状態とは操作感がかなり変わる。まあ、当然の結果だが。
実のところ、アルバートはマグナ乗りとしてはかなりの腕前らしく、操作感が変わっても時間さえあれば慣れることができるらしいが、今回はその時間が無かったということだそうだ。
マグナアルミスという装置の構造上における重大な欠陥だな。
「そういえば、レミエルは問題ないのか?」
レミエルも良く破損しているけども、そういった不便さが見えたことが無い。
「レミエルも修理直後は違和感があるけど、数日で元通りに戻るわ。」
おぉ、ヴェタスマグナは特性の異なる魔核で補填されても、自動で同調するようにできているらしい。さすが古代の遺産。
そうなると、マグナアルミスでがんばってるアルバートは少々不憫ではあるかな、いやそうでもないか。
「俺が修理しようか?」
「ぇっ……。」
露骨に嫌そうな顔のアルバート。そこまで目に見えて難色を示さなくてもいいのになぁ。いや、追々自分で造るときの参考にしようとか、少しくらいしか考えてないから。
「いいわね、面白そう! ね? アルバート?」
「エェェェェェ、エ、ええ……。」
アルバートは妙な声を出しながら頷く。表情は不本意さを全開にしているが、承認は貰ったし、かまわないよな。
「よっし! 早速やってみるか!!」
徹夜からの引き続きでなんだか変なテンションになっている気がするが……、気にしてはいけない。
「だが、その前に、まずは通常修理の見学をさせてもらおうかな。」
「ばかやろう! その魔核は腕に使うんじゃねぇ!! そいつは脚だ!」
「しっかり魔核の感触を診てから使え!!」
「魔核の扱いは積み重ねだ。じっくり魔核に触れて、声を聴くんだ。」
整備班の親方らしいき年嵩人物が数名の職人に叱責をしている。
驚愕の事実。まさか授業で聞いた内容が本当に行われているとは……。いや、違う、信じたくなかっただけだ。魔核に耳を当て、大真面目に声を聴こうとしている様は、なんとも哀愁が漂うな……。
それはさておき、修理作業自体は割と単純だった。予備の存在する両腕パーツを設置し、隙間を魔核で埋める。彼ら曰く、魔核の特性をしっかりと診て、使いどころを選んでいるらしい……。
各部の修理完了後、動作確認としてアルバートが呼ばれてきた。
アルバートはコックピットに乗り込み、両腕を稼動させる。動きが少々ぎこちないのは、修理直後で"操作系に不慣れ"だからだろう。
「ほ、本当に、やるのですか……? 私としてはこのままでも……。」
「彼がバジスのエンジンを直したのは見たでしょ? 大丈夫! ばっちりパワーアップするはずよ!! ね?」
エリーゼが無邪気に無茶ぶりをしてくる。すごい笑顔だ。心の底から楽しんでいるらしい。いや、たぶん性能は向上するだろうけども、断言はできないよ?
エリーゼの向こう側では、諦めの表情でアルバートが立っていた。
俺はとりあえず愛想笑いを浮かべておいた。アルバートの表情が更に悲壮感を増した気がしたが、たぶん気のせいだろう。そんなアルバートとエリーゼを後目に、俺はマグナへと接続する。
情報端末を通じて、マグナの全身を構成する魔核情報が|視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》に表示される。笑ってしまうほど全身バラバラなモンスターの情報が表示されている。
「そういえば、ここは未来の地球なんだよな……。ということは、魔核は"μファージっぽいものの塊"ではなく、本当に"μファージの塊"なのか……。」
だとしたら、モンスターからμファージの塊が出現するのは何故なんだ……?
……。
……。
その問題は、とりあえず置いておこう。
今は目の前にあるマグナの改造だな。
全身のμファージに接続。一旦すべてのシステムをフォーマット。基本システムをクリーンインストールして。
動作をμファージの刺激反射だけで行っているのは無駄が多いなぁ、本当は人工筋繊維を構築するべきなんだが、そこまでやると数時間では終わらないから、動作の仕組みは今のままでいいか……。でも、刺激反射の動作方向くらいは調整しておこう。明らかに変な方向へ動く部位があるし。
あとは、この調整した設定を集約して、全身のμファージが相補的に設定を補い合うようにアプリケーションを設定して……。
こうしておけば、今後修理で適当なシステムが入った魔核を追加されても自動で内部システムを書き換えしてくれるだろう。
「よし、終わった。主に操作系中心に手を入れてみた。ちょっと試してみてくれ。」
作業はそんな短い時間じゃなかったが、アルバートは俺を監視するかのようにずっと背後に立っていた。正直居心地は悪かった。
「……。」
険しい顔のアルバートは、無言でコックピットに乗り込む。
「あ! いよいよ起動ねっ!!」
何かを嗅ぎ付けたのか、ずいぶん前に「仮眠する」といって消えたはずのエリーゼが姿を現す。やはり楽しそうだ。
『で、では……、起動テストを開始する。』
思念波を通じ、アルバートのやや不安げな声が響く。
自分で改造しておいてアレだが、何とも言えない嫌な予感がする……。少し離れておこう。
楽しそうにしているエリーゼも、実際には少々離れて見守っている。
『まずは腕を──、』
途端、激しい破壊音と共に、右腕が天井に突き刺さった。すごい、右腕の残像が見えた……。
エリーゼが腹を抱えて笑っている。
『ぇ……?』
再び右腕が消失。そして背後の壁に突き刺さる。どうやら腕の反応が良すぎて、旋回速度の調整ができていないらしい。
『こ、これは、操作系が……、過敏すぎて──』
マグナが足を上げる……、
「あ、やべ……」
俺は急いで格納庫から出る。次の瞬間、格納庫内から激しい衝突音と、笑い転げるエリーゼの声が聞こえた。
エリーゼさんや、徹夜といろいろな疲れでテンションおかしくなってるんじゃなかろうか。
「……、アルバートは努力家だから。きっとすぐ慣れるよな!! よし! 帰ろう!!」
気が付けば夜もすっかりと明けている。徹夜してしまったな。
まさに朝帰りの様相で下宿に到着すると、レインが無表情で外に居た。す、凄まじい圧迫感だ。
「ぁ……、た、ただいま。」
「……、おかえり。遅かったですね……、とっくに夜は明けてます……。」
レインは表情を全く変えずに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「い、いや、じ、実は、アルバートの──、」
「次は私も行きます。」
「はい。」
レインの圧力に、俺はあっさりと屈した。
スペックシート:アルバート専用マグナ・改
名称:なし
種別:マグナアルミス
搭乗者:アルバート・ワカーロック
全高:5.1m
重量:7.5t
装備:
・高周波振動式大剣
高周波振動により対象を切削する大剣。
・障壁展開式シールド
思念力障壁搭載のシールド。
・鋼鉄製装甲
マグナ専用に鍛えられた鋼鉄で造られた装甲。
・簡易管制システム
機体全体の動作サポートを行うシステム。ルクトが機体修理時に追加。
今後の修復作業時には、自動でシステムの最適化を実施する。
動作系の刺激反射についても、より最適に動作するように管理している。
・動作系
μファージ(μコロニー)は刺激に対して反射を返す(微動する)。その反射を利用し、部位を動作させている。
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
遺跡からの出土品を使用。
諸元:
・PEバッテリー
容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器
最大出力:100kW(推力:20000N)
技能:
・飛刃
大剣に思念力を纏わせ、斬撃と共に撃ち出す。
・光盾
盾の思念力障壁にエネルギーを過剰供給し、瞬間的に小爆発を起こす。
シールドを使った体当たりというわけではないが、シールドバッシュと呼ばれることが多い。
特記:
・管制システムの導入により、操作性や動作速度が格段に向上している。




