2.初授業
本日投稿 3話目です。 3/3
入学の翌日、早速初の授業が始まった。
おれは今、一枚の木の葉を手に校庭に立っている。クラスメイトたちも同様だ。
今年の新入生は60名ほどだそうだ。おれのクラスは20名だ。ということは3つのクラスがあるのかな。
「俺はお前たちの担当教官であるロッド・オーツだ。よろしく。」
坊主頭の男が自己紹介をする。身長は180cmはありそうで、鍛えられた全身はかなり厳つい。
そんなオーツ教官は話を続ける。
「1年次の間は、全ての科目について学んでもらう。本人の自覚する得手不得手と、実際の才能は違う場合もあるからな!」
おれは木の葉から視線を上げ、努めて真剣な表情で教官の言葉を聞く。
「各人の特性を把握した上で、2年次からは兵科ごとに分かれることになる! 戦技科、魔法科、整備科、それと機兵科だ!」
戦技科は戦技兵器という武器で戦う兵科、魔法科は魔法で戦う兵科。そして機兵科はマグナで戦う兵科だ。
おれはもちろん機兵科を狙う。ちなみに整備科はマグナの整備を行う。最悪機兵科がダメなら、整備科もいいかも……。
「それでは、今日は最初の授業だから、魔法を使うための"アニマ"を感じるところからやってもらう。」
周囲にざわめきがたつ。おれも話しかける相手こそ居ないが、もし話かける相手が居れば、「"アニマ"ってなんだ?」と声をかけていたところだと思う。
「はいはい、静かにっ!」
オーツ教官が手を叩きつつ、声を上げる。周囲は急激に静まりかえる。
「お前ら、魔法だからって嫌がるなよー、戦技兵器の扱いにも、マグナの操縦にも魔法は必要なんだからなー。」
"アニマ"というのは、魔法関係の何からしい。魔法だから嫌がっていると勘違いしてるな、教官。
マグナの操作は、魔力を通して行われるらしい。だから機体との相性がしっかりと合えば手足のように動かせるという話だ。いや、おれも実際に見たわけじゃなくて人に聞いた話だけど。
「全員、木の葉は持ったかー?」
全員がなんとなく周囲を見渡している。どうやら全員が木の葉を持っているようだ。木から千切って間もないのか、まだ青々としている。
「それじゃ、一人ずつ手を持って俺がおまえらの"アニマ"を回してやる。その後、木の葉で最初の魔法を試すから、木の葉は捨てるなよ。」
生徒の中から手が上がる。
「教官~、"アニマ"ってなんですか~?」
オーツ教官は質問を受け、一瞬「しまった」といった表情をしつつ口を開く。
「ああ、そうか、"アニマ"の説明を忘れていたな。"アニマ"というのは体の中にある"魔力袋"のことだ。」
教官が自分のお腹あたりをさすりながら話を続ける。
「大体このあたりにあるのが一般的だ。ただ、目には見えない臓器だから、間違っても誰かの腹を割って実際に見てみようなんて考えるなよ。」
教室内の数名が乾いたような笑い声をあげた。ウケはいまいちだ。
「それじゃ、順番に"アニマ"に溜まっている魔力を俺が回してやるから、各自は自分の"アニマ"を感じるように集中しろよー。」
そう言うと、教官は近くにいたクラスメイトから順に右手を握って回る。傍目には握手して回っているようにしか見えない。
「んあっ!?」
「きゃっ!」
「ぉぉ。」
「ぅわ」
クラスメイト達は、教官に手を握られた一瞬後に、三者三様の小さな悲鳴を上げる。
痛そうな雰囲気ではない。なんとなく、気持ち悪いとか、くすぐったいとか、そんな雰囲気だ。
「うげっ。」
すぐ横の奴が少し気色悪い声を出したのち、教官はおれの手を持つ。
「──、ん?」
オーツ教官が小首を傾げつつ妙な表情を作る。今のところ、おれの体に特に変化はない。小さい悲鳴をあげるような要素も見当たらない。
「……。」
教官が難しい顔で集中をし始める。
お、なんか、腹の中心あたりに少しばかりの違和感が……。
何か小さな玉のような物が、シュルシュルと回転しているような感覚だ。玉の大きさは人差し指の先くらいだ。
何とも言えない表情でおれを見たあと、教官は後ろのクラスメイトへと移っていった。
おれは目をつぶり、腹の中で回転している"何か"に意識を集中する。
意識することで、回転を遅くしたり速くしたりできる。回転方向を変えることもできそうだ。これが"魔力袋"なのだろうか。
「全員、"アニマ"を感じることができたかー? まだ良くわからんという者はいるかー?」
教官の言葉に挙手するクラスメイトは居ない。
「いいな、それなら今日のところは基礎の基礎である物理魔法で物体浮遊だ。」
教官が木の葉を片手で掲げながら全員に説明する。
「手のひらの上に木の葉を乗せろ……、いいか、この世界ではどこであっても周囲に精霊が存在している。そこから"魔力袋"に流れ込む"魔力"を感じ取れ。」
おれも手のひらに木の葉を置き、それを凝視しながら、先ほど感じた腹の玉に意識を向ける。
魔力……、あまり感じられないような……、
「感じ辛い者は、目を閉じて集中してみろ。」
教官からの再度のアドバイスでおれは目を閉じた。
腹の玉がぼんやりと小さく意識に浮かぶ。そして体の外から、うっすらと帯状の何かが玉に流れ込むのが分かった。
「流れ込む"魔力"を感じたなら、それを"アニマ"に回しつつ引き込んで凝縮するんだ。」
意識に浮かぶ"アニマ"の中身をくるくると回転させ、毛糸を巻き取るように流れ込んでくる帯を引っ張り込んでいく。
"アニマ"内の密度が上がっていくのが感じられた。
「ある程度凝縮できたら、その魔力の塊を手のひらまで移動させろ……、そして、"浮かばせる"というイメージをしっかりと持ちつつ、木の葉をその塊で包み込んで飛ばすんだ。」
"アニマ"を出た魔力の塊が胴をとおり肩から肘へと移動していく。魔力の塊が通過した場所はほんのり暖かく感じた。
手のひらの上で塊を少し解し、木の葉を包み込む。そしてそのまま飛ばすイメージを描く。
おれは恐る恐る目を開く。
手のひらから20cmくらい上、木の葉が浮かび上がっていた。
「やった……、」
なんともいえない充実感。
イメージして高さを変えたり、木の葉をくるくると回してみたり。思い通りに動いて、なかなか面白い。
周囲のクラスメイトたちの中には、空高く飛ばしてしまって木の葉が戻ってこない者や、木の葉が弾け飛んでしまった者も居るようだ。我ながら、結構上手く魔法が使えてるんじゃないかな。
「これが基礎的な物理魔法だ。これからの授業でより高度な物理魔法や、幻想魔法、顕現魔法なども教えていくが、最大の注意点が1つある。どんなに単純な魔法だろうと、兵学校生徒であるうちは教官が居ない場所での魔法使用は禁止だ。」
確かに、魔法は戦いに使えるような技術だ。慣れないうちはうっかりが大事故なんてことにもなりかねない。
「ただ、"魔力袋"に魔力を凝縮するところまでは行っても良い。むしろ"魔力袋"を鍛えることにも繋がるからな。」
魔法はマグナ乗りにとっても大事な技術だ。空いた時間には魔力凝縮で"アニマ"を鍛えるようにしよう。
兵学校内にカンカンカンという鐘の音が響く。授業の終わりを知らせる鐘だ。
「では、この時間はここまで。それぞれ魔法を停止させたら解散だ。」
評価、感想などいたらけたら幸いです。
次話は明日更新予定です。