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1.上京

本日投稿2話目です。2/3

「ルクトぉー、お昼ご飯持ってきたよー。」


 おれは収穫中したジャガイモを籠に入れ、汗を拭きながら屈んでいた体を起こす。畑のあぜで手を振る幼馴染のリリアが見えた。

 同い年で14歳の彼女も、おれと同じく農作業中だったため動きやすい麻の長袖長ズボン姿だ。


 作業に邪魔な長く明るい栗毛色の髪をまとめ上げ、麦わら帽子に納められているが、一筋垂れさがった前髪が汗で頬に張り付いている。

 その様に妙にドキリとしてしまう。改めて見れば、これまで気にしていなかったが体つきも女らしくなっている。

 

「お、おう。」

 妙に意識してしまい、気恥ずかしくなったおれは、ぶっきらぼうに応えながら目線を逸らす。なんだか負けたみたいじゃないか。



「ちょうど後半分くらいかな。」

 昼食のふかし芋を頬張るおれの横で、リリアは畑を見つつそうつぶやく。

 この畑はリリアのお父さんであるジェイスさんの持ち物だ。こうしていつも作業を手伝う代わりに、食事や駄賃を貰っている。


 おれの父さんは木こりだった。だが、おれが8歳の時に、山でモンスターに襲われて死んだ。

 父さんの死でショックを受けた母さんも、その次の年に病気で死んでしまった。

 一人残されたおれは、近所の人達の農作業を手伝ったりして、暮らしてきた。特にジェイスさんにはいろいろとお世話になった。今のおれが生きていられるのも、ジェイスさん一家のお陰だ。


「ねぇ、ルクト……、本当に出て行っちゃうの?」

 リリアはおれの顔色をうかがうように聞いてくる。

「……、うん。」


 おれは少し言葉を反芻し、続ける。

「今までお世話になったジェイスさんやリリア、それに近所の人達にも申し訳ないと思う。でも、おれの小さいころからの夢なんだ。」



 両親が生きていた頃に見た巨人。選ばれた兵士だけが乗ることができる全身金属の人型兵器。


 "マグナアルミス" 通称マグナ。


 人の手には追えない大きなモンスターと戦うために作られた身長5mの銀の巨人だ。

 鋼鉄で作られた頑丈な鎧の中には、モンスターの核から作られた筋肉が込められており、人とは比較にならないほど力強く、なにより……、



 かっこいい!



 5歳の頃に王都から派遣されてきたマグナを見てから、いつかマグナ乗りになるのが夢になった。今年で14歳になり、ついに国立兵学校の入学年齢になった。


「ジェイスさんも、応援してくれると言ってくれてる……。おれの、わがままなのはわかっている。」

 このままこの"ベネの街"で農作業をしながら暮らし、いつかリリアと……、そんな生活も幸せなんだとわかっている。


「でも、挑戦したいんだ。」

 やらずに諦めることはできない。


「マグナ乗りになって……、そしたら、リリアを──、」

 リリアを見る、リリアもこちらを見返してくる。泣きそうな、それでいて何かを期待するような、潤んだ双眸がおれを捉えている。

「ぁ……、」

 喉からすぐに声が出ない。


「む、迎えに来るから!」

 たまらず顔を逸らしながら、おれは告げた。


 沈黙が痛い。まるで針のむしろだ。


「……うん。」


 おれは残った芋を一気に頬張り、水で流し込む。

「は、早く仕事を終わらせないとなっ!!!」








「忘れ物は無い?」

 リリアのお母さんであるメリルさんがおれに聞いてくる。

 ジェイスさん一家が、王都行きの乗り合い馬車乗り場まで見送りに来てくれていた。


「大丈夫です。お昼のお弁当ありがとうございます。」

 これから王都に向かう途中で食べられるようにと、メリルさんがお弁当を準備してくれた。


「痛む前に食べちゃうのよ。あと食べる前には手を拭くようにね。あっちについたらサンディによろしくね。あと──、」

「母さん、ルクトも子供じゃないんだから。」

 メリルさんは本当にお母さんのように面倒を見てくれた。ジェイスさんもお父さんのように接してくれた。


「ジェイスさん、メリルさん、今まで、本当にありがとうございました。」

 二人にはどれだけ礼を言っても言い足りない。


「必ず、夢を叶えて戻ってきますっ!!」

 わがままを受け入れてくれた人達のためにも、おれは必ず叶えてみせる!


「無理はするなよ。」

「辛くなったら帰ってきていいのよ。」

 二人のやさしい言葉に目頭が熱くなるのを堪える。


「ありがとうございます。」


 先ほどから一言も話さないリリアを見る。



「体に……、気をつけて。」

「リリアも。」


 これ以上は離れがたくなってしまうと感じたおれは、乗り合い馬車に乗り込んだ。




「出発しまーすっ」


 行者が鞭を入れ、4頭引きの大型馬車が動き始める。

 窓の外を見ると、ジェイスさん達が3人で手を振っている。特にリリアは腕が外れてしまうんじゃないかと心配になるほどの振り方だ。

 おれも負けじと手を振る。


「──に──ってきてっ!! ──たい───に──!!」

 リリアが何事か叫んでいるが、馬車と蹄鉄の音にまぎれ聞き取れなかった。でも彼女の必死な様子は見えた。


 街角を曲がり見えなくなるまで、おれは3人に手を振り続けた。






 背の低い草が生え、緩やかな起伏のある道を馬車は進む。乗り合い馬車の道程は順調だ。おれが住んでいたベネの街から一路南西へと進む。

 街同士をつなぐ街道は国の討伐兵団が常にモンスターを討伐しているため、襲われることもない。

 その上、常に討伐兵団の小隊が巡回している。今日も2度ほど巡回中の討伐兵団小隊とすれ違った。小隊には1体ずつマグナが配置されていて、おれはすれ違い様にしっかりと目に焼き付けて置いた。


 おれもマグナ乗りになったら討伐兵団に入って街道警備かな。そこでこれまでに確認されたことが無いほどの大型モンスターが現れて、おれは半壊しつつもマグナでモンスターを……。



 そんな妄想世界に旅立っているうちに、馬車の窓には王都が見えてきた。

 メディオ王国の中心都市 王都シムラクタは山のふもとを利用し、王城に向けて階段状に高くなっていくように建物が立ち並んでいる。高い位置に行くほど、大きな屋敷が多いようだ。

 もちろん最も高い位置にある王城はさすがの威容を誇っている。


 まだ王都の中心街まではかなり距離があるが、建物がちらほらと立っている。もっとも、概ね周囲は畑だが。そんな畑の中を切り裂くように敷かれた街道を馬車は進む。


 道の先には巨大な門が見えてくる。王都中心街を護る外壁だ。遠巻きに見た限りでは小さく見えたが、近づくとその大きさに驚くな。高さは20m以上はあるだろうか……。


 門から中を覗けば、王都中心部に向けて建物の密度は上がり、王城近くには隙間の無いほど建物が見て取れる。その多くが石造りの建物で、ベネの街では数軒しかないようなものだ。


「すげぇなぁ……。」

 おれが住んでいたベネの街も結構大きかったけど、王都はその何倍もの規模だ。



 門をくぐってすぐ、まだまだ王都の中心地とは言えないような場所、乗り合い馬車の降車場はそんな場所だった。だが、既に見たことが無い量の人が行きかっている。


「こんなにたくさんの人、見たことない。」

 おれはあまりの人通りに、しばし人の流れを眺めていた。

 なんだか、人が多すぎて気持ち悪くなってきた……。



「あ、いけね。下宿に向かわないと。」

 出発前、メリルさんから下宿までの地図を貰っている。おれは引っ越し荷物を背負い、地図を片手に王都の街中へ歩を進めた。




 結論から言えば、たかだか3時間(・・・)程度で下宿にたどり着いた。

 少々の遠回りと、何回か人に道を尋ねたくらいで、両足が棒どころか、全身が石の様に重くなるくらいで着けたのだ。上出来だ!


「君がルクトくんかい? 遅かったから心配したよ。」

 目的の建物前には、ダークブラウンの髪を短く切りそろえた快活そうな大人の女性が立っていた。恐らく話に聞いていたメリルさんの又従兄弟のサンディさんだろう。数年前に王都の男性と結婚し、今は旦那さんと一緒に王都で下宿を営んでいるらしい。


「すみません、いろいろ道を見ながら来たもので──、」

「どうしてもこの辺は迷い易いからねっ!!」

 人好きのしそうな笑顔でサンディさんはストレートに痛い部分を突いてきた。はい、すみません、迷いました。


「こ、これからよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそよろしくねっ! 下宿の細かい取り決めなんかは後でまた説明するから、とりあえず荷物おいてきちゃいなよ。」


 サンディさんに促され、二階の一番奥だというおれの部屋に荷物を運びこんだ。


 部屋はベッドとちょっとした机と椅子だけの簡素な物だ。この下宿が少し高い場所にあるためか、窓の外には傾斜に立ち並ぶ王都の建物が良く見えた。なかなか居心地の良さそうな部屋だ。


「明日からはいよいよ兵学校だ。」


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