1.出発準備
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新章開始します。
周囲を警戒するべく、視線を巡らす。
「警戒を怠るな! 大型と戦闘中のマグナに敵を近づけるなよ!!」
今のところ周囲には他のモンスターは居ない。
5mはある銀の巨人2体が、倍はあろうかという黒い巨人に相対している。
黒い巨人が地面の岩を持ち上げ、自身の腰程度しかない銀の巨人目がけて投げつける。
銀の巨人は左手の盾で岩を受け止める。
激しい衝突音を響かせながらも岩は逸れて地面に落ちる。
投擲の隙を狙い、もう一体の銀の巨人が黒い巨人の背後に斬り付ける。
「ギャアァァァァ」
黒い巨人は耳障りな悲鳴を上げ、仰け反る。
先ほど盾で岩を受け止めた銀の巨人も目の前で剣を振り下ろす。その位置はずいぶんと手前で、振った剣は空を斬った……、かに見えた。
次の瞬間、黒い巨人の腹部外殻に一筋の凹みが発生する。銀の巨人が剣閃を飛ばして攻撃を行ったのだ。
銀の巨人2体は見事な連携で黒い巨人を削っていく。そしてついに黒い巨人が倒れ伏す。
瞬間、視界が移動し、今まさに黒い巨人に止めを刺そうという銀の巨人内部へと移動した。
視界には銀の巨人頭部が捉えた映像が映し出されている。
黒い巨人に止めを刺すべく、動きをイメージして銀の巨人を操作する。
黒い巨人の頭部に剣を突き立てる。硬い外殻を破り、大剣が頭部を破壊する。数瞬の後、黒い巨人は溶けるように身を縮めていき、あとには黒い塊だけが残った。
(ふむ、マグナアルミスか。拙いながらもなかなかの戦力になっている。現存のモンスターでは人類の明確な脅威たりえないか……。ならより上のランクを──、)
視界は暗転し、意識は上位のレイヤーへとシフトしていく。
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近衛兵団第13独立部隊に参加するにあたり、兵学校へ欠席の届け出を出した。
『私のスカウトなんだから、近衛兵団に配属ということで"卒業"にもできるけど?』と言われたが、彼女の部下として就職するのは避けたかったので、適当な理由を付けて丁重にお断りしておいた。
いくら兵団が違うとはいえ、国の組織に勤めればエリーゼとも関わることが無いとは限らない。将来の夢を見直した方がいいだろうか……。
でも、俺自身の夢というより"ルクトの夢"だしなぁ。俺が勝手に路線変更して良いものだろうか……。
──、とりあえず、保留しておこう。
大型モンスター討伐任務の予定期間は三日程、その間下宿も空けるわけで、サンディさんにも説明が必要だった。
サンディさんには、兵学校で職場研修学生に選抜されたと説明した。
「さすがルクト君! 毎日遅くまで勉強頑張ってたもんね。」
素直に喜んでくれるサンディさんの反応に、少々心が痛む。
「それで、研修に同行者枠があって、レインを連れて行くことに──、」
「えっ!?」
直前まで笑顔だったサンディさんの顔から笑いが消え、真顔でレインを見る。
「れ、レインちゃん、一緒に行くの!?」
サンディさんの言葉に、少し気圧されながらもレインはコクリと頷く。
「で、でも、兵学校の研修だから危険もあるかもしれないし、」
「あ──、」
「それに、レインちゃん女の子だよ?」
「そ──、」
「誘拐されそうになったばっかりだし、」
「でも──、」
「レインちゃんに何かあったら、私どうしたらいいか……、」
レインに二の句を告げさせないサンディさんの猛攻だ。どうやら誘拐未遂?のためにかなり過敏になっているらしい。
「サンディさんっ。」
珍しくレインが少し語気を強めた。珍しいレインの雰囲気に、サンディさんが黙る。
「私も、コースケが心配です。コースケに何かあったら、私どうしたらいいか……。」
レインの言葉に、サンディさんはハッとしたように口に両手を当て、目に涙を浮かべる。
「そう、そうね、そうよね、レインちゃんもルクト君が心配よね……、」
目じりの涙をぬぐいながら、サンディさんは続ける。
「わかったわ、レインちゃん、いってらっしゃい……。でもね、ここはレインちゃんのおうちなんだから、いつでも戻ってきていいんだからね。」
「──、うん、ありがとう、サンディさん。」
サンディさんはレインを抱きしめ、やさしく声をかける。レインもサンディさんに抱きついて、お互いに抱擁している。
うん、なんだこれ。
数日出かけるだけで、今生の別れでもないんだが……。
「そうだ、レインちゃん、着替えもあまりないでしょ? 旅支度を整えなきゃね!!」
とりあえず納得いただけたようなので、これでいいや。
出立前にしておく準備は多々あるが、中でも重要な準備がある。それはレインの武装だ。
俺としてはレインには安全な後方で待機していてもらいたいと思っている。とはいえ、行き先はモンスターが出現する地区だ。最低限護身用の装備くらいは必要だと考えていた。しかし、レイン本人は前線で戦う気満々のようだ。
ここは近衛兵団第13独立部隊、通称エリーゼ隊の屯所だ。さすが近衛兵団と言うべきか、屯所の場所は王都の中央近くで周囲は高そうな家が立ち並ぶ場所だった。とても兵団の屯所があるような場所とは思えない。
「戦うなら武器が居るでしょ、兵団から支給するわ。」
そんな屯所の中、エリーゼからの許可を得て武器を物色中だ。倉庫には多種多様な武器防具が大量に保管されていた。
「エリーゼ様が直々にスカウトされたとはいえ、お前たちはこの部隊では新参だ。その辺を弁えた行動をだな──、」
倉庫の中、お小言を言いつつも俺たちを案内してくれているのは、アルバート・ワカーロックという男だ。エリーゼ隊の分隊長補佐官、つまりエリーゼの補佐官でマグナ乗りだ。先日、エリーゼと共に現れた苦労人風の男が彼だ。
本人はお首にも出していないつもりのようだが、エリーゼに恋慕もとい崇拝に近いような想いを持っているようだ。お堅い雰囲気だが、あの姫が好みということはドMだな。
ドSの姫とドMの補佐官。いいコンビなんじゃないだろうか。
「とりあえず、防御面でも俺みたいなパワードアーマーを着けたらいいんじゃないか?」
倉庫に並ぶ様々な装備品を見渡しつつ、俺はレインにそう提案した。
「私は全身義体なので、そんな不格好な装備は不要です。」
「ぶかっ──、」
あまりの発言にそれ以上の言葉が出ない。
アレ、そんなに不格好だったか……? 俺実はちょっと気に入ってるんだけど……。
「まず使用武器を決めるべきだろう。防具はそれに合わせた物を選ぶべきだ。」
打ちひしがれる俺を余所に、アルバートは倉庫の一角から片手剣を持ってくる。
「とりあえず片手剣を持ってみろ。」
レインは片手剣を持ち、鞘から抜く。
ナックルガードの付いた直剣だ。飾り気は無いが、造りは良さそうだ。
「それは流動刃だ。魔力を流すことで刃が流動し切れ味が増す。魔力を流してみろ。」
アルバートがレインにアドバイスする。だが、レインは流動刃をしばし眺め、小首をかしげる。
「魔力の流し方がわからんのか? それなら、取っ掛かりとして俺が魔力を流してやるから感覚を──、」
【Willact Field Detected ...】
情報端末がレインからの思念力発生を伝えてくる。
アルバートが話し終わる前に、レインは流動刃に思念力を流し込む。
瞬間、バチンっ!!という音とともに、流動刃の流動する刃が爆散した。
「──掴んで……、」
説明の途中で発生した事態に、頭が付いていかないらしいアルバートが停止している。
先日の魔法での模擬戦でも分かったのだが、魔法と呼ばれる技術も、思念力の一形態であるらしい。
なので、レインのやったことは間違いではない。ただ、レインの体内にあるPEバッテリーからの出力が高すぎたらしい。
「こ、これならどうかな……?」
少々引きつりながら、アルバートはメイスをレインに渡す。
「レイン! ゆっくりな?」
俺はレインに念を押す。レインは頷き、両手で持ったメイスに意識を向ける。
ミシッ
「はい、ストーップ!!」
メイスから嫌な音がしたので緊急中止。なんだかメイスが少し膨らんだ気がするよ?
「ま、魔法での戦い方を、考えてみるか……。」
さすがじゃじゃ馬姫の補佐官。立ち直りが早い。
ということで、倉庫から屋内訓練所へ移動した。
レインは手に木の葉を持っている。あー、あれ兵学校でもやったな。
「魔力の放出はできるのだろうから、いきなりだが魔法の行使からだ。まずは、手のひらの上に木の葉を乗せろ。」
アルバートは木の葉を手に乗せる。
「周囲の精霊から"魔力袋"に流れ込む"魔力"を感じ取れ。」
アルバートからうっすらと思念力が発生しているようだ。
「"魔力袋"から"魔力"を手のひらに移動させ、そして──、」
パァァァン
軽快な音を伴い、レインの手のひらにあった木の葉は跡形も無く消し飛んだ。
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