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10.マグナ適合テスト

「しまったっ、寝過ごした!!」 

 昨日、結局あの後もパワードアーマーの調整などをしてしまい、気が付いたら夜明近くになっていた。

 少しでも……、と床についたのが悪かった。案の定寝すぎてしまった。今日から授業再開だというのに……。


 これまでルクトは遅刻なんてしたことが無かった。なのに、実地戦闘実技開けからいきなり遅刻するのは良くない。

 今のところ俺について怪しまれる要素は無いと信じたいが、ルクトらしい生活を送るためにも遅刻は避けたい。



 この時間では走って行っても遅刻は確定だ。後悔しても遅いのだが──、

 そこで問題のパワードアーマーが目に入る。今は擬態化され、大き目の布の背負い袋のような見た目だ。


 飛んでいけば、間に合うな……。




 王都の街並みを遥か下に見下ろし、俺は波乗りするかのように空を滑る。

 万が一見つかった時のことを考え、パワードアーマーを着こみ顔は隠している。それでも、なるべく見つからないよう、高度は高めに取っているため、王都の人並はゴマ粒のようだ。


「これなら余裕で間に合いそうだ。」

 昨夜ほぼ徹夜で調整したアーマーはいい調子だ。


「どろぼー!!」

 集音センサーが遥か下方の雑踏の中から、緊急性のある音声を拾い上げた。

 |視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》にウインドウが表示され、現場の拡大映像が映る。


 どこかの使用人らしき女性、いわゆるメイド服の女性が地面に座り込み、そこから荷物を手に逃走していく男の姿が確認できた。


 昨日といい今日といい、なんかトラブルを引き寄せる何かがあるんだろうか。

「でも、気づいてしまったら放置できないんだよなぁ……。」

 俺は急激に角度を変え、市街地に向けて急降下する。


 視界の先、拡大映像には先ほど確認した"容疑者"が映し出される。

「ターゲットロック」

 |視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》のレーダー画面にて男の位置が"TARGET"として光点になる。


 TARGETマーカーに向けて急降下、激しい衝突音を立てながらその男の目前に落着した。

 舞い上がる砂埃の中、俺は三点着地姿勢から立ち上がる。


「な、なんだてめ──、もげっ!!」

 容疑者の男からの誰何は無視、問答無用で顔面に向けて束撃弾(スラスト)を発射した。

 男は地面に倒れ、鼻を押さえながら悶絶している。


「警備兵が来るまで大人しくしておけ。」

 地面でもがいている男の頭部を掴み、頭蓋に向け思念波を照射。

「あばばぁうげぇ」

 男の思考を思念波で少々掻き乱し、体を麻痺させた。昨夜義手のフィールド発生器を調整して編み出した新技だ。

 非殺傷装備なので死にはしないだろう……、たぶん。



「あー、そこの人ぉー!!」

 丁度そこへ、ひったくり被害者の女性が駆けてくるのが見えた。


 おっと、そういえば時間がないんだった。

「では、さらばだっ!!」

「あっ!!」

 俺は急速離陸から、出力全開で高度を上げた。

 女性が何やら叫んでいたようだが、時間が無いので申し訳ない。








「危ないと感じたら俺が止める。改めて言うが、使っていいのは魔法だけだ。武器などによる直接攻撃は禁止だぞ。」

 なんとも既視感のある状況だ。俺は今、兵学校の校庭に立ち、教官から模擬戦のルール説明を受けている。


 ギリギリ遅刻は回避し、ちゃんと朝から授業に参加したわけだが、朝一から魔法の授業で、加えて再びの模擬戦だった。



 今の事態に呆れながら、俺に相対して立っている男を見る。


 今回もマグダイムがそこには居た。相変わらず俺を見下すようにニヤついている。

 相変わらずマグダイムは模擬戦相手として俺を指名してきた。


「それでは、模擬戦初め!」


 魔法の授業だし、ここは魔法を使うべきだな。確か"魔力袋(アニマ)"の魔力を回すんだったか。

 えっと、どうやるんだっけ?


 マグダイムは既に魔力凝縮を終え、右手を翳す。

火炎放射(ラディ・フラマーエ)!!』

 前回同様、マグダイムの右腕から炎が噴出し、俺に向けて放射される。


 その瞬間、|視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》に【Thought transmission Detected ...】と表示され、視界の隅に小さなテレビ画面のような枠が表示される。

 【Thought View】と記載されたその枠には猛る炎が映し出されている。が、俺のメインの視界には手を翳し、得意な顔でこちらを見ているマグダイムしか見えない。


 そうか、幻想魔法の思念伝達だけを切り分けて表示しているのか。さらに思念伝達による暗示効果もカットされているのか、熱さも全く感じない。


 俺が全く動じないことにマグダイムが動揺している。

「っ! ルクトのくせに!! これならどうだ!!」

 焦りと怒りの入り混じった表情でマグダイムが吐き捨てる。


火炎放射(ラディ・フラマーエ)ぇぇぇっ!!!!』

 マグダイムは左手からも炎を噴射した。【Thought View】で見ると俺の周りは火の海だ。さすがにこれの状況で余裕なのはおかしいか。

「あちち」

 俺は顔を庇うように腕を前で交差する。

【Willact Field Generator ON】

「あ。」

 右腕からフィールドが発生し、マグダイムの放った火炎の思念が拡散消滅した。


「なっ!?」

 得意満面だったマグダイムの表情が一瞬にして抜け落ちる。次の瞬間、それは怒りへと変わった。



「てめぇ!!」

 激しい怒りを浮かべつつ、マグダイムは再び魔力凝縮を始める。


 怒らせるつもりは無かったんだけどなぁ。適当に負けて終わらせようと思っていたんだが、うっかり反抗してしまった。

 気にしてないつもりだったが、以前たびたび痛い目を見せられたことを意外にも根に持っていたようだ。

 だが、とりあえずここまでにして、次の魔法で負けておこう。これまで模擬戦全敗のルクトが、急に大活躍を始めたらおかしいしな。


「締め上げてやる!! 『思念動力(マーヴェレ)』!!!」

 マグダイムが俺に向けて右手を翳す。その瞬間、体が拘束されたように動かなくなる。


「ぉぉ、これすごい。」

 身動きが取れない。結構強力な念動力だ。

 |視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》に【Willact Field Detected ...】と表示され、システムが自動で打ち消そうとするのを食い止める。


「ま、まいったー」

 俺が発した降参の合図に、マグダイムは一瞬鼻を鳴らし、念動力を解除した。

 身体に自由が戻った。ふぅ、何とか無事に終わった。


 一息ついた瞬間、

【Willact Field Detected ...】

 不意を突いた思念力(ウィラクト)の接近に、右手を振り上げ同威力の思念力(ウィラクト)で相殺した。


「あ──、」

 視線の先には、驚愕に彩られたマグダイムが立ち尽くしていた。

 こちらが負けを宣言したというのに、最後に不意打ちの一発を入れてきたらしい。そんなことするから、思わず打ち消してしまったじゃないか。



「……、あー負けたなー、よし、自主練しよ!!」

 俺は逃げるように校庭隅のいつもの場所へと駆けた。






 俺にとって本日最大のイベントはこれだ。


 ──マグナアルミス適合テスト──


 マグナアルミスは約5mほどの銀の巨人だ。内部に人が乗り込んで運用する。

 鋼鉄製の装甲板に覆われ、内部にはモンスターの魔核を利用した駆動系が搭載されている。


 当然、5mもの巨体を稼働させるためには多量の魔核が必要となる。

 マグナは1体ずつ王都にある工房で組み上げているらしいが、素材である魔核の使用状況は各個体で少しずつ異なるため、個体ごとに性質の差が出る。


 魔法適性がどれだけ高くても、操者と機体との相性が合わないとまともに動かすことはできないらしい。

 逆に、魔法適性が低くても、相性次第では操者になれる可能性がある。


 新しい機体がロールアウトになると、操者を探すために兵学校に持ち込まれ、学生の中から適合者を探すテストを行う。

 それがこの『マグナアルミス適合テスト』だ。



 実は、入学してからテストは3回目だ。

 しかし、1回目、2回目共に、マグナは微動だにしなかった。いや、動かすどころか、マグナとの繋がりすら感じられなかった。

 当時、この結果にかなり落ち込んだ……、ルクトが。



 だが! 今回の俺は違うぞ!


 実地戦闘実技で入手した約10cmの魔核を情報端末(メディア)でスキャンしたところ、【μコロニー】と表示された。μコロニーというのは休眠状態のμファージ結晶とのことで、どうやら情報端末(メディア)は魔核をμファージの塊と認識したようだ。


 実際、情報端末(メディア)で魔核にアクセスしたところ液体状に変化し、圧縮格納することができた。

 情報端末(メディア)で魔核を操作できるなら、魔核をくみ上げて構築されているマグナも操作できるはず!


 俺自身、そこまでマグナに固執するつもりはないのだが、ルクトの想いも俺の中にはあるし、何よりやっぱり大型ロボットはロマンだ! 乗れるものなら乗りたい!!



「次、ルクト・コープ。」

 思考に没頭しているうちに、自分の番が回ってきたらしい。


 自分の目の前には、銀の巨人。

 四つん這いの状態で胴体部が前後に展開し、内部の座席がせり出すように露出している。

 座席は跨いで乗るタイプで、バー形状のハンドルまで付いている。まさにバイク。


「早くしなさい。」

 整備士らしき人に怒られてしまった。


 俺は座席に跨り「キャノピー閉鎖」と書かれたトグルスイッチを入れる。


 ギチギチとボディが稼働し、座席が格納されると同時に胴体が閉鎖。併せて上体を起こしてマグナが立ち上がった。

 マグナから外の景色が思念波で送られてくる。幻想魔法と同じ原理だ。


「よし、ネットワーク検索。」

 マグナを構成する魔核とネットワーク接続を試みる。


【Willact Network Online ...】


【Terminal Detected

 ・cm50ehte 2153 cells

 ・b8okci10 1055 cells

 ・pcwl26zi 10585 cells

 ・my31oiqp 895 cells

 ・s02llocz 8192 cells

 ・qwi8x0ml 2812 cells

 ・pqo1lnhc 15 cells

  ……、】


「──え?」


 |視界投影型ディスプレイ《インサイトビュー》上のメッセージは飛ぶように上に流れていき、ズラリと100行以上の文字列が並ぶ。

 その上、どれが何なのかサッパリわからない。


 とりあえず適当に選んで接続してみる。


【connect qwi8x0ml

 main(); 】


「おわっ!」

 外の景色が急激に旋回し、90度横を向いた。どうやら首が回転したらしい。


【connect izop51rq

 main(); 】


 キャノピーの下側から音がする。どうやら右足を上げたらしい。


「こ、これ、もしかして全部どこかの動作部位を現しているのか……?」

 しかし名称がアレすぎて全然わからん!!


 とりあえずポチポチとあちこち起動してみる。

 キャノピーが激しく揺さぶられるほど、ドタバタとマグナは暴れているようだ。



「こらぁ!!! 止めなさい!!!」



 俺は正規兵の操るマグナに取り押さえられ、キャノピーから引きずり出された。

スペックシート:ルクト・コープ(識名 孝介)


氏名:ルクト・コープ(識名(しきな) 孝介(こうすけ))(ソルドレッド)

性別:男

年齢:15

タイプ:中近距離戦

装備:

・PEバッテリー

 高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。

 無線給電によりエネルギー量は自然回復する。

・義手義足

 チタン合金による骨格、人工筋繊維による作動、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。

 【思念力(ウィラクト)】という名の新物理力を発生させる装置が搭載されており、それにより飛行や衝撃波の発生が可能。

・圧縮格納μファージ

 機能を停止し、体積圧縮されたμファージ。体内や義手義足の余剰スペースに格納保存されている。

 そのままでは使用できない。使用する場合には解凍展開、機能の再起動を行う必要がある。

 展開すると黒い粘液体で広がる。展開状態であれば装備の設計変更、再構築など、様々な用途に使用可能。

・パワードアーマー

 チタン合金外骨格、内部に人工筋繊維によるパワーアシストシステムを搭載した全身鎧。

 頭部もフルフェイスでカバーするため、外からは顔が見えない(中からは各種センサで外の様子がわかる)

 艶消し黒(マットブラック)でカラーリングされている。

・麻の上下

 住民がよく着ている一般的な服装。

諸元:

・PEバッテリー

 容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW

・フィールド発生器×4(両手両足の義手)

 最大出力:72kW(推力:1600N)(4基合計)


技能:

・飛行

迫撃掌(アサルト)

 ウィラクトによる衝撃波。近距離用であるため、射程は数十cm。

束撃弾(スラスト)

 ウィラクトによる衝撃波。高収束による遠距離用。射程は数m。

 スラストタイプは距離で威力が減衰するため、攻撃力は迫撃掌(アサルト)の方が高い。

思考攪乱(パラライザ)

 ディール粒子かく乱により思考混乱。一時的な全身麻痺を起こす

 相手の頭部付近に直接触れる必要がある。

拒絶障壁(ウィラクトシールド)

 思念波を球状に展開し、防御用の障壁を生成する。物理的攻撃や思念力攻撃を防ぐことができる。

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