PHASE-1461【新たな使用法の可能性】
「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?」
創傷だらけの翅と体。
激痛に襲われながらも声を張り上げるモスマン。
激痛の声音には困惑も混ざる。
自身の繰り出した鱗粉の効果が見えないからか、丸く赤い目は忙しなく動き続けている。
「簡単な話だよ。俺は毒に対して完全耐性を有している。だからお宅の鱗粉は一切通用しない」
「な!? ばぁかなぁ!?」
地龍パルメニデスから賜った、角の一欠片からなる乳白色の曲玉。
ゴロ丸を召喚するための使用が殆どだけど、装備者をどんな毒からでも守ってくれるという効果も有している。
「初対面の相手にはお互い警戒すべきだったな。こっちに効果が出なかったから怪訝にもなったんだろう? その時に考えを改めるべきだったな」
必勝のパターンだからこそ、貫きたかったってのもあるんだろうけどな。
「くっそぉぉぉ! がぁっ……」
語末は必死になって絞り出す。
つまりは断末魔。
事切れる最後、体毛に隠され続けていた口を大きく開けば――吐血。
通路から力なく落下していく。
落下するモスマンを回収するために編隊を組んでいた二人とそれ以外が動く。
見ただけで絶命しているのは分かるだろうけども、さっきと違って遺体回収に動く辺り、モスマンはそれなりの階級にいたのかもな。
連中の動きを尻目に、
「大丈夫かコクリコ」
「ええ、おかげさまで動けるようになりました」
四つん這いの姿勢から立ち上がるまでには回復している。
コクリコの左肩に乗っかるミルモンも、問題ないことを伝えるために笑みを向けてくれた。
項垂れていた羽と尻尾にも活力が戻ってきている。
アンチドーテの即効性。ゲッコーさんの酒蔵で日々、生産と発展に尽力してくれている面々には感謝しかない。
立っている姿が些か不安定なのが心配だけども――。
「心配はいりません。それよりもこの好機を逃してはいけません!」
何も問題ないというのを語気と動きで示し、俺より先に通路を駆ける。
相手の視線がこちらに向いていない隙をついて駆け出すが――、
「ドゥルセル殿を倒すとは!」
ここでようやくモスマンの名前を聞くことが出来た。
遺体となったモスマンことドゥルセルを抱えつつ、こちらへと向けてくるのは遠距離からの魔法。
ドゥルセルは功績目的で止めたが、その当人の命が事切れたことで元々の手段へと回帰。
強者が倒された事で接近戦は一切仕掛けてこず、徹底してこちらの足元を遠距離から狙ってくる。
魔法による通路破壊と、矢による前進の妨げ。
マスリリースで対抗。
コクリコも対応してくれるが、未だ本調子じゃないようで手数は少ない。
それを補ってくれるのはシャルナ。
上方の連中を相手にしながら、こちらをプロテクションで掩護してくれる。
でも……、
「中々に弾幕がエグいな……」
防ぎきるのも時間の問題。物量を迎撃できるだけの手数がこちらにはない。いずれは通路に着弾する。
そう思っているところで、
「プロテクション!」
シャルナではない声に俺は舌打ち。
俺達が目指す屋根付きの出入り口部分で一人が障壁を展開。
まったくもって嫌らしいが手段としては適当。
「頭上を失礼するよ」
「いいでしょう」
と、ここで前を走るコクリコを跳躍で飛び越え、
「アクセル」
足並みを揃えたかったけども、ここは立ち塞がる相手を優先しないとジリ貧。
「突破など絶対にさせるかよ!!」
こちらにプレッシャーを与えるかのような恫喝。
障壁の奥側には進ませないという気迫があるも、
「その程度のうっすい障壁なんて目じゃねえよ。周囲を見て見ろよ。自分のが恥ずかしくなるくらいの立派なプロテクションがあるぞ」
シャルナのを手本にしろとばかりに発せば、
「黙れ! 進ません!」
「いや、通らせてもらう」
薄い薄い。
なんとも薄い。
残火を鞘に収めて右拳を振りかぶる。
ガルム氏のオーラアーマーの奥の手である豺覇に比べれば、なんとも頼りない。
豺覇を纏う強者に届いたんだから――、
「問題なし! ボドキン!」
眼前のプロテクションへと右拳に留めたピリアを放出して叩き込む。
インパクトと同時に、
「ぎゃん!?」
と、上げつつプロテクションを展開していた兵士が衝撃で吹き飛ばされ、通路を勢いよく転がっていく。
余裕で貫けた。
貫くと同時に他愛なく砕けて霧散していく障壁。
「コクリコ」
「分かってま……」
振り返り名を発せば、返ってくるのは途中まで。
爆発音と共に俺とコクリコの間にあった通路が破壊され、
「コクリコ! ミルモン!」
コクリコの肩に乗っていたミルモンは懸命に羽を動かして宙に留まるも、コクリコはそうはいかない。
「シャルナ! オムニガル!」
名を出しても、シャルナは包囲された状況。
「ごめんムリ……」
後者からは申し訳ない声。
体中を襲う寒気。
「くそ! こうなりゃ!」
飛び降りてコクリコを救出したところでプレイギアから――、
「心配ご無用」
「…………ふぇ?」
「この私に不可能はないのです」
「…………ふぁ!?」
何それ!
歌舞伎舞台のセリから役者が登場するかの如く、ゆっくりと上がってくるコクリコ。
俺と同じ目線の高さまで来たところで、
「なんで宙に浮いてんだよ!?」
と、驚きながら質問する。
「いまはこれが精一杯ですけどね」
いつもよりも些か弱々しいガイナ立ちで返してくるが、俺が求めている答えではない。
空中を踏みつけるような動作を一度行い、俺の立つところへと着地。
「え、なに? コクリコ、いつの間にレビテーションを習得したの?」
――踏みつける動作からして、ガルム氏が見せたファースンとアンリッシュの両ピリアを応用した芸当にも似ていたようだったけど。
「そうならばいいんですけどね」
と、言えば、食指を下に向けて種明かし。
あ、なるほど。
分かってしまえば得心もいく。そういった使い方も出来るよな。
先ほどまでコクリコが空中で立っていた部分には、アドンとサムソンが留まっている。
二つのサーバントストーンを足場にして、落下を回避したんだな。
起動させれば常に空中に浮いているからな。足場としても活用できるわけだ。
氏族筆頭であるカトゼンカ氏が有する家宝は――伊達じゃない!
使い方次第では、操者にこういった恩恵も与えてくれるんだな。




