第54話
天候が嵐の予感。
航海士のデリラの指示で、船窓を全て閉め帆を下ろす。
船が揺れて調理できない事態に備え9人は食事を早めに済ませる。
メーアがテキパキ食事の支度をして白パンと目玉焼きと干し肉と野菜のスープと果物をテーブルに用意してくれて、みんなで急いで食事を済ませる。
魔動機械の操縦席にいたアイオラが叫んだ「あの~前方と後方に巨大生物ですぅ」
これから大嵐が来るーーところが、その状況で、40メートルはあるモサザウルス二匹が現れた。
「この前の仕返しですわね」とデリラ。「ちっ」とエレオノーラが顔をしかめる
アイオラが「あのー任せてくださいぃ」と叫ぶ。
アイオラは機械を操作して魔動大砲を装填し左舷右舷5門づつ10門の砲門を開いて迎撃するのだが。
砲門を開くと荒れている海から海水が容赦なく流れ込む。
眼の前のモサザウルスに向かって船を回転させて、狙おうとするが、モサザウルスは前方と後方の死角にいて、左舷と右舷の砲門の攻撃範囲に入ってこないーーーー知恵があるのか?
モサザウルスは前方と後方からその体の半分の巨大な口で魔動帆船の船体をかみ砕こうとした。
ガリガリガリガリ!! 金属と巨大ワニの歯のこすれる耳障りな不協和音が頭に響いて来る。ガリガリガリ!!
ガリガリ!! 船が軋む ギシギシギシ!!
「ヤバイ!!」
エレオノーラがデリラに「あたし行くよ!」と告げると外に飛び出した。
「あちきも行くだわさ!」とアチキがそれに続く。
「前方を狙うので後方をお願いしますぅ」とアイオラが叫ぶ。
「おーけー」「了解」「わかったワ」と火力たちが飛び出す。
座席に座るアイオラ以外が全員後方に集まった。ハルナは物陰で回復魔法の呪文を唱えて待機し
白銀の盾の隙間から戦況を見守る。
エレオノーラがハイジャンプして右目に大剣を突き立てた。
フレデリカが戦いを煽る踊りを踊った。全員の攻撃力と魔力があがった。
後ろのモサザウルスは、痛さで暴れ狂う。デリラが呪文の詠唱を始めた。
アチキが雪の結晶を撒き海面を凍らせる。
しかし嵐で風が強くて、海が荒れ凍った海面はすぐにひび割れ海水に戻る。
「空中の足場を頼む!」とエレオノーラ。
フレデリカが身交わしの踊りを踊る。全員の身交わし率が上がった。
リオナの鞭が白く輝いている。リオナがこわごわ鞭をモサザウルスに向かって振るうと、鞭は縛り打ちになり、一瞬モサザウルスの動きを封じた。「わたしでも……やった?!」
人狼メーアは大きく自分の爪を研ぐと、両手両足の爪が金色に輝き、その4つの爪で巨大ワニの皮膚を切り裂こうとするが硬くて切り裂けない。
メーアが「ダメだ! 腹の中から行くわ」と叫んでモサザウルスの口の中へ飛び込んで飲み込まれた。
アチキが作った足場からエレオノーラが左の眼へジャンプして、大剣を突き立てた。
「ぐぎゃああああー!!」
後方のモサザウルスは左右の眼を潰されて、痛みで狂ったように暴れまわっている。
尻尾でリオナが弾き飛ばされて海に落ちるところをエレオノーラがジャンプして身体を掴み、船の上に放り投げる。自分はザブンと海に落ちてしまった。
海の中から、モサザウルスの腹の弱い皮膚を狙い、剣で切り裂く。ドウルガの魔剣が無いので硬い巨大ワニの鱗は切り裂けない。ぶよっとした皮膚を切り裂いた。うまく血管を切り裂いた。まるで土管が破裂したように、血がゴボゴボと流れ出る。
強い風の中を白鳥に乗ってアチキはエレオノーラを海の上から必死で探している。
ジレッタが左手を挙げると「大弓!」と叫んだ
ジレッタの左指のガラスの指輪が光り左手に大きなガラスの弓が現れた。
その弓を持って、「光の矢により! 皮の手袋よ、怪物の素早さを盗め!」と叫んだ。
ジレッタが光の矢を撃つごと、モサザウルスは動きが遅くなっていった。
デリラは「業火!」と最強の炎呪文をぶつけた。
海水が入るので右舷の砲門を閉じて、アイオラは左舷の砲門だけで前方のモサザウルスを狙う。
船が波で揺れて前方のモサザウルスが左舷の魔動大砲の射程に入った。
大砲発射ーーどどーーん!どどーーん!どどーーん!どどーーん!
全弾命中したが、前方のモサザウルスは虫の息になりながら、なんとか魔動帆船の船体を鋭い歯で噛み砕こうとして止めない。
「あ~ダメですぅ。そんなことしちゃぁ」とアイオラが叫ぶ。
「アチキ、前の奴にトドメ差すよ」エレオノーラが海面から躍り出ると、叫んで、甲板を走る。
「はいだわさ」とアチキも嬉しそうにエレオノーラの後を走る。
そのとき、すでに前方にいたリオナがへっぴり腰で、白く輝く鞭をモサザウルスに振るった。
ビシーーッ!!
鞭は地走りとなり、モサザウルスの心臓を直撃。
モサザウルスは息絶えて白い腹を見せて荒れる海に浮かんだ。
「やったね♪ リオナ」とエレオノーラは叫ぶと、後方のモサザウルスに走って戻る。
「ええええええ、初心者で初戦なのに……倒せた?!」とリオナは眼を白黒。
突然、後方のモサザウルスも、苦しそうに呻くと腹を上にして荒れる海に浮かんだ。
その腹を裂いて、中から金色に輝く爪が現れて、人狼メーアが飛び出した。
「ごくん。良い血の味ねー!!」と舌なめずりをしている。
モサザウルス二匹を倒した。
が、長時間砲門を開けていたので、かなりな量の海水が船内に入り込み、
船倉の一番底にある排水ポンプが作動して、海水を海へ吐き出している。
全員は、ホールに集まって、身体を拭き、着替える。
海はまだ荒れ続けているが、ようやく9人に笑顔が見えた。
ところが、船のホールに「ファンファンファンファンファン」と危険報知器が鳴った。
アイオラが「あ~~~ぁ、左舷の大砲打った後、砲門閉めるの忘れてましたぁ~」とトコトコトコと魔動機械の操縦席に走って行った。
「キャーーー」「キャーー」「キャーーーアァ」
左舷の砲門から海水が居間のホールにまで流れ込んできた。
着替えたばかりだが、また海水にずぶぬれになって、全員でバケツリレーで海水を船外に汲みださなければならなくなった。