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第53話

 ビューティアイランドに海賊の大規模な襲撃があり、エレオノーラがドウルガの魔剣を盗まれた日。

 エレオノーラは絶不機嫌だった。

 ビューティアイランドでは以前より予定されていた大舞踏会が、その襲撃のあった日、滞りなく開かれた。

 デリラはこの舞踏会に参加したくて、滞在を一日引き延ばしていたので、安堵した。

 そして他の女の子のクルーたちも、自分の連れとして参加を誘った。

「着ていくドレスなんて無いよ」と言うみんな。

「わたしの部屋にある旅行用のタンスはわたしくしの家の宮殿の自分の部屋のドレスのクローゼットと中身を共有しているのですわ。みなさんもわたくしのお友達ですもの、わたくしのお洋服をご自由に御貸しします。お好きな服を着用くださいませ。すべて魔法の服なのでフリーサイズですわ。メガトングラマーのジレッタちゃんでも着れるのよ。アクセサリーも御貸しします。踊れない人は魔法をかけた踊る靴も御貸ししますわ。みんなで楽しみましょ。おほほほ」

 人狼のメーアも完璧な人間モードで参加。一人、踊れないしダンスに興味もないエレオノーラは、ドウルガの魔剣を失くして気分が落ち込んでいるので、行く気はなかった。「わたしは行かない。あんたらだけで楽しんできな」とこともなげに言うが、ジレッタや他の全員が、「こういうときこそ、人の輪の中に入るべきだワ」とみんなでエレオノーラを引き摺って行った。

「……うううう……踊れないし、ドレスなんて着たくもないのに……」エレオノーラは迷惑顔で他の8人に強制的に連れて来られて参加させられた。

 18歳のハルナも生まれて初めてのドレスUPでドキドキしている。--まさか僧侶の自分がこんなとこで運命の初恋とか?!--

 デリラとハルナがエレオノーラをドレスUPして連れて来た。

 リオナはデリラにアクセサリーもすべて選んでもらって、「幸せ過ぎて、もう信じられない♪」と言う顔で目がキラッキラッ。

 180キロ180センチの『ステラ&ハミル商会』財閥の令嬢ジレッタは自前のドレスもアクセサリーも持っている。デリラの好意には丁重に感謝して、自前のドレスで参加した。

 大舞踏会の主催者はこの島の持ち主、ドワニール伯爵。

 貴族だが、大商人であり、大錬金術師で、大魔法使いで剣士である、頭の切れる50歳のデブの中年の大富豪である。王族の姫君を正妻にしている。

 シーフィルド傭兵隊長は、そのドワニール伯爵が娼婦との間に作った庶子である。

 23歳のイケメンで、表面上は礼儀正しいなかなかの美男子である。この大舞踏会で彼は、昨日晩の大活躍もあり、招待客たちの話題の中心であった。


 デリラに強制的に魔法のかかった踊る靴を履かされたエレオノーラは、むすっ!とした顔で、隅っこの椅子に座り、会場に背を向けて壁を向いて、「誰も話しかけるな!」という感じでドワニール伯爵の大邸宅のダンスホールに、違和感丸出しで頬杖をついて座っている。


 美しい若い女性たちに囲まれたシーフィルド傭兵隊長が、不機嫌最高潮のエレオノーラに声をかけた。

「僕と踊ってくれませんか?」

 エレオノーラはチラとシーフィルドを見た。完璧なボディにデリラとハルナが選んで着せたドレスにUPした髪型。足だけカタカタと魔法の踊る靴を履かされているので動いている。

 椅子に座ったまま鼻くそをほじっている美少女のエレオノーラにシーフィルドはめげずにまた声をかけた。

「僕と踊っていただけませんか?」

 エレオノーラはいきなりボカーン! と壁を殴った。美しい磁器の化粧タイルをはめ込んだ豪華な壁に大穴が開き、天井に吊るされた幾つものシャンデリアが揺れてパラパラと天井から建材が落ちた。

 楽士たちは軽快なワルツを奏で続けているが、数百人の踊っていた人々は、ギョッとして踊るのを止めた。

 一瞬、ダンスホールの大広間に凍り付いた空気が流れた。

 三つ編み海賊団の八人の女の子クルーもみんなドン引きになった。

 不機嫌顔のエレオノーラは、そのまま、ぶっちょ面のまま、カタカタ踊り続ける靴を履いたままノッシノッシとドアを開けて正面階段を降りて、美しいロングドレスの裾を引き摺り、船に帰ってしまった。


 そのまま、みんな、その光景は見なかったことにして、楽しい大舞踏会は、そのまま夜明けまで華やかに続いた。


 そして舞踏会がお開きになったあと、九人の女の子クルーは気分を一新し、魔動帆船は、ビューティアイランドを後にした。

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