第52話
ビューティ島で停泊中のこの夜、大事件が二件起きた。
ビューティ島の高級武器屋に入って、リオナとエレオノーラが女性冒険者の装備を物色していた時、ベテランの店員たちは、エレオノーラのドウルガの魔剣を見て、息を呑んだ。
「おい、あの少女剣士の持ってる大剣、あれ……神話クラスの剣じゃないか?!」「ああ、すごい剣だな……もしあれに値段を付けるなら、王国が一つ買えるくらいの値段が付くだろうなぁ」「そうだな。今、このビューティ島にはいろんなお宝があるけど、あの剣が今この島にある最も高価なお宝だな」と目利きの武器商人の店員たちは囁き合った。
この夜中、ビューティ島に大挙して、五隻の巨大な海賊船が押し寄せた。
四隻には、手練れの一隻に二百人の海賊たちが乗り、一隻にはオーガたちが五十人乗っていた。
海賊たちの何十人かは、魔法使いや魔法剣士だった。
その八百人とオーガ五十人が、夜のうちに、ビューティ島の美しい港に侵入し、交易船のお宝や、高級商店街や、北側にある貴族や王族の別荘を略奪しようとした。
しかしこのビューティ島にはシーフィルド傭兵団という有名な大勢の魔法戦士や魔法使いをかかえる強い傭兵団千人が、専属に雇われて守っていた。
リーダーのシーフィールドは魔法も使える戦士であり、戦い慣れた有名な戦士だった。
クリスタル・ブラスターも過去に戦ったことのある猛者だった。
港の防衛責任者であるシーフィールドは事前に『海賊襲撃』の情報をどこかから手に入れていて、部下を配置して待ち構えていた。
千人の部下は、速やかに行動し、四隻の八百人の手練れの海賊たちと、五十人の海賊オーガたちは、町に火を放ち、数名の住民を殺害したが、それ以上の被害を出すことなく、最強を誇るシーフィールドの傭兵団によって、短時間の激しい戦いの末に速やかに殺戮し尽くされ鎮圧された。
襲撃した海賊団はほぼ皆殺しにされ戦いは終了した。
魔道帆船の九人の女の子たちは熟睡して眼を覚ますことなく、朝まで海賊の襲撃があったことは気づくことは無かった。勘の鋭いメーアすら気づかなかった。
朝、九人は大騒ぎの港に驚いた。
シーフィルドや部下の傭兵たちに笑われた。
「強いと言っても、女の子だな。お嬢ちゃんだよ。あっはっは」
エレオノーラは言い返すすべもない「……」
魔道帆船で朝、起きて、エレオノーラは枕元に置いていた『ドウルガの魔剣』が無いことに驚愕した。
「どうしよう……ばあちゃんに何て謝ろう……」
エレオノーラは船の食堂で居間のホールにある魔法の鏡で、直ぐにマダム・ブラスターに連絡をとった。
「ごめんね。ばあちゃん……」しょげきったエレオノーラ
「件の魔剣はお前以外の誰も手を触れることのできない剣なんだが、どうやって持ち去ったんだろうね。まあ、お前以外、あの剣を使えるものはいない。手に入れても仕方なかろうに」とマダム・ブラスター
「とりあえず、おまえの所持している私の作った他の大剣を使っときな」と返事をした。
「うん、ほんとに、あんなに大事なものを失うなんて、ごめん……」と無念な思いで謝るエレオノーラ。
もう一日、三つ編み海賊団の女の子たちは、九人で港や町を捜した。リオナが道案内をする。しかしドウルガの魔剣を発見することも、情報を掴むこともできなかった。
シーフィルドや部下の傭兵たちにさらに笑われた。
「ぶっ。自分の剣を盗まれたぁ?! ……あり得んな……強いと言っても、女の子だな。お嬢ちゃんだよ。あっはっは」
エレオノーラは言い返すすべもない「……」
エレオノーラはばあちゃんの作った他の大剣を装備した。
エレオノーラとマダム・ブラスターとのやり取り中、アトリエに
クリスタルが居合わせた。
エレオノーラがドウルガの魔剣を失った、と聞いて、オロオロ
「俺の妖剣ダイモスをエレオノーラに貸してやりたい」と言い出した。
「……自分の身に起きたことは自分の責任だ。あの子は自分の知恵で戦うさ」と冷たいマダム・ブラスターに自分のイライラをぶつける。
「ドウルガの魔剣を持っているから、あんな危険なガウス王の依頼を頼んだんだ。本来、俺が自分で行くべき仕事だ!」とクリスタル。
「このダイモスをエレオノーラに使わせたい」と言い出すが、マダム・ブラスターは「今、おまえは妖剣の霊との契約関係で使ってるんだよ。その剣は。お前に自分の娘に貸す権利なんてないね。あの子はあの子でドウルガの魔剣なんて無くても生き抜いて来たんだ。お前は見守るしかできない立場さ」素知らぬ顔でそう答えるマダム・ブラスターをクリスタルは睨みつける。
「薄情なくそばばあだっ!」
ーーエレオノーラ、あんな依頼をお前に押し付けてすまないーークリスタルは涙目だ。