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第37話

夕闇が迫る空

もうとっぷりと日が暮れた時刻にようやく、馬車は占星術アステルスカス王国の王宮のあるアステルスカス町に着いた。

その時、突然レミルナが座席にコトン!と倒れるように眠ってしまった。

「この子はどうしたんだろうね。ようやく私の王宮に帰り着いたというのに」とルツ皇太后はブツブツ言った。

執事は気を利かしてレミルナに膝毛布を掛けた。

四台の馬車は静かに町の中を進む。アステルスカス町は石造りの大きな町である。

占星術が盛んで神秘主義的な町である。

人口は少なくないはずだが、どういうわけか辺りに人の姿がない。


「人がいないね。どうしたんだろう?」


「ああ、きょうは聖スピカの祈りの日で、町中の人間が『星の大聖堂』に祈りを捧げるために集まっているんじゃよ。星々のしもべであるアステルスカスの民が月に一度の大事な星々への祈りを捧げる日なんじゃよ」


「直接星の大聖堂へ行くとしようか」とアステルスカス王国の女君主のルツ皇太后は言った。


馬車は巨大な天球儀の形をした宮殿に着いた。

「さあ、ここが星の大聖堂じゃ」とルツ皇太后は大きないかめしい石の扉の前に立った。


「ちょいと、この扉は重くてね。開閉が結構大変なんだが、だれか開けておくれでないかい?」


ヘラクレスがメイスを下に置くと

「あたしにまかせて♪」左右の腕で力こぶを作ると石の扉を軽く押して楽々と開けた。


アイロス小公子もリユも、クリスタル夫婦も、エレオノーラたちも、ビオルやベルたちも馬車から降りた。


中は、体育館ぐらいの高い天井の、広い石の大広間だった。

「さあー町の衆や!」とルツ皇太后は両腕を広げ、歓呼に答えるそぶりをしたが、星の大聖堂の中にはだれも人影はなかった。


「あれれ?! 変だねえ」


そのとき、大嵐が来る前触れの様に、生暖かい風が吹き、夜空に見えていた星々や月を突然に黒雲が覆ってしまった。

石畳の地面から、黒々とした瘴気が立ち上がり始めた。

何か、異様な気配が辺りを包む。

星の大聖堂の奥から、一人の少女が走り出て来た

「おばあさま、お帰りなさい」

「あっ、ジーナ」とアイロス小公子は、思わず嬉しそうに、許婚者のジーナ王女の姿を見つけて走り寄ろうとした。

クリスタルが、「待て」とアイロス小公子の前に立ちはだかってアイロスを制止した。


「何かおかしい」


ジーナ王女は突然、「ぐふふふふふ」と男の様な声で笑うと、そのまま石の天井を突き破り、町の空中へと飛び上がった。


「くるぞっ!」クリスタルが叫ぶ。

突然に、地面から幾百とわからないほどのゾンビが湧き出してきた。

空中に浮かんだジーナの身体から紫の霧のような物が出て、馬車の馬や御者や、戦えない者たちに向かっても、襲い掛かって来た。

馬車の御者四人と十六匹の馬を覆い、包んだ。

御者たちは、「ぐぎゃ」「げっ」「ごふっ」「ふぉぐっ」声を上げるなり、瞬く間に体中の毛穴から血が噴き出し、ミイラになった。

十六頭の馬たちも、紫の霧に覆われ、「ぐるるるる」と一瞬苦しそうな声を上げたかとおもうと、ミイラになってしまった。

さっきまで生きていた御者や馬たちもゾンビになった。

おぞましい姿になってクリスタルたちに襲い掛かってきた。


戦える者たちは戦ったが、あまりのゾンビの数のの多さに、防戦で手一杯で、戦えない者たちを守るのに精一杯。

幾百とも、数知れないゾンビが、ワラワラと戦える者ばかりでなく

アイロスやルツ皇太后や執事やアナスタシアらの戦えない者たちをも狙ってくる。

ゾンビは途方もない怪力でハンターたちに襲い掛かって来る。


「ヤバいなっ!」と叫ぶと


クリスタルは呪いの妖剣 戦慄ダイモスを石畳に鋭く突き立てるとその力を解放した。


妖剣ダイモスは紫色の微光を発して輝き始めた。


ダイモスの呪われた力に寄り、すべての幾百と知れない数のゾンビたちは地上に沸き上がるなり、黒い霧に分解され、ダイモスに瞬く間に吸収されて行く。

「ぐぅおぉおぉおぉ~」「ぐぎゃぁぁぁ~」

「キリがねえな。街の外に出るか、どこか神聖なゾンビのは入れねえ区域はねえか?」

「向こうに見える聖なる大聖堂ならゾンビはこれまい」とルツ皇太后

ヘラクレスが眠っているレミルナをおんぶすると、聖なる大聖堂へ向かって走り出した。

真っ先に走りついたアイロス小公子が聖なる大聖堂の中へ入ろうとしたとき

突然、空中のジーナ王女が右手を前に出した。


いきなり、巨石でできた聖なる大聖堂の天井巨石が巨大な力で真っ二つになり、そして壁も柱も石の床もすさまじい力で粉々に割れてしまった。

「そうはいくか」とジーナ王女が男の声で笑う。


地面からゾンビはドンドン湧いてきて、妖剣ダイモスの、呪いの力で黒い霧となり即座に吸収されていく。

「一晩中、こうしてるか」とクリスタルは不適にほほ笑む。



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