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第33話

 少し前……着いたばかりの、カナッサの宿屋での朝ご飯の話


この宿はカナッサで最高級の宿である。

ここカナッサは特・上・中・下と四軒ある。その特上の宿である。

明け方ようやくカナッサ町が見えてきたときは、全員がホッとした。

きのう、朝ごはんをリムリカ村の宿で食べて、お昼を食べようとした矢先に、バルカニア王国軍に襲われて日没まで戦闘が続いた。

しかし、その後泊まろうとした小さな村はバルカニア王国軍にすでに昨日のうちに全滅させられていた。

その小さな村の惨状に全員が意気消沈してしまった。

食べる機会を失いーーというより食べる気力を失った。


アイロス小公子の一行はそのまま一晩中、レッサム街道を馬車を飛ばしてカナッサの町に明け方に着いた。


リムリカ村の朝食以来、だれも何も食べていなかった……夕方見た小さな村の……幼い子供まで殺されたむごい有様は全員の心に重い影を落としていた。


馬車がようやくカナッサの『特上の宿』前に着き、全員がくたくたのハラペコで馬車から降りた。

……さてどうしようか……

 それなのに、突然、「警備への注文があります」とくどくどと執事が文句をつけてきた。


「あーだ こーだ」と執事。


全員、クサクサしてて気が立っている。


ーーこっちの疲労も限界なんだよっ!--


その間にーー「ここはおじさまとよく来る宿なんだよ♪」ーーと青い顔した調子悪そうな小公子が看病するハルナと共にイソイソと高級宿屋に入る、

宿のカウンターで髭を生やした偉そうな支配人は小公子にやたらペコペコ。

小公子は王族らしい顔で、凛!として、何かテキパキと指示を出した。

そして疲労困憊している警備者たちへの執事の話がまだ終わらないうちに「みなさーん、お食事の用意ができましたよ♪」とハルナに支えられた顔色の悪い小公子が執事を押しのけて叫んだ。


「宿の食堂に入ってくださいー。もう準備できてるので、神様へ感謝のお祈りして、すぐ食べましょう」と青い顔色で全員に宿に入るように命令した。

自ら全員を大きな豪華なテーブルに導いて着席させた。

「では、神様に今日の食事を感謝しまーす。さあ、みなさん、召し上がってくださーいっ」



 豪華なテーブルの上に、全員の眼の前に見たこともないご馳走が山積みにされていた。



 銀の大皿の上に肥えた鶏の丸焼きが何十羽も山積みだ。豚の丸焼きが巨大な皿に何頭も山積み。

牛の丸焼きが巨大な銀の皿に野菜と盛り付けられている。

銀の大皿に山積みにあらゆる果物が盛り付けられている。食べ放題!

 ミートパイにブルーベリーパイ、アップパイにオレンジパイ、チョコレートドーナッツの山盛り。

絶品は棒鱈と野菜の極上スープ。

大人には特上ワインが何本でも飲み放題。




料理人たちが腕に寄りをかけて作った極上の料理。


 クリスタルもアナスタシアもリユも、ベルもバーバラも、ビオルもゼネもハビンもヘラクレスもギニーンもハルナそしてアイロス小公子も。みんな、この素晴らしい食事を楽しんだ。


 ギニーンは超高級ワインを10本一気飲みしているーーさっき、馬車の中で伸びていた人とは別人のように、最高の笑顔で

 

 みんな、体調すぐれない心優しい小公子がみんなのために突然招いてくれたこの奇跡の食卓を満喫した。


山の様な極上の料理ーーは、みんなの胃袋を200%満たして、ほぼ完食された。




 クリスタル夫婦の部屋もまた、小公子が執事に指示して別に取ってくれた。

「ご夫婦で今日はごゆっくりおくつろぎください」

と小公子は自分が調子悪いのを隠すように作り笑顔でアナスタシアとクリスタルに言った。

クリスタル夫婦は小公子の好意に感謝した。


食事が終わり、執事とハルナは小公子を両脇から引きずるように

この宿屋の最高の部屋へと連れて行った


クリスタルとアナスタシアの二人は

部屋の窓際で寄り添って窓から見えるカナッサの町の人込みを眺めていた。




エレオノーラがクリスタル夫婦の部屋を訪ねてノックした。


クリスタルがエレオノーラを自分たちの部屋に招いたのだった

「おりいってきみに話がある」


「きみはほんとは13歳じゃないの?」とクリスタル


「リユは人間の本当の歳がわかるんだよ」


「きみじゃないの」とクリスタルは問う


「僕たちが探してる僕たちの子供は」


エレオノーラは何か決意したような思いつめた顔をしている

「……言い忘れてた」


「ああ、いいよ」とクリスタル。


暫く誰も何も話さなかった。


どれくらい沈黙の時間が続いたろうか……


「……あたしは 本当は13歳なんだよ……」二人から顔を叛けて

吐き捨てるようにエレオノーラが言った



戦闘中にエレオノーラは敵を『鬼女ドウルガの眼』で見た。

それは相手に……死の刻印……を付ける目である。

クリスタルはエレオノーラのドウルガの眼に気づいたのだった

それはエレオノーラの魂の中のドウルガと融合した子供の魂がーーわたしはここにいるよーーとクリスタルに告げているモノだった……とクリスタルには思われた。









「きみだったんだね」…………「きみは僕の娘だ!」万感の思いを込めてクリスタルは……エレオノーラに言った。


「ねえ、アナスタシア」とアナスタシアの前でクリスタルが振り返った時、

涙でその美しい顔をくしゃくしゃにしたアナスタシアがクリスタルを思いっきり突き飛ばして、

エレオノーラに抱き付き「ぎゅっ!」と抱きしめた。

アナスタシアは嗚咽を漏らしながら目からぽろぽろと涙を流した。喜びの涙だった。

妻に尻もちつかされたクリスタルは起き上がると左手でエレオノーラを、右手でアナスタシアに手を廻して二人をそっと抱きしめた。


「僕たちはきみの魂……つまり前世の父親と母親なんだ」とクリスタルはそっと言った。


「ああ、この13年あなたをどんな思いで探したことでしょう」

とアナスタシアがしゃくりを上げながら涙声の震える声で言った。


しかしエレオノーラは無表情だった。


「13年間、私を捜してくれたことは感謝するわ。ご苦労さん、そしてお気の毒ね

私の母親は、ナナ・アーマイスだけよ。

……娼婦だけどね、私の母親で、たった一人の親よ」


13歳のエレオノーラは言った。


「本音言えばさぁ 自分の母親だけでもウザイと思ってんのに……さらにウザイのがもう2人出て来た。ふっ。私の気持ちなんて分かんないだろうね……でも死んだら泣いてあげるかもね」


クリスタルが言った

「俺たちは、君が、立派に独立して生きて行ってることが分かっただけで十分さ。

君に会えただけで十分だ。僕たちこそ、ありがとう」

とむせび泣く妻の肩を優しく抱きながら、笑顔で答えた。


 感情の高ぶったアナスタシアはエレオノーラがあまりにも無表情なので驚いた。

何か言いたげだったが、言うのを止め言葉を飲み込んだ。


エレオノーラは二人から顔を叛けている。


「ありがとう。君が僕たちに会いに来てくれて嬉しかった」とクリスタルは笑顔で言った。


「……さよなら。お二人さん」

とエレオノーラはそっけなく言うと

そのまま無表情に出て行き扉を閉めた。


エレオノーラが去っていく足音が聞こえて

彼女の部屋の前で扉が開いて消えた。


「あの子はどういうつもりなのかしら」

あまりのあっけなさに、感情が高ぶって、

アナスタシアは気持ちを抑えられずにいた。


クリスタルは淡々と妻に言った。

「あの子はあの子さ。そういう性分なんだろうよ。

気にするな。これからいつでも会えるんだ」


「そうね……」


「あの子はもう自分で独立して力強く生きている。

会えただけで十分さ」


「……」


「僕たちを救ってくれたあの子との『けじめ』はついた」


クリスタルはやれやれと背伸びをした。

「そろそろ、俺たちは、次の子供を育てよう……」


アナスタシア「!?」


アナスタシア「………………」








部屋に鍵をかけると、アナスタシアに、クリスタルは

これまでしたことないほど熱い口づけをした。

アナスタシアは夫の肩に手を廻して夫をしっかり抱きしめた。

クリスタルは、そのままそっとアナスタシアをベッドに優しく押し倒した。

そして、13年前……二人が最初に王女の部屋で結ばれたように……愛し合った。





特上の宿屋の三階のホールでルツ皇太后とレミルナ・ルド女大公が

華々しい口喧嘩をしている真っ最中であった。

トコロテンは三杯酢か黒蜜か! どっちが美味しいかで!

「絶対にトコロテンは黒蜜よ!」とレミルナ・ルドが言うと、「小娘のくせに、90歳の私の言うことを聞かないのは頭がどうかしてるよ。トコロテンは絶対に三杯酢だ! 黒蜜は太るよっ!」とルツ皇太后

「おばあさまったら、もう強情ねっ!」とレミルナ・ルドが金切り声をあげた。

ベルとバーバラが、そばにいた宿のメイドに聞いた。

「あの人たち、なんなの?」

「あの方たちは、お年寄りの女性が、アステルスカス王国の女君主のルツ皇太后さまで、お若い女性がそのお孫さまでルド公国のレミルナ・ルド女大公さます」

「へえ、女君主同士のへんな口喧嘩ね」

「ここへ来られるたびに、何かとあのお二人は喧嘩してらっしゃいますね。うふふ。仲がおよろしいのでしょう」

王侯貴族に情報通のバーバラが言う「確か、レミルナ・ルド女大公って21歳よね。ルツ皇太后って90歳よね」

「あのめちゃくちゃ元気なしわくちゃのおばあさんが、これから行くアステルスカス王国の女君主? げえっ!」

「まあ、どうでもいいわ。それよりさっさとお買い物に行きましょう。それと演劇も見たいし……急がないと時間が無くなるわよ」

「そうね。グズグズしてられないわね。急ぎましょう」とベルとバーバラ。

「取り合えず、アイロス小公子の具合だけ見に行って、挨拶だけして出かけようよ」

「そうね、そうしましょう」


ベルとバーバラの二人がアイロス小公子の部屋に行った。

「ハルナさん、小公子の体調はいかがかしら?」

「熱が下がらないのよね。困ったわ。でも本人は元気そうだから疲れてるだけだと思うわ。執事さんの要請で良い薬を使ってるから、明日には良くなってると思うわ」と笑顔のハルナ。

「そう、じゃあ、私たちは少し街へ出かけてきますね」

「うふふ、行ってらっしゃい」とハルナが言った。

すると、勝手にノックもなくドアが開けられて

部屋を出ようとするベルとバーバラを押しのけてさっきの二人の女君主がズカズカ部屋に入って来た。


「おやおや、お前を待ってたんだよ。アイロスや」とルツ皇太后

「ああ、おばあさま。お元気そうでなによりです」と小公子は元気のない声で返事をした

「若いお前が病気かい? だらしないねえ!」

「少しお疲れになっただけですわ。あなたはどなたですか?」とハルナはいきなり乱入した失礼な元気すぎる老婦人に機嫌が悪い。


「ああ、その方はアステルスカス王国の女君主のルツ皇太后でぼくのおばあさまです。

後ろの方はレミルナ・ルド女大公で僕のいとこにあたる方です」


「お前がここを通りかかるのを待ってたんだよ。さあ、アステルスカス王国へ一緒に帰ろう」


「いいわね、アイロスくんとはとても小さい時に会ったっきりね。うふふ、楽しみだわ♪」とレミルナ。


「ちょっと待ってください。今、アイロス小公子は悪魔崇拝のババニア教団から暗殺予告を受けてるんですよ。一緒に行ったら、みなさんまで巻き込まれる可能性があります」とハルナが声を荒げる。


「おや、ババニア教団の刺客にやられるような安物のハンターをボディガードに雇ったのかい? フォグもケチだねぇ」とルツ皇太后。


「フォグ副王に雇われたんだろ? なら相応の最強猛者ばかりだろう? どうであろうと私らも同行するからね。これはあたしの命令だよ!」とルツ皇太后がしわがれた声を張り上げる。横で「当然そうよね♪」と21歳のピチピチの女の子のレミルナ・ルドがルツ皇太后に相槌を打つ。


「ああ。とんでもないことになったわ」と心の中で悲鳴をあげるハルナだった。

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