第21話
「ゴブリン30匹が出てきたとこでいいのかな?」
エレオノーラが背中に大剣を戻しながら聞いた。
無表情に長いブルネットの腰まである三つ編みをぶるっと振った。
ギニーンはムキムキの上腕を上に軽く屈伸させて筋肉をほぐした。
「ファイガの反応からしてもそうでしょうね」
ファイガはゴブリンが30匹でてきた入り口に向かってがうがう!吠えている。
ギニーン、ルチアナ、ファイガ、ハルナ、エレオノーラがしんがりで、5人は進み始めた。
石の通路は、どこにも光源は無いがぼうっとした邪気を含む光で満ちていた。
毒を含むのか、肌がピリピリするが、大したことはないようだ。
また、落とし穴にはまったら厄介なので、前より進むスピードは遅いが、ダンジョン探索などで手慣れているギニーンが足元を落ちていた長い枝を探り棒にして、石橋をたたいて歩くように進む。
向こうに明るく大きく開けた場所が見えた。
「遺跡の中心部の魔道機械の中枢はあそこのようですね」
「……生きて帰れるかしら?まだ僧侶として修業半ばなのに……」
真面目なハルナの台詞。黄色のズボンのすそを織り上げて半ズボンにし、花柄のブラウスの袖もたくし上げ半そでにした。「少し暑いわね」
ギニーンとエレオノーラは向こうに待つ者の気配を察知したようで、黙っている。
「いきましょう」ファイガの眼を見て目をくりんと回してパチパチ瞬きして上目遣いに見て可愛くルチアナは言った。
「あなたもがんばってね」とファイガの頭を撫でながら子供に諭すようだった。
5人が入った部屋は広い部屋だった。
まわりの壁は石でできているのだろうか、光の筋がキラキラ点滅しては走っていく、不思議な凹凸のない黒い石の滑らかな壁である。
部屋の一段低くなった中心に大勢の人が倒れていたが1000人以上はいる。
服装からしてパルメラの町の人々の様だ。
ルチアナが見ると、そのなかには消息不明になった5人の神官たちもたおれていた。
全員、ゴブリンの種子を体に植え付けられてその種子に生気を吸われて死にかけている状態のようだ。
5人が中に入ると、ハルナは
「予防解毒魔法 バキネィション」ハルナが呪文を唱えると淡いピンクの霞が5人を包んだ。
「聖なる守護魔法 セィキュリッドプロテクション
聖女の守り ディフェンスセイキュリッドウ~マン」
ルチアナが呪文を唱えた
「聖魔法壁 ウオールセイキュリッドマジック」5人のまわりに半透明の白いモヤのような壁が取り巻いた。
「ぐぎゃぉ~!ぐごぉ~!」
8匹の双頭オーガが猛り狂って現れた。いきなり5人に飛びかかる。
双頭オーガは2つの首を持ち頑丈な毛皮を持つ雪山に住む5メートルはある獰猛な怪獣だ。普通のオーガと違う
一声「ガオ~ン!」となくとファイガは口から敵を幻惑させる紫の霧を噴き出した。仲間には透明で見えるが、敵にとってはこの部屋全体が紫の濃い霧に包まれてまるで見えない状態になった。
ルチアナは素早く
「神聖呪縛 ロックトオン」と唱えた。
8匹の双頭オーガの動きが止まったが、何者かがおどろおどろしい声で
「クリアランス」と唱えた。
エレオノーラは部屋の隅に行き、剣を斜めに構え呼吸を整えた。
ギニーンは体に力を籠め、ためをして左右の鋼の大剣を抜くと、双頭オーガの2つある首を左右の大剣を一振りすることで2個ともばっさばっさと首を切り落としていく。
双頭オーガはまた猛り狂って動き出したが、周りは紫の濃い霧に包まれ敵の姿は見えない。
ルチアナは神聖呪文の詠唱を始めている。ファイガは呪文詠唱中のルチアナに接近する双頭オーガに体当たりを食らわせて、白銀の牙で噛みつき、その頑丈な毛皮を白銀の爪で引き裂き、双頭オーガは苦悶の叫び声をあげた。
ハルナをルチアナを防御して、紫の霧で敵が見えない双頭オーガのめちゃくちゃな攻撃を盾で防ぎながら白銀のレイピアで攻撃するが、毛皮が頑丈すぎてダメージを与えられない。
エレオノーラは両手剣で軽く切り裂いただけでは双頭オーガの頑丈な毛皮をかすっただけだったので、ためをして両手で大剣を握りしめ振りかぶって渾身の一撃で双頭オーガの左の首を切り落とし、もう一度、渾身の一撃で右の首を切り落とした。悪戦苦闘であったが、エレオノーラとギニーンが双頭オーガの8匹のうち4匹を倒したところで、おどろおどろしい声がした。「いでよ!」その声と共にゴブリンメイジが100匹いきなり現れた。100匹のゴブリンメイジが口々に「ファイア!」「ファイア!」と唱えると大きな火の玉が現れ、4人と1匹に激突して燃えあがる。
つぎつぎと「ファイア!」と唱え火の玉を撃ってくる。
1匹のゴブリンメイジの「ファイア!」は受けても服が焦げて多少熱い程度だが、それが100発同時に来る。
かなりヤバい状況だ。魔法は敵の気配を感じそれに向かって打つので幻惑の紫の霧は効かない。
「輝かしきは神の栄光!如何なる者も神より生まれ滅びて神の御元に帰らん!ブライティングロウリィゴッド!」
ルチアナの呪文が発動した。ゴブリンメイジ100匹は一瞬につぎつぎと光の粉になり消えていった。
輝きがあたりを包み、双頭オーガに植え付けられた邪悪なる瘴気が消滅した。ルチアナはすかさず、4匹の双頭オーガに「神聖魔法 魅了!ファスチネイト」
4匹の双頭オーガはルチアナに魅了されルチアナのペットになってしまった。
1805人に産みつけられていたゴブリンの種子もルチアナの神聖攻撃魔法で消滅してしまった。
あたりは静かになった。
ルチアナはギニーンとエレオノーラに言った。
「このまわりの壁を攻撃して超古代の魔法機械を止めてもらえませんか」
「わかったわ!」「おうよ!」
エレオノーラとギニーンは壁際に近づくと、二人で顔を見合わせると、まずエレオノーラが大剣を両手で握しめ渾身の力で壁のピカピカランダムに光の筋が広がっていく場所に、一撃を加えた。ガキーン!少し傷がついたが機械は止まらない。ギニーンが剣を1本背中にしまうと、1本の剣を両手で握りしめ、振りかぶって渾身の力で一撃した。グァキーン!少し傷は深くなったが、魔法機械はまだ止まらない。
ルチアナは魔法呪文を唱えた。
「ヒーリングオール!}
倒れていた1805人の人々にキラキラ輝く輝きがルチアナの身体から飛び散った。
土気色だった人々の顔に血の気が戻り、「……ううむ」「……ああ」あちこちからうめき声があがり、倒れていた人々が起き上がり、あたりをキョロキョロ見渡している。
「なにがあったんだ?」「どうしたのかしら?」「いったいここは?」
「あ、女教皇さま!」5人の神官がルチアナをみつけて駆け寄った。
「良かったわ、無事で」
「恐れ入ります。あなたさまのような方のお手を煩わして、恐縮です」
目をを覚ました人々は4匹の双頭オーガを見てみんな、逃げ出そうとしたが、ルチアナが
「この4匹は私のペットよ」という声を聴いて安心した。
二人で顔を見合わせて、「せーのっ」二人が渾身の力で大剣で同じ場所を攻撃した。
グアキィィィーーン!!
グガガガガガガ!!
何かのリズムで発生していた光の輝きとキラキラの走る筋は支離滅裂になり、やがて止まってしまった。
部屋を照らしていた不思議な光源も消えて、あたりは真っ暗闇になった。
ルチアナが「ライトニング!」と叫んだ。
光の玉が現れた。あたりは明るくなった。
「では、とりあえず、街へ帰りましょう」
1805人と4人と5匹は超古代遺跡のもときたた道を帰った。
途中にあるゴブリンの肉塊の山と黒い血の海に人々は悲鳴を上げたり、滑って転んだりしながらも、ようやく最初に4人と1匹が落とされた地下洞窟のオーガの3匹の死体が転がっている場所にたどり着いた。
むろん、オーガの3匹の首なし死体を見てもドン引きだったが、今はそれどころではない。生きて帰らないと!
ルチアナは双頭オーガに聞いた。
「あなた、人を乗せて、ここ登れる?」
「がるるるる!」
「登れるんですって。この子の背中に3人位乗れるかな」
パメリヤの1800人の人々は双頭オーガにつかまって、時間をかけて落下穴のの一番上まで、双頭オーガはかわるがわる4匹が行き来して1805人は、上の通路にようやく上がることができた。上の通路に助けられた1805人は、町に通じる通路の出口に向かって歩き始めた。全員が自分の足でリペナの町に出ることができた。
最後に、4人と1匹が双頭オーガに背中にのって上の通路に上がった。ルチアナはリペナ町に戻った。
双頭オーガ4匹はリペナ町の新たな観光目玉として活躍することになった。
ルチアナはその場でギニーン、ハルナ、エレオノーラの3人に約束の金貨70枚の残りを払ってくれた。
「もう、あなたってば、仕方ないんだから!」
と魔法獣ファイガを叱りながらルチアナが可愛い顔をしかめて小首をふりふり「ごくろうさまでした」ペコリと頭を下げ、3人に笑顔で感謝した。
3人はリペナ町の酒場で最初にもらった70枚の金貨と同じようにその金貨を山分けした。
ルチアナは2人の枢機卿と探索に行っていた5人の神官と教会で何か話をしていた。
とりあえず、もうこの仕事は終わったようだ。
「クリアランス」と唱えたおどろおどろしい声の正体はわからないままだった。