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君の中に  作者: 大坂憂希
2/2

おんぷ①

「おんぷちゃん、ご新規ご指名頂きましたー。」店長の声が待機室に響く。


「はーい。何分コース?」

私は自分の生活を守るため、風俗店で働いている。芸大で音楽を専攻しているからという単純な理由で源氏名を『おんぷ』にされてしまった。

風俗とは言っても、本番行為のないヘルス店だ。ここ大阪では条例で本番行為のある形態の風俗店は禁止されている。


「90分です。今日店忙しくて出勤も少ないから、ラスト枠もう1本付けても大丈夫?」


「ちょっと待ってー。」

そう言って私は手帳を取り出して、予定を確認するフリをする。予定が入っているのはわかっている。だけど、即答するよりはこう言ったポーズを見せる方が印象が良いのでそうしている。


「あー、今日はこれでラストにしてくださいこの後、事務の仕事入ってるんで。」


「そっかー。わかった。」

そう言って店長はまた受付に戻っていった。


私は風俗店の他にも深夜に、企業のシステム打ち込みの仕事も行なっている。深夜1時から4時までの3時間。東京ほどではないが、ここ大阪も働こうと思えばどんな時間でも仕事は溢れている。現在はこの2つの仕事で月収は悪い時でも約100万円。

頼れるものは自分だけ。と考えながらも、実家に70万円、毎月仕送りをしている。

もぅ長いこと父親が癌で入退院を繰り返しているので、その医療費と母、妹の生活費。それに妹2人の学費を考えて70万円。

自分の学費と家賃などを差し引くと、結局手元に残るのは15万円程度。

それでも、物欲のあまりない私には十分な生活だ。


「おんぷちゃんー。お客様お待ちでーす。」

店長が受付からひょっこりと顔を出す。


「はーい。」

準備を終えて、客の元へと急ぐ。

「ご指名ありがとうございます。おんぷです。」いつもの挨拶を済ませて、客と一緒にホテルに向かう。いわゆる『ホテヘル』というジャンルの店だ。


2人でホテルに入り、たわいない会話が始まる。

「めっちゃ可愛いですねー。ホームページで写真見てたんやけど、実物の方がめっちゃ可愛い!」


「ありがとうございます。でも、みんな大体可愛いよー?なんで私選んだん?」

『可愛い』はこの仕事をはじめてからよく言われる言葉だ。でも、自分ではそう思っていない。人を疑うあまり、いつから『可愛い』という言葉さえも喜べなくなってしまったのだろうかと時々自分が悲しくなってしまう。


「うーん。小柄な子がタイプやから。プロフィール見たら身長低かったし。」


やっぱりな。

身長150cmちょうどの私は、ロリコン受けが良いらしく、私の客は大抵ロリコンなのだ。

服装もそれを自分で意識しているせいか、ネットで口コミが広がり、ありがたいことに『ロリコン』の客からの指名が絶えないのである。


「お客さんロリコンなんですねー。」

「いや、そんな事は……!」

笑いながら会話をひとしきり終えたところで、風俗の仕事のスタート。

「じゃあ、そろそろシャワー行きましょうか。」

シャワーを終えてベッドにあがり、すっかり慣れてしまったルーティーンが始まる。


「お願い!イレさせて!」

サービスも後半になるとお客の2人に1人はこの言葉を口にする。法令では取締られているものの、女の子によっては個人的に金を受け取り本番を行う子や、手や口でするよりもイレた方が早いと考え本番行為に及ぶ子が多いらしい。

でも、私は絶対にしない。

「アカンてー。そんな店ちゃうからさー。」

そう言ってる間にペースを上げて果てさせる。

いつもの流れでサービスは終了。


ホテルを出てお見送りをして、はい、さようなら。新規の指名は多いが、本番を頑なに拒む私には滅多にリピーターがつかない。大体は、この1回限りで終了なのだ。

見送った男性に最後に舌打ちまでされる始末。

少し高めな値段設定のうちの店よりも、安くて本番ができる店が多いからだろう。


見送りを終えて店に戻ると、23時を回ろうかという時間にも関わらず店内の待合はごった返していた。

「ただいま戻りましたー。」

そう言うと店長が顔を出し「もぅ1本無理ー?ホンマにさばけやんくて。」と言う。

この店の状況を見てしまうと、私も軽くは断れなくなってしまった。

「1時から仕事なんで、90分は無理やけど、75分までのお客さんやったら付けてもいいよー。」

「ホンマに?助かったー!じゃあ次のお客さん75分なんで、5分ほど休憩したらお願いー!」

「はいよー。」

これでまた今日も束の間の自分の時間が失われてしまった。でも、仕事があるのは良い事だ。

時間も無駄に使っていない。そう自分に言い聞かせ、またホテルまでの道をとんぼ返りする。



この日最後の風俗での仕事を終えて、私は足早に次の職場へと急いだ。

打ち込みを済ませて職場を出たのが早朝4時半。


まだ大学2回生の私は講義も朝から晩までそれなりに詰まっているので2時間ほどしか睡眠がとれない。

「さー、また寝て大学頑張りますか!」

コンビニで買った缶ビールとタバコを一服。

この時間が唯一、私だけの時間。


また同じルーティーンがやってくる。

でも、生きているならそれだけで大丈夫なんだ。


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