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学園一の美少女が失恋したいと泣きついてくるので困っています……  作者: 田奈から来た使者
俺と彼女の失恋作戦
7/36

美少女とデート

澄花とのデート回です。

読んでいただけると嬉しいです。

 土曜日。


 俺は自宅近くの噴水公園にいた。


「師匠~こっちですよ~」


 と、そこで先に公園に到着していたらしい澄花が俺の存在に気がつき大きく手を振った。


 そう、今日ここへやってきた理由は他でもない。


 紗々木澄花とデートの約束をしていたからだ。


「待たせたな」


「大丈夫です。私も一時間前に着いたばかりですから」


「待たせたな……」


 俺は彼女のアクティブさにやや度肝を抜かれたが、澄花の方は全く気にしていないようで、ニコニコしたまま俺を顔を見上げた。


「師匠、今日一日、私たちはカップルですからね。彼氏らしく私のことかっこよくエスコートしてくださいね」


「おう、わかってるよ」


 そう、これはただのデートではない。


 これは俺と彼女の失恋作戦の幕開けなのだ。


 俺と澄花はこれから何度かデートを重ねて、その間に彼女に俺のことを好きになってもらう。


 つまり、作戦の成功は俺の腕にかかっているわけだ。


 正直なところ、そんな大役を俺に任せるのはどう考えても人選ミスだとは思うが、澄花自身が俺のことを好きになりたいと言うのだからしょうがない。


「じゃあ、行くぞ」


 と俺はさっそく歩き出す俺。

 が、


「師匠」


 そんな俺を澄花が呼び止める。


「なんだよ」


 澄花は先に歩き出した俺のもとへすたすたと駆け寄ってくると俺の顔を見上げた。


 そして、


「手繋ぎませんか?」


 そう言って自分の右手を俺の方へと伸ばした。


「は、はあ?」


「だって、そっちの方がカップルっぽいじゃないですか」


「いや、そうだけど……」


「それとも、私と手繋ぐのは嫌ですか?」


 そう心配げに首を傾げる澄花。


「別にそう言うわけじゃないけど……」


 もちろん、嫌なわけではない。


 けど、少なくともここ十年以上は異性と手をつないだ記憶のない俺にとってはそれはかなり勇気のいる行動であることは確かだった。


 ちなみに前に俺が異性と手をつないだのは幼稚園の頃で相手は紗耶香である。


「なら、手繋ぎましょ?」


 澄花がそう言うので、俺は少し躊躇いながらもゆっくりと澄花に手を伸ばす。


 俺の手が触れると澄花はほんの少しだけ驚いたように身体をピクつかせたが、すぐに俺の手を握り返した。


「…………」


「…………」


 率直な感想を言う。


 恥ずかしい……。


 恥ずかしくてしょうがない。


 巷のカップルとやらはこんなに恥ずかしいことを何食わぬ顔でやっているという事実に俺は震えたぜ……。


「行きましょうか……」


 どうやら言い出しっぺの澄花も実際に手を繋いでみると思っていた以上に恥ずかしかったようで彼女には珍しく、顔を赤らめると弱々しくそうつぶやいて歩き出した。


※ ※ ※


 デートとは言ってもバイトをしているわけでもない俺が行動できる範囲は限られている。


 精々、近くのショッピングモールをウィンドウショッピングをしてフードコートで食事を楽しむぐらいだ。


 俺たちは手を繋いだまま、ショッピングモールを歩いていたが、気がつくと俺たちはモール内の書店のライトノベルコーナーの前にいた。


 のだが、


「欲しい本でもあるのか?」


 ラノベコーナーに到着すると澄花は空いている手で本棚から一冊の本を取り出した。


 そして、俺はその本に見覚えがあった。


「それって……」


「私の本です」


 彼女が手にとったのは彼女自身の書いた本だった。


 この本こそが俺と彼女が今ここでデートをしている原因である。


 澄花は何故か、自分の著作物の何やら興味深げに眺めていた。


 が、しばらくするとそれを何食わぬ顔で、元の本棚ではなく本棚手前に平積みされた新刊の部分に置くとその場を立ち去ろうとした。


 そんな彼女の手を引いて止める。


「おい、今、何をした?」


 そう尋ねると澄花は何やらバツが悪そうにそっぽを向いた。


「え? 何って、別に何にもしていないですが……」


「おい、お前の本は平積みじゃなくてそこの本棚に置いてあったよな?」


「そ、そうでしたか?」


 と、白を切る澄花。


 どうやら、自分の本が平積みされていないのが気に食わないようだ。


「俺の大好きな澄木紗々先生がこんな狡いことをする人間だったとは思わなかったぞ」


「狡くないです。こういう地道な努力が、いずれ大きな花を咲かせるんです」


「なんか良いこと言っている風だけどやっぱり狡いだけだぞ……」


 俺は元の本棚を指さすと澄花を見やった。


「ほら、元の場所に戻せ。ってか、小説家なら小説家らしく正々堂々と中身で勝負しやがれ」


 俺のそんな言葉に澄花は少し不満げな顔で「師匠のこと嫌いになりそうです……」と呟くと渋々、文庫本を本棚へと戻した。


 本を戻すと澄花は再び俺を見やる。


「師匠、お腹空きましたね……」


「そういや、そろそろそんな時間か」


 俺は腕時計を見やると時計の針は午後一時を指していた。


 確かに澄花同様に俺も腹が減ってきた。


「よし、飯でも食いに行くか」


 そう言って俺たちはフードコートを目指して歩き出そうとしたのだが。


「なっ!!」


 数歩進んだところで、澄花が突然立ち止まると何やら驚いたように目を見開いた。


「どうかしたのか?」


 俺がそう尋ねると澄花は何やら動揺したように俺のことを見つめる。

 そして、


「師匠っ!!」


 澄花は突然、俺の胸に飛び込んできた。


「はぁっ!?」


 澄花の突然の大胆な行動に俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。


「お、おい、何の真似だ……」


「しばらく、このままでいてください……」


 澄花は顔を俺の胸元に押し当てたままそう答える。


「は、はあっ!? わけがわからないぞ」


「いいからお願いです。私が良いって言うまでこのままでいてください……」


 そう言って動こうとしない澄花。


「…………」


 どうすればいいんだ?


 俺は公衆の面前で突然美少女に抱き着かれ、しどろもどろになってしまう。


 彼女を見下ろす。彼女の頭部からはシャンプーか何かだろうか甘い香りが漂ってきた。


 が、不意に澄花は俺の胸元から顔を放すと、後ろを振り返り、辺りをきょろきょろと眺め回したあと、安堵の表情を浮かべた。


「師匠……行きましょ?」


「お、おう……」


 そう言って何事もなかったように澄花は手を伸ばすと俺と手を繋いで歩き始めた。


 なんだったんだ……


 不思議に思いながらも歩き出そうとする。


 が、


 その直後、ライトノベルの棚の陰から何やら見知らぬ女性が身体を出して俺たちの前に立ちはだかるので足を止める。


 誰だ?


 女性は澄花の顔を見つめていた。


 俺はそれを見て、今度は澄花を見やる。


 すると、


「はわわっ……」


 突然、澄花は俺の腕にしがみついてきた。


「おい、なんだよ……」


 彼女はまるで蛇に睨まれたカエルのように怯えた表情で目の前の女性を見つめていた。


 ん?


 不思議に思った俺は再び目の前の女性を見やる。


「あら、こんなところで出会うなんて奇遇ねっ」


 すると、女性は笑みを浮かべたまま澄花を見やった。


「知り合いなのか?」


 俺がそう尋ねるが澄花は返事をしない。


 なんだ?


 なんで澄花は女性をそんな怯えた目で見るんだ?


 俺が首を傾げていると女性は口を開く。


「せっかくですから、近くでお茶でもしませんか? 澄木紗々先生?」


 どうやら、女性は澄花の知り合いのようだ……。


 ん?


 ちょっと待て。

 今、この人、澄花のことを澄木紗々って呼ばなかったか?


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