幼馴染といつもの昼食
三話のみ全面改稿しました
翌日の昼休み。
俺はいつものように磯崎紗耶香と一緒に校庭の芝生に座って昼食を取っていた。
彼女の手作り弁当に今日も舌鼓を打ちつつその代償として、彼女の憎まれ口を聞いていた。
「やっぱりフラれたのね」
「やっぱりってなんだよ。やっぱりって……」
「やっぱりって言うのは具体的には学年でもトップクラスに可愛い藤村美沙が、あなたみたいに何の取り柄もないくせにライトノベルを書いて人生一発逆転しようと企てているような、どうしようもない男に魅力を感じるはずがないって意味よ」
「少しくらいはオブラートに包めよ」
「オブラートに包んでこれよ」
「穴が開いて苦い薬がどくどく漏れているんだけど……」
俺の不幸な話を聞く紗耶香は、いつもまるで甘い蜜でも舐めるように嬉しそうな顔をする。
本当に根性が腐っている奴だ。
けど、そんな紗耶香と一緒にいつも昼飯を食うのはなんだかんだで彼女が良い奴だということを俺が知っているからだ。
そんな彼女と俺との関係はかなり長い。
物心がついたころには既に俺と彼女は知り合い同士で家が近いということもありよく一緒に遊んだ。
というよりは今同様に彼女のおもちゃとして遊ばれていたという表現が正しいかもしれない。
けれども、俺の両親が共働きでまともに弁当を作ってくれないことを知ったときには「あまり物だから、私にひれ伏せば、あなたに恵んでやってあげないこともないわよ」と彼女独特の言い回しではあるが、俺の分の弁当まで作ってくれてその惰性で高校生になった今でも毎日彼女に弁当を作ってもらっている。
お互い高校生なのだ。
彼女は幼馴染の俺が言うのは少しむず痒いが、なんというかなかなか可愛い顔をしていないでもない。
普通に生活をしていたら俺みたいな地味な高校生と彼女が言葉を交わす理由なんて全くないのだ。
だからこれは俺と彼女の体のいい会話のきっかけなのだ。
だから、俺はもう作らなくていいとは言わないし、彼女も毎日弁当を作ってくる。
「これであなたも少しは自分の魅力のなさに自覚できたって意味では大きな成長をしたんじゃないかしら?」
弁当を平らげた紗耶香は水筒に入れた紅茶を啜りながら茶菓子代わりにまた俺をdisり始める。
「自分の魅力のなさぐらい遠の昔に自覚しているよ」
「自覚していたら藤村美沙に告白なんてしないわ。というか、自覚していたら話しかけたりなんてしないはずよ」
「やめろっ!! マジで泣いちゃうから、これ以上、傷口に塩を塗らないでくれっ!!」
なんだか今日は少しだけ辛口だ。
この程度の言葉でも少しだけと言わなければならない時点で普段から俺がどれだけ彼女から毒づかれているのかは想像に難くないだろう。
「そんな魅力の欠片もない俺と一緒に昼食なんてお前もなかなかのゲテモノ食いだけどな」
だが、俺だっていつまでもやられているだけではない。
調子に乗る紗耶香にそう言い返してみるが彼女は相変わらず笑みを崩さない。
「私は死を待つ者に最期の祈りを捧げるマザーテレサのような存在よ」
「ほぉ、そうかい。俺には死体を食らうグールにしか見えないのは俺の目が腐っているからか?」
「そうよ」
なんの躊躇いもなく肯定しやがった……。
「まあ、でも、私もマザーテレサならマザーテレサなりにあなたの供養をしてあげないでもないわ」
「供養ってなんだよ。どうでもいいけどマザーテレサはキリスト教徒だぞ……」
「そんなことはどうでもいいの」
「どうでもよくはないだろ」
「二郎、あなた今日暇? 実は今日、港近くのショッピングモールでショッピングをしようと思うんだけど、あなたがどうしてもって言うなら荷物持ちぐらいならさせてあげないこともないけど」
「どこまで上から目線で物を言うんだよ……」
「そうかしら? 私なりに精いっぱい下から物を言ったつもりだけど」
と、彼女なりに俺を買い物に誘ってくれる。
どうやら、彼女なりに傷心した俺を慰めてくれるつもりらしい。
が、
「悪い、今日は少し予定があるんだ」
「私との買い物を断ってまでしなければならない予定なんてあるのかしら?」
「それがあるんだよ」
そう答えると紗耶香は珍しく不思議そうに首を傾げた。
「実は色々とわけがあって下級生の――」
「師匠っ!!」
と、そこまで言ったところで、背後からそんな声が聞こえてきて俺は会話を中断する。
後ろを振り返るととそこには美少女がニコニコと笑みを浮かべながら立っていたが、俺の顔を見やるとその場にしゃがみ込んだ。
その際に一瞬、彼女のスカートの中が見えたが、その色が何色だったのかは胸の奥底にしまっておこう……。
「二郎、この子は?」
と、そこで紗耶香がそう尋ねてくる。
「俺の後輩だよ」
「後輩? なんかその子、あなたのことを師匠と呼んでいたような気がしたけれども」
「それはなんていうかその……まあ、色々事情があるんだよ」
「事情?」
と、しつこく尋ねてくる紗耶香だが、俺がその事情を答える前に澄花が相変わらずの笑顔で俺に尋ねる。
「師匠、デートの待ち合わせはどこにしますか?」
「誤解を招く聞き方をするな」
そう言えば、彼女との待ち合わせを決めていなかった。
「そうだな、駅前に五時でいいか?」
「はいっ!!」
と元気のいい返事をする。
「じゃあ、俺は昼めし食ってるから、またな」
「はいっ!!」
と、また澄花は元気のいい返事をすると、立ち上がってどこかへと駆けて行った。
なんというかマイペースな奴だ……。
俺はそんな彼女の後姿を眺めてしばらくそんなことを考えていたが、彼女が校舎の陰に消えたところで俺は再び紗耶香の方を振り向いて事情を説明しようとする。
が。
「あれ?」
すでにそこには紗耶香の姿はなかった。




