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学園一の美少女が失恋したいと泣きついてくるので困っています……  作者: 田奈から来た使者
俺と彼女の失恋作戦
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同級生とまた修羅場

読んでいただけると嬉しいです。

 おそらく俺は最悪なタイミングで最悪な人物と鉢合わせしてしまったようだ。


 巨大な男のアレの形をした石の前に立つ俺と紗耶香にカメラを向ける少女は、何度見直しても藤谷美沙だった。


 そう、俺が告白して見事に玉砕した同級生の藤谷美沙だ。


 ってか、なんで藤谷がこんなところにいるんだよ……。


 俺は予想外すぎる人物との鉢合わせに頭が真っ白になった。


「それでは撮りますね。はい、チーズっ!!」


 が、そんな俺とは対照的に藤谷はまるで俺が自分に告白した相手だと気づいていないかのように営業スマイルでそう言って一眼レフのシャッターを切った。


「…………」


 俺は思考停止したまま藤谷を見つめていた。


「今撮った写真は売店で購入することができますので、よかったら入館の記念にご購入してみてはいかがですか?」


 藤谷は相変わらずの営業スマイルでそう言うと、俺たちに背を向けてどこかへと歩いていく。


 俺はそんな藤谷の背中をぼーっと眺めていたが、ようやくそこで俺は今、自分の置かれている状況が理解できてくる。


 俺、また藤谷によからぬ誤解をされているっ!!


 そのことに気がつき、俺は我に返る。


 慌てて藤谷のもとへと駆け寄ると「おい、ちょっと待て」と彼女を呼び止める。


 藤谷は足を止めるとしばらく俺に背中を向けたまま突っ立っていた。が、ようやく、こちらに顔を向けると相変わらずの営業スマイルで俺を見やった。


「今日はまた別の女の子とデートなんだね。柄木田くんってホントモテモテだね」


 やっぱり誤解されていた……。


「いや、これはなんというか――」


「心配しないで。この間の女の子には柄木田くんが別の女の子とデートしてることは黙っておいてあげるから」


「おい、藤谷、お前は根本的な誤解をしているぞ」


「誤解? そんなことないよ。私、ちゃんと柄木田くんが女たらしの最低な男だってこと知ってるから」


「それが誤解だって言ってんだよ」


「女たらしじゃなきゃなんなの? 私にもわかるように説明してよ」


 藤谷はそこでようやく営業スマイルを崩して、俺を睨んだ。


「なんというかその……俺は今でも藤谷のことが好きだから……」


 俺、何言っちゃってんの……。


 俺は自分の口にした言葉に急に恥ずかしくなり急激に顔が火照り始める。


 そんな俺の言葉に藤谷は「なっ……」と絶句すると俺同様に恥ずかしそうに顔を赤くする。そして、また俺を睨んだ。


「は、はあ? わけわかんないんだけど。ってか、軽々しく人のこと好きとか言わないでよ……」


「軽々しくなんて言ってない」


 俺は本当に今でも藤谷のことが好きだ。


 だからこそ、藤谷に妙な誤解をされたくないんだ。


 そんな俺の言葉に藤谷は俺から顔を背けていたが、ふいに瞳だけを俺に向けると弱々しく口を開いた。


「そんなに私のことが好きなら、どうしてそんな卑猥な像の前で女の子と抱き合ったりなんてするわけ?」


「あれはなんというかその……不可抗力だ」


「そんなバレバレの嘘が通用すると思ってるの?」


 藤谷は俺を睨むと「最低……」と呟いた。


 最悪だ。


 事態はどんどんと悪い方向に向かっていた。


「そんなところで長々と何を話しているのかしら」


 と、そこで背後から声が聞こえた。

 振り返るとそこには何やら退屈した様子で俺を見やる紗耶香の姿があった。


 そんな彼女の姿を見て俺ははっとする。


 そうだ。


「おい、紗耶香」


「なによ」


「藤谷に俺とお前の関係を説明してくれっ!!」


「説明? あなたが私に蔑んだ目で見られると性的興奮を抱く特殊な体質で、私に付きまとっているってことかしら」


「今、そういうのマジで洒落になんないからっ!!」


 俺は状況を理解していない紗耶香の両手を祈るように握りしめると懇願するように見つめた。


「なあ頼む。俺とお前はただの幼馴染でそれ以上でも以下でもないってことをお前の口から説明してくれ」


 何の悪気もなく彼女にそう頼んだ。


「…………」


 が、俺の言葉を聞いた紗耶香は何故かムッとした様子で俺を睨み付けた。


「なんで睨むんだよ……」


 俺がそう尋ねると紗耶香は何も答えずに俺から顔を背ける。


「藤谷さん。あなたはどんな勘違いをしているかは知らないけど、私とこの男はあなたの思っているような関係じゃないわ」


 ナイス紗耶香っ!!


 俺は心の中で感謝する。


 が、次に口にした言葉で俺の感謝の気持ちは吹き飛んだ。


「私とこの男は主人と奴隷の関係よ」


「紗耶香さんもばっちり勘違いしているみたいですねえ……」


 駄目だ。


 紗耶香に説明を求めた俺が馬鹿だった。


「は? わけわかんない。二人して私のことからかってるの?」


 藤谷はさらに怒りを増したようで険しい表情を浮かべている。


 終わった……。


「けど、そこの奴隷があなたに気持ち悪い好意を抱いていることだけは私が保証するわ」


 そこで紗耶香がそう付け加えた。


「…………」


 そんな紗耶香の言葉に藤谷は口を噤む。


 彼女は紗耶香の言葉を信用していいのかどうか考えているようだった。


 三人の間に沈黙が広がる。


 と、その時だ。


「美沙ちゃ~んっ!!」


 そんなピリピリした空気とは比べ物にならないほどにのん気な声が響き渡り、俺たちは同時に声のする方を見やった。


 すると、この秘宝館にはあまりに不似合いな幼い女の子が藤谷のもとへと駆け寄ってくるのが見えた。


 女の子は藤谷のもとへとたどり着くと、彼女のスカートの裾をぐいぐいと引っ張った。


 誰だ?


 俺が女の子を呆然と眺めていると隣の紗耶香が「藤谷さんの娘かしら?」と尋ねる。


 すると藤谷は顔を真っ赤にして紗耶香を睨む。


「そ、そんなわけないでしょっ!! 妹よ妹っ!!」


 そう言って藤谷は自分のスカートの裾をぐいぐい引っ張る少女を見下ろした。


「こらっ瑠々。叔父さんのところで、おりこうさんにしていなさいって言ったでしょ……」

「だって、お腹空いたんだもん……」

「だからって」

「美沙ちゃん、私、おうどん食べたいっ!!」


 そう言って瑠々と呼ばれた藤谷の妹は「おうどんっ!! おうどんっ!!」ぴょんぴょんと跳ねる。


 そんな妹の姿に藤谷はしばらく呆れたように眺めていたが、すぐに諦めたように「はぁ……」とため息を吐くと彼女の手を引いて歩き出した。


 が、数歩進んだどころでふいに俺たちを振り返った。


「そこに食堂があるんだけどあんたたちも来る? 何か変な誤解しちゃったみたいだし、お詫びにうどんぐらいなら奢るわよ……」


 そう言うと藤谷は返事を待たずに妹の手を引いて食堂へと歩いて行った。


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