第九枚 人の対戦を見てみようPart3
とある県のとある街。その一角というか隅っこに、その妖怪屋敷はあった。そこには当然のように妖怪が住んでいる。それもゲーマー妖怪だ。
そのゲーマー妖怪の一体であるニシワタリは困っていた。未来見の水晶を密かに持ち去る為に、あると思しき二部屋の内の一つ、この屋敷妖怪の核のある部屋に入ったのだが。
「なんデスカネ、この嫌がらせは」
そうつぶやくのもやんぬるかな。その部屋は特に広くはないのだが、あちこちに水晶が置かれていたのだ。
どうやら、この屋敷妖怪が生み出しているものらしい、というのは水晶がこの部屋の壁から出てきて、更にまた壁へと吸い込まれるので察せられた。
「どうやら、未来見の水晶があるとするならここであるようデスケレド」
木の葉を隠すなら森の中。そうニシワタリは想起する。ここなら、どこにあるのかを探るのは時間がかかるだろう。曰くのある物品をそのままこの屋敷妖怪の循環に乗せるとは思えないので、何かしらの処理がされているはずだが、それを見つけるのだけでも一仕事と思える。
「うーん」
と唸るニシワタリの、人の耳にあたる器官に音が聞こえた。火にかけた薬缶の鳴る音だ。タイムリミットである。
「これは、色々と考えないといけないようデスネ。マッタク。なんでワタクシがこんな面倒なことを……」
言いつつ、薬缶が台無しになってはいけないと、ニシワタリは部屋を出た。
一方、その少し前。
対戦は佳境を迎えようとしていた。
第7ターンの、サティスファクション都の手番。シシデバルが告げる。
「まず2点回復して7点になりましたー。とはいえ、危険な水域ですねー」
「もう、<漆黒の契約>は使えない領域か」
「ですねー。来たら結構な笑い所ですよー」
サティスファクション都のドロー。まず、<漆黒の契約>。あまりにいいタイミングだったので、美咲が噴出した。そして言う。
「グッドタイミングだね!」
「美咲! 何言ってるか分からないけど、その態度はちょっと後で説教よ!」
サティスファクション都が人間の可聴域で言ってくる。それもまたおかしくて、美咲はくすくすと笑い続ける。
まったく、という雰囲気のサティスファクション都だったが、次のドローで目の色が変わる。それは、シシデバルもだった。
そのカードは<ブラッディ・メアリー>。
「ほう、ここでそういうの引くか」
「あれはなんだ? そんなに重要なのか?」
茂美の問いに、シシデバルはへらへらと答える。
「重要かどうかはー、タイミング次第というところですねー。でも、今はいいタイミングではあるかと思います―」
とか言っている内に、サティスファクション都は手札の<アルカード>を配置する。
「<アルカード>は攻4体4とコスト7帯にしてはの若干貧弱なステータスですがー、貴重な素での疾走持ちなのとー、復讐状態なら4点回復するー、という効果が美味しいフォロワーですよー」
「ということは、これで郷くんが10点、都くんが11点。微妙に上回った形か」
「ですねー、と。ここでアルカードが進化ー! 攻体ともに6点! これで<敬虔な修道女>を突破ー!」
「しかし、PPは7使ったからもう何もできないな」
「ですねー、進化権も使い切ってしまいましたー。と、ここでサティスファクション都様はターン終了ー!」
ターンは後攻。パッション郷の番に移る。
「さて、ここは神頼みのしどころですねー。このまま6点は今食らうとかなり痛いところですー。これは阻止したいですねー。いいカードが出ますでしょうか」
ドローの結果は、アミュレット<詠唱:白竜降臨>。
「召喚系、ですねー。いまちょっと出すには重いですが、どうするでしょうか」
パッション郷は少し考えていたが、決めたとなれば即行動する。まず、<プリズムプリースト>で<アルカード>を攻撃。体を3点にする。
「といことはー、ここで<漆黒の法典>ですねー」
「それはどういうのだ?」
茂美の問いにシシデバルは答える。
「相手の体が3点以下なら消滅させる、というスペルですねー。コスト低めで且つ3点まで減らしていればいいのでー、わりと強いですよー」
ふむふむとメモ帳に書きつける茂美を横に置き、美咲が問う。
「さっきの<プリズムプリースト>は体力を削る為に殴った、ってわけなの?」
「そういうこと。先に<敬虔な修道女>でダメージ1点あったから、出来たことだな」
さて、と再び戦う両者のスマホに目が行く。
パッション郷は<詠唱:白竜降臨>を場に貼る。
「これでターンエンドですねー。手札が減ってきましたねー。そろそろどちらかに決定打が欲しい所ですー」
第8ターン。先攻のサティスファクション都の番である。
シシデバルはへらへらと言う。
「まず回復が2点ー。そしてドロー。<鋭利な一裂き>と<ソウルディーラー>。ほほー、くるくるぱーな引きですねー」
「なんだか納得してるみたいだが、どういうことだ? <ブラッディ・メアリー>がキーらしく言っていたが」
茂美の当然の問いに、シシデバルはやはりへらへらと応対する。
「それがー、逆においしい状態に立ち上がってくるんですよー」
そういう間に、サティスファクション都は行動を開始していた。
まず、フォロワー<ブラッディ・メアリー>を場に配置。
それから、スペル<漆黒の契約>を使用する。
その最初に入るダメージが、サティスファクション都ではなく、パッション郷側に入る。
「はい、これでおひい様が4点でー、サティスファクション都様が13点ですねー」
「へ? なんで? どういうこと?」
美咲の問いに、へらへらをなくしてシシデバルが答える。
「<ブラッディ・メアリー>の効果だ。クラス<ヴァンパイア>のカードにある自傷ダメージを相手に擦り付ける、とでもいえばいいか」
「この場合の回復は?」
「もちろん、自分が出来る。つまり、<漆黒の契約>が大きいダメージを取りつつ回復効果とドロー効果は自分に、という強カードになる訳だ」
パッション郷が、むむ、と表情を曇らせる。それを見て、シシデバルはパッション郷の思惑がずれていることに気づく。
(おひい様の絵図を越えた、というよりは狂ったというべきだろうか?)
どちらにせよ、敗色が濃厚なのは、両者を見ているシシデバルには理解出来る。その中で、パッション郷はどう出るか。
サティスファクション都のターンは終了する。
「さてー、おひい様の手番ですねー。ドローは<ラビットヒーラー>ですねー。そしてカウントダウン終了で<ホーリーフレイムタイガー>が召喚されますー。<守護の陽光>の効果で守護付きますねー」
動かす番となって、パッション郷はしばらく悩んでから<天空の守護者・ガルラ>を配置する。
「<天空の守護者・ガルラ>の効果発動ー! カウントダウンを3つ進めますー! これで<大翼の白竜>も場に登場ー! 守護が付いて、そして相手に3点ダメージ!」
「これで郷君が4点、都君が10点か」
「そしてここで<ラビットヒーラー>! 2点回復ですが今は大きいですかねー? これでおひい様6点でサティスファクション都様が10点ー!」
「いつの間にか、場に守護が3体いる状況か」
「ですねー。そして、<大翼の白竜>に進化権を行使ですねー」
その<大翼の白竜>で、<ブラッディ・メアリー>を撃破する。
「これでー、自傷ダメージを擦り付けるのは出来なくなったわけか」
「また<ブラッディ・メアリー>を引くしかないですねー。そしてー」
いったん区切って、強調を込めて続ける。
「地味に次のサティスファクション都様のターンで相手のフォロワー2枚落とさないといけないんですねー」
「え? ああそうか。都ちゃん、回復をして12点だけど、白竜ともう一体を倒さないと、12点出されちゃうのか」
美咲の気づきに、シシデバルは肯定を入れる。
「良く計算出来たな。おひい様に進化権があと一つあるから、<ラビットヒーラー>が4点出せる計算になる。となれば、攻撃力4点の一つを欠けさせないと、負けてしまうんだな」
「でも、手札的には詰んでないか?」
茂美の言葉に、シシデバルはへらへらと肯定を入れる。
「もっともですねー。今4点を出せるサティスファクション都様の手札は<アルカード>しかありませんー。回復できればいいのですがー、今は復讐状態ではありませんー。そして<アルカード>のコストは7ー。コスト3で4点の疾走持ちは<ヴァンパイア>でなくてもいないですからー、根本的にはこれは詰みと言えるでしょうー。ですがー、勝ちの可能性はまだ残されていますー」
「この状況でまだ勝ちがある、と?」
そうですよー、とシシデバル。その言葉を肯定するかのように、サティスファクション都が人の可聴域の声を上げる。
「よっし!」
サティスファクション都がドローしたのは、またしても<ブラッディ・メアリー>だった。
「ほー、サティスファクション都様の勝ちですねー」
「え? え?」
「なんでだ? 守護3つで、疾走もないから攻撃は通らないだろ?」
同時に混乱の声を上げる美咲と茂美に、シシデバルは落ち着いた声で言った。
「見ていればいいですよー。答えはすぐに分かりますー」
その言の通り、勝敗はすぐに分かる。まず、サティスファクション都は<ブラッディ・メアリー>を場に出す。
「それ出しちゃうんだ」
そう訝しむ美咲をよそに、サティスファクション都は続けて行動する。次に場に置いたのは<ソウルディーラー>。
「このフォロワーはどういうのなの?」
「コスト4で、攻6体4の守護持ち、と破格な性能だが、この場合重要なのは、自リーダーの現体力の半分のダメージを自リーダーに与える効果だな」
「……、てことは!」
察した美咲に対して、今一飲み込めていない茂美の為に、シシデバルは解説する。
「そうだ。<ブラッディ・メアリー>は、自リーダーへの自傷ダメージを相手に転嫁する能力がある、と言えば、後は分かりますよねー?」
「……、この効果で、都君が受けるはずのダメージは6点。それが相手側に、……そういうことか!」
「ですねー」
と言う会話の中で、勝敗は決していた。サティスファクション都の勝ちである。
「いやあ、最後守護連発された時はどうなるかと思ったわよ。アミュレット対策してなかったし。でも、勝ったから正義ね」
感想戦として、サティスファクション都はくっちゃべる。
「途中まではおひい様のペースでしたのにー」
「勝利の絵図は引けていたんですがね。そこを強引に運命力みたいなのでねじ伏せられた感じです」
「ふふ、そうでしょうそうでしょう」
「ぶっちゃけ不正があったのではー?」
「……シシデバル、変なこと言うなら主共々出禁にするわよ」
「冗談ですよー。でも、最後に<ブラッディ・メアリー>引いた時は中々にあり得ないなと思いましたー。ああいうこともあるんですねー」
「……、まあ、日ごろの行いと日々の研鑽のおかげよ」
ふふん、と鼻高々なサティスファクション都である。
それを薄笑いしつつ見ながら、パッション郷は問う。
「しかし、そんな趣味のデッキでよく戦う気になりましたね」
「そっちもわりと趣味のデッキって気がするけど?」
「それは否定しませんが、そちらのコンセプトに比べればましだと思いますね」
「こっちも否定しないけどね。上手く回らないとなすすべなく、なデッキだし」
話す二者の間に、美咲が割り込む。
「ねえ、都ちゃん」
「何かしら、美咲?」
「そのデッキって実際強いの?」
サティスファクション都は少し考え、しばらく考え、だいぶ考えて答える。
「そうでもないかも」
「いきなり自信無くなっているんだな」
「うっさいわよ、城。そりゃね、忌憚なく考えれば、もっと楽に勝つデッキはいくらでもあるわよ。でも、それだけでは面白くないじゃない」
「だから、勝てなくてもいいと?」
サティスファクション都は首を横に振る。
「勝てなくてもいいんじゃないわ。このコンセプトでも勝つのを目的とするの。その過程で厳しいこともあるけど、それを乗り越えて勝つ。それが楽しいのよ」
まあ、とサティスファクション都は続ける。
「本当にこれより楽々と勝てるデッキがあるから、そっちに流れる時もあるけどね。でも、結局楽しむ為にゲームをするんだから、どこに楽しいを置くか、だと思うわね。勝つデッキで勝つのもありだし、勝ちが難しいデッキで勝ちを得ようとするのもありよ。違う?」
「うーん、勝つのが一番楽しいと思うんだがなあ」
「勝つのが楽しい、は否定しないわよ。難しい案件しているからって偉い訳でもないしね。結局趣味のことだし、好きな楽しみ方すればいいのよ。で、私はこうやって無茶なデッキコンセプトでどうにかこうにかするのが楽しい訳」
「そういうものかな」
今一つ納得していない茂美が、もう一言口に出そう、としたところで声が響いた。
「はいはい、お茶出来マシタヨ」
ニシワタリだ。お盆に湯飲みを人数分、中身も入れて持ってきていた。スパスパと各自の手に湯飲みを渡していく。
「……ニシワタリ、これちょっと熱すぎやしないかしら」
「熱いお茶でさっぱりするがいいデスネ!」
「なんで微妙にキレてるのよ……」
「へん!」
ニシワタリはお盆に最後まで残っていた湯飲みを取り、一気呵成に飲み干した。そして一言。
「熱い!」
「そりゃそうでしょうよ」
サティスファクション都にそう突っ込まれるが、ニシワタリは気にしない。今気にすべきは、どうやって未来見の水晶を探し出すかだ。
(ああ、面倒デスネ。でも、そうしないと、今の生活が崩れちゃいマスシネ……)
そこで、ニシワタリは口角を微妙に上げる。今の生活崩れる、という言葉が自分から出るのが、妙な気分だったのだ。
(なんのかんので、この安楽に慣れてしまったんデスカネ。らしくないノカ、らしくなったノカ……)
そう、ニシワタリは自嘲するのだった。
したいことが増えると時間のせめぎあいというか、奪い合いが発生するなあ、という状況であります。次は大体見えていますが、はてさてどうなるやら。