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第五枚 クラス<ネクロマンサー>について

 とある県のとある場所。そこで、ニシワタリは囚われていた。

 が、その捕囚に綻びが見える瞬間がやってきた。捕まえている側の女が、ニシワタリから視線を逸らしたのだ。

(チャンス!)

 とばかりに、ニシワタリは死角を探した。死角さえあれば、逃げられる!

 だが。

(って、無い!?)

 すぐに見つかるだろう、と思った死角は、しかしどこにもない。あるにはあるが、己が入るレベルの大きさなのは、まさに微塵もないというレベルだ。

「逃げられると思ったかな? そしてちょっと絶望の顔になっているな?」

 視線を外したままだというのに、こちらの表情を言い当てる女。そのことに、ニシワタリは嫌な予感を覚える。

「あなた、後ろにも目があるノデ?」

「後ろ? はははっ!」

 女は笑うと、ぱちんと指を鳴らした。

 と同時に、目が見開かれた。

 壁に、シャッターに。

 天井に、床に。

 目、眼、目、眼。

 そこには無数の目があった。

「ぎょわ!」

 それらが一斉に自分へと向けられる本能的な恐怖に、ニシワタリは奇声を上げた。

「はははっ! そういうベタな反応は嬉しいね! あたしは九十九眼のリリってもんだ。で、あんたは鬼女の走狗、……今はニシワタリか」

「……あなたのその能力からスルト、大分ワタシのことを知ってのセレクションみたいデスネ」

「だな」

 そう答えてはははっ、と笑う九十九眼のリリ。いっそ清々しいくらいの余裕だ。

「で、俺としては拷問とか趣味じゃないんだ。正直に話してくれないか? またあいつに拷問されるのも嫌だろ?」

「……本当に、ちゃんと話せば解き放たれるんデスカ?」

 ニシワタリの問いに、九十九眼のリリは真剣に答える。

「それは安心していいぞ。まあ、俺たちが奪ってくるまでは捕まっててもらうが、その後は解放するよ」

「……」

 ニシワタリはしばらく黙す。九十九眼のリリは特に急かさず、待っている。

(さて、どうしたものデスカネ……)

 言葉を信じていいかというのは、五分五分とニシワタリは見る。騙す気ならいくらでも騙せるから、疑ったらキリがない。だが、相手もこちらのことを大分知っているようである。つまり、ニシワタリに何かあれば、サティスファクション都がどういう行動に出るか、というのも理解しているだろう、と言うことだ。

(……、どういうことするデショウネ、あれは)

 その点に疑問が出て、ニシワタリは少し戦慄してしまう。積極的に敵を討ってくれる、とはちょっと思えない。その辺が相手にも知られていたら……。

「言う気になったか?」

 表情の変化は意識して消していたつもりだが、そのタイミングからすると九十九眼のリリは表情の理解が得意なのだろう。伊達に目がたくさんある訳ではないようだと、ニシワタリは辟易する。

 では、どうするか。その行動を、ニシワタリは決断する。

「……言いマショウ」

 その言葉に九十九眼のリリが、ほくそ笑んだ。


 所変わって。ある県のある住宅街の外れの外れ。

 そこにゲーマー妖怪が、引き続き、いる。

「サティスファクション都です。時間経過はまだまだ遅いままよ? で、今、美咲たちは対戦しているところね」

「全然勝てないぞ! どうなっているんだ! つかカードこない!」

「案外勝てるもんだね、こういうの。いいカードがここぞできてくれるよ」

「状況的には悲喜こもごものようね」

 そこに、黒髪ポニテの城茂美が、突っかかってくる。

「なんだか! 全然! 勝てない!」

「そう? 初心者だからそういうものじゃないかな?」

 と犬飼美咲。茶色の髪の毛のように発言も、もふもふとしている。

「そういう君はそこそこ勝っているじゃないか!」

「運が良かっただけだよ。まだデッキにも慣れてないんだから、そう急いで結論つけなくてもいいんじゃないかな?」

「だが……」

(城って、勝負事には煩いわね。家系なのかしら)

 などと、サティスファクション都は思う。自分の知る城の一族は、それはもう負けず嫌いだった。こっちが殺さないのをいいことに、何度も何度も、本当に何度も襲ってきたのだ。こちらを厄介者扱いだったが、むしろお前たちの方が厄介だろう、と常々思っていたものだ。その末裔も、やはり勝負にはしつこい。なんだか妙な感慨すら湧いてくる。

 と。

「都くん、これやっぱりデッキが悪いと思うだが!」

「責任転嫁? それは良くないわよ、城」

「いやいや。いやいやいや」

 手をぶんぶんこと振る茂美。間に風がそよぐ。そよがせながら、茂美は言う。

「どうにも、僕にはちまちまと出していくタイプのデッキは似合わないようだよ。もうちょっと複雑な、ただ出すだけじゃないコンセプトがいいね」

「成程、趣味が合わないという逃げ道な訳ね」

「逃げ道じゃない! 似合わないんだ!」

「はいはい」とサティスファクション都は軽くいなすと、「なら」と続ける。

「違うコンセプトのデッキをやってみる?」

 茂美は、応、と答えた。


「で、ただ出すだけじゃないコンセプト、というと、やはり<ネクロマンサー>ね」

「そうなのか? えーと、墓地を溜めて<ネクロマンス>能力で増強するタイプ、だったか」

「ええ。もう少し詳しく話しましょうか」

 そう言うとサティスファクション都はホワイトボードの記載をまた消して、<ネクロマンサー>についてとは、と記載した。

「<ネクロマンサー>の特徴である<ネクロマンス>についてね。さっき城が言ったように、墓地に行ったカードの数値を使って能力上げるのが<ネクロマンス>よ。ただ墓地に行くだけじゃなく、ファンファーレとか毎ターンにとか、で墓地の数値を増やせるフォロワーやアミュレットもあるから、それと組み合わせればかなり素早く墓地が耕せるわ。そして如何に上手く<ネクロマンス>を使えるか、というのが一つの指標になるクラスよ。そして、<ネクロマンス>があまり使えない序盤をどう乗り切り、豊富な中盤から後半で畳みかけるか、というクラスでもあるわ」

「出すだけじゃなくて、倒されるのも考慮にいれる、という感じなのかな?」

 サティスファクション都は美咲の言葉に頷く。

「如何に相手に打撃を与えつつ、こちらの墓地を耕せるか、という思考が必要ね。あと1で使えるからここはあえて捨て石になる、とかね」

 それから、とサティスファクション都は続ける。

「ラストワードの能力持ちが多いのも、倒される方がいいという部分ね。だから、変な話だけど積極的にやられられる、というのが<ネクロマンサー>の強みね。まあ、消滅には弱いから、かなり相手のクラスに、というかビショップに対して苦手意識もあるけどね」

 サティスファクション都は、伸ばした手で『<ネクロマンサー>は倒されるのも策の内』、とホワイトボードに記載される。

「では、またカードの話をしていきましょうか!」

 ホワイトボードに、『コスト別この一枚+α』と記載される。

「また、それをするのか」

「当然! まず『コスト別この一枚』とは! コスト毎にこれ! というカードを上げていくネタよ?

 ということで初めのコスト1! スペルの<ソウルコンバーション>! 自フォロワーを一つ破壊してカードを二枚引く効果は、墓地の数を増やしつつ手札を増やすし、ラストワードも使えるから一石三鳥! <ネクロマンサー>だからこその恩恵ね。

 次にコスト2! フォロワー<スパルトイサージェント>! コスト2としては平均的な攻2体2だけど、ファンファーレで墓地数+1出来るのが地味だけど有用! 一体で墓地+2出来るのも同然だから、色んな所で出しては死んでいくフォロワーね」

 <ソウルコンバーション>には一石三鳥。

 <スパルトイサージェント>には墓場の為に死んでくれ。とホワイトボードでコメントがいれられる。

「次行くわよ! コスト3! フォロワー<ラビットネクロマンサー>! 攻3体2と平均的なコスト3フォロワーだけど、ラストワードで相手リーダーに2ダメージを与えられるのが強みね。特に終盤であともう少し、と言う時には倒すも残すも面倒、という嫌なフォロワーよ。

 +αのもう一つ、コスト3! スペル<怨嗟の声>! 攻1体1で疾走持ちの<ゴースト>を二枚出せる、というので場面次第で十分な効能があるけど、コストを多く支払うことで脳力が付与される<エンハンス>で8コスト使うとそのゴーストに必殺持ちになる、という強力なスペルよ。守護持ちや大型フォロワーを排除するのにとても使えるわね」

 <ラビットネクロマンサー>に倒しても倒さなくても厄介! と。

 <怨嗟の声>に必殺ゴースト! と記載される。

「次。コスト4! フォロワー<ネクロアサシン>! 攻3体3とコスト4としては、だけど、こちらのフォロワーと相手フォロワーを一体ずつ破壊する、というファンファーレ持ち! 相手のフォロワーはランダムなのが難だけど、一体だけならそれに確定だから、案外狙って潰すことも出来るわね。後、こちらのフォロワーも破壊扱いなのであえて潰してラストワードを使えるのもいいわね。

 コスト5! フォロワー<ケルベロス>! ファンファーレでトークンながらダメージスペルと強化スペルを手札に、というのが強みね。基本ステはコスト5としては若干低めなのが唯一の難点ね」

 <ネクロアサシン>にフォロワー破壊は正義! と。

 <ケルベロス>にスペル目当て! と記載される。

「それじゃあ次ね。コスト6! スペル<死の祝福>! 基本は攻2体2のゾンビ3体出すだけだけど、<ネクロマンス>ありならそれに体+1して更に守護が付くという大きなおまけ付き! 全体攻撃じゃない限りはかなりの防衛力を発揮するわね。

 +αでフォロワー<デスタイラント>! 基本は攻3体3の、疾走持ちとはいえコスト6とは思えないひ弱さだけど、墓地の数が20あれば<ネクロマンス>で攻体共に+10という破格の底上げが可能! フィニッシャーとして機能するフォロワーよ。まあ、墓地が20というのが相当難しいけどね!」

 <死の祝福>に防衛力! と。

 <デスタイラント>に<ネクロマンス>さえすれば! と記載される。

「まだまだ行くわよ! コスト7! フォロワー<冥府の戦士・カムラ>! 守護持ちのみならず、ラストワードで相手の最大攻撃力フォロワーを倒せて、更にその攻撃力分、リーダーの回復が出来る! 基礎能力攻4体5と低めだけど、それを補える特殊能力持ちね。

 で、コスト7の+α! フォロワー<蠅の王>! 基本能力は攻体共に4と低めだけど、ファンファーレと自ターン開始時に特殊なトークンフォロワーを、三体の内からランダムで召喚出来るのが強み! どれもそこそこ優秀だから、長生きさせてたくさん出したいわね」

 <冥府の戦士・カムラ>にやられてこその! と。

 <蠅の王>に生き残ってこその! と。

「コスト8! <デュエリスト・モルディカイ>! 倒してもラストワードで<デュエリスト・モルディカイ>を、つまり自分を再配置するという超面倒臭いフォロワー! 基本能力は低めだけど、倒されるのを気にせず殴れるのは強いわよ!

 そして最後にコスト9! <骸の王>! 場に4枚カードがある状態だとコスト0になるという無茶な能力持ち! その状態で場に出ると他の4枚は破壊されるけど、ラストワードは発動出来るからその効果で場を維持するのが重要ね!」

 <デュエリスト・モルディカイ>に倒されようが関係ない! と。

 <骸の王>にどう場を維持するかを考えられれば強い! と。サティスファクション都は書ききった。

 さて、とサティスファクション都は一息つく。

「大体この辺が強かったり特殊だったりと色が分かり易いカードね。さっきも言ったように、ラストワード持ちも多いし、また必殺持ちもそこそこいるのもポイントかしらね。後は、<ネクロマンス>が使えると性能が変わったりするのを覚えていけばいいかしらね」

「ああ、ああ、うん」

 茂美がまだちょっと混乱した状態で視線を彷徨わせている。美咲も分かっているような分かっていないような実に良く分からない表情だ。

(流石に詰め込み過ぎてるかもね)

 と、分かっているのにやる方もやる方である。

「煩いわね! あと、これROB環境の時に書いたからそのつもりでご了承願います!」

「ああ、うん。都くん。それはいいんだ。カードのことは知っておかないといけないのがカードゲーの世界の掟だ」

「掟じゃないと思うけどね」

「それはいいんだ」

 と、同じ言葉を二度言う茂美。そして爛としたぐるぐる目で、座ったままサティスファクション都に詰め寄る。

「強いデッキはどんなのなんだ?」


「藪から棒ね、城」

 嘲笑含みの言葉だが、それには意を解さず、茂美は言う。

「棒でも蛇でもなんでもいい。勝ちたい」

 切実であった。実際の所、先ほどの<ロイヤル>での勝率は美咲に劣るとはいえ全くない訳でもない。というのにこの前のめりである。そうさせたのは己であるというのはサティスファクション都も分かっている。そうさせて楽しむつもりだったからだが、思った以上に効果が高かったようだ。

 なので、サティスファクション都はしょうがないとばかりに提案する。

「それなら<ミッドレンジネクロ>辺りかしらね」

「<ミッドレンジネクロ>。……ネクロは<ネクロマンサー>の略だと分かるが、<ミッドレンジ>とは?」

 その言葉を、サティスファクション都は伸ばした腕でホワイトボードに記載する。

 <ミッドレンジ>とは? と。

 そして言う。

「これはカードゲーム用語ね。主に中盤戦を意識したデッキ構成のことを言うわ。あるいは中量級のコストのフォロワーとかを重視した、とも言えるわね」

 ふむ、と茂美。

「<ネクロマンサー>は中盤から、というのに合わせたデッキな訳か?」

「そうなるわね。人によって採用するカードの差異はあるけど、大体<ケルベロス>とかさっきは紹介してないけど強いスペルの<ファントムハウル>辺りは大体入れられるわね。これを使える状態になった辺りから一気に行くのが<ミッドレンジネクロ>の基本よ」

 4~5コスト辺りを見る、とホワイトボードに書くサティスファクション都。続ける。

「キーカードとしては今言ったように<ケルベロス>と<ファントムハウル>、<ラピッドネクロマンサー>、4コストでやられると攻4体4の<リッチ>が出せる<地獄の解放者>も有用ね。後はほぼ死なない<デュエリスト・モルディカイ>や、生き残ると厄介だから強い<蠅の王>まで見るかどうか、という形になるわね」

 キーカードをいくつか記載ながら、サティスファクション都は問う。

「その辺まで行くのか、それより前に倒すのを意識するか、というので差異はあるけど、城としてはどっちがいいわけ?」

「中盤じっくりタイプだな。そういうのが僕には向いている気がする」

「なら、<デュエリスト・モルディカイ>辺りをフィニッシャーにするのがいいでしょうね。城の持ちカードで……、一枚あるから、となると……」

 サティスファクション都は茂美のスマホを見ながら、デッキの組み方の指南を始める。茂美はそれを聞きながら組んでいっている、その隣で若干美咲はふと思ったことを口にする。

「ニシワタリさん、どうしたの?」

「ああ、それに気づいたの、美咲」

 サティスファクション都は美咲の方を見て、「そうなのよ」、と言う。

「どうも昨日から見なくてね。どっかで捕まってなきゃいいけど」

 と。

「ただいまデスヨー」

 ニシワタリの声である。そして足音が聞こえる。

 サティスファクション都が声をかける。

「どうしたの、ニシワタリ。昨日から見かけなかったけど」

「そりゃ、ワタシにだって用事くらいありマスヨ。ああ、ちょっと失礼しマスヨ。すぐに出ないといけないノデ」

「……? どこに?」

 和室にやってきたニシワタリは、なんでもないように言う。

「用事の続きに、デスヨ。なに、すぐ終わりマスカラご安心を」

 そして、和室から自室の方へと向かっていった。

「……変なの」

 この時はそうとだけ思ったサティスファクション都だったが、のちに何故もうちょっと突っ込まなかったかと後悔するのであった。

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