第四枚 クラス<ロイヤル>について
とある県のとある場所。あるいは廃工場であろうか。と、ニシワタリはあたりを付ける。
ニシワタリが囚われている。銀色のショートカットを掴まれ、苦鳴を漏らすニシワタリ。既に何発か打撃を食らっている。顔ではなく腹だ。
「喋る気になったか?」
「げほっ……、喋る前に殴ってる、じゃないデスカ……」
「そうだっけか? まあ、それはどうでもいい。用件は、今はサティスファクションのこと、特にその手にある未来見の水晶の在処だ。お前さんなら知っているだろ?」
「だから、それを言おうと、してるじゃないデスカ……」
「いやあ? ちゃんと、というのとは違う雰囲気を薄々と感じるなあ」
(こいつ最悪デスナ……)
適当なことを言って解き放たれようと思っていたのを悟られているようだ。しかし、だからってぶん殴られる理由にはならない。喋らないのを理由に殴るのを含めて、この拷問を楽しんでいるのだ。
(なんとか、死角が出来ればいいんデスケドネ……)
ニシワタリの妖怪としての技能があれば、死角さえできれば逃げおおせる。だが、その死角が生まれない。油断しているようでいて、しかしじっくりと視界の内にとどめられている。その辺りを知られているのかもしれない。
(……ワタシってそんなに有名デシタカネ?)
疑問が出るが、それを回答できても事態は変貌しそうにない。
「おらっ!」
「ぐゃっ!」
腹部に打撃。息が強引に吐き出させられる。
「うぐ……」
「もう一度聞くぞ? 未来見の水晶は、どこだ?」
「げほっ、げほっ」
(まずいデスナ……)
ニシワタリとて妖怪。これくらいの打撃で死ぬことはない。だが。
(痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい!)
妖怪にとって酸欠という概念は人のそれより薄いが、それでも酸素不足になれば脳も回らない。あるいは、それも見越しての打撃かもしれない。やはり厄介な相手と言える。
このままサンドバックか? と変な覚悟すら決めかけてる、ニシワタリだったが、そこに声が入る。
「そろそろ時間だぞ」
聞こえるのはどすは効いているが女の声だ。外から聞こえてくる。その声に、男は命令を受けた猟犬の如く素早く反応した。
「おっ? 本当かそうかもう時間か」
男の哀しそうな声に対して、外の声の主は「全く」と倦怠感を露わにした声色だ。
「お前の趣味の方で時間をかける訳にはいかんからな。全く。それさえなければ有能なのにな、お前」
「むしろ逆だ。有能だから、こうやって趣味の時間が持てるんだ」
男の偉そうな声に対して、外の声の主は再び「全く」と倦怠感を隠そうともしない声色だ。
「ああ、言いえて妙だな。入るぞ。逃がさないようにしろ」
「任せろ」
と、壁の一角が上がっていく。シャッターなのだろう、とニシワタリはあたりをつける。この街でシャッターの入り口を持つ施設、と一つ情報が入る。それなりに特徴的だ。
(でも、それだって結構数ありそうデスケドネ)
有効な情報になるか。それはこの後の情報収集次第だろう。引き続き、出来る限りの情報を得ようと、機をうかがうニシワタリ。
シャッターは少しだけ開いたかと思うと、その小さな隙間からごろり、と何者かが入ってきた。上げ切らない辺り、情報を制限したいというのが見て取れる。やはり特徴的な場所なのかもしれない。
ごろり入ってきた者は立ち上がると体をぱんぱん叩いてそれからニシワタリに近づく。
やはり女性である。体型からそう見て取れる。人間か妖怪か、というのは一見しては判別がつかない。それに先ほどから男が当てていたライトを渡されると、そのままニシワタリの顔に近づけている。なのでその容貌も呆としたものでしかない。ただ、またシャッターが開き、男が出ていく気配があったのだけは僥倖だ。
(とりあえず、二人だか二体だかでいるのは分かりマシタネ。で、今一人だか一体だか。それ以上いなければいいんデスガ)
それで、どう逃げ出すか、というのをニシワタリがうんうん考えていると、女が言った。
「馬鹿が無礼で悪かったね。あいつ頭がおかしいんだ」
「デショウネ。それを使うあなたも」
女は「ははっ!」と笑って応対する。
「そりゃそうだな。そう思われて当然だ。しかし、誓って言うが、俺は拷問には反対なんだ」
「部下にやらせておいてどの口が言いマスカ」
「言うのはこの口だ」
と、自身の口元に指をやる女。いけしゃあしゃあである。
ニシワタリの憤然を無視して、女は続ける。
「あの男な、拷問させないと仕事しないんだよ。やる気にならないってんだ。だから部下の仕事の活力をちゃんとみてやるのも、上司の仕事だろ?」
(こいつもこいつでやばいデスネ……)
とりあえず、碌な相手ではないのだけが良く分かる。このままこいつらと一緒にいるのはどうしても避けたい。なんとか死角が出来ないか。そう思った矢先。
「ボス」
と男の声がした。先ほどの男だ。
その声に、女が「なんだ?」と振り向いたのだ。
死角が生まれる。
(チャンス!)
ニシワタリは、この機を逃さず動いた。
所変わってとある県のとある住宅街。その一角の隅っこの端っこ。そこにサティスファクション都邸がある。
妖しく煌く黒髪を意味もなくひらめかしながら、サティスファクション都は、睥睨する。一通り最初に貰えるカードパックを引き終わり、サティスファクション都がご祝儀として渡した課金分も引き切った犬飼美咲と城茂美の様子をうかがう。前者はやりきった達成感めいたものがある。後者にはこれでどうするんだ? という迷いがある。どちらも等分にほほえましい。
サティスファクション都は言葉を開く。
「さて、ある程度カードは揃った状態わね。では、ちゃきっとデッキ組んでみましょうか」
「おいちょっと待て」
茂美の制止に、サティスファクション都は若干不満そうにする。それを無視して、茂美は言う。
「カードの数が足りないんじゃないか?」
肩をすくめるサティスファクション都。
「その辺は好みの問題よ。シャドバはログインボーナスとかミッションとかをこなせばじりじりだけどカードは揃えられるのよ?」
「今現在が無いんじゃないかって言ってるんだよ」
「そうね」とサティスファクション都は一旦認める。がすぐに反論。
「でも、ルピという仮想通貨を手に入れられるのは対戦するか、ログインボーナスだけだから、まずはそこそこでも行けるデッキを作る、というのが今回の趣旨な訳」
「いやでも、もうちょい強いカード引けてからの方が」
「そんなこと言ってたらいつまで経っても理想のデッキは出来ないわよ」
サティスファクション都がそうピシャると、茂美も、ぐぬ、とうめいて沈黙した。
「で、今回作るのはクラス<ロイヤル>でいくわ」
「<エルフ>じゃなくて? 初心者向きなんじゃないの?」
美咲の疑問に、サティスファクション都は流麗に答える。
「あれは嘘だ。というのは半分程度かしら。<エルフ>は場に出すことがキーというので分かり易いんだけど、デッキを組むとするとわりとレアリティの高いのが必要な場合が多いの。その点<ロイヤル>は比較的安価でもデッキを作り易いし、狙いも分かり易いから、出だしである今回は<ロイヤル>な訳」
「成程なー」
美咲が納得したのをてことして、サティスファクション都は続ける。
「じゃあ、<ロイヤル>の特徴を掘り下げましょうか」
そう言うと、サティスファクション都は出しっぱなしのホワイトボードの面の文言を拭きとり、新たに『<ロイヤル>とは?』と意味深長な文言を書き加えた。
「さて、美咲。<ロイヤル>はどういうクラスだって説明したかしら?」
問われ、美咲は首をひねりひねって絞り出す。
「軍隊のイメージ、だっけ? とにかく出す? <兵士>と<指揮官>がお互いに影響し合う、ってのもあったかも」
「大体そうね」とサティスファクション都。
「<ロイヤル>は基本的に手数で攻めるのが売りのクラス。ファンファーレ時にフォロワーを配置するものが多いから、素早く場にフォロワーを並べられるのがポイントね」
「<兵士>と<指揮官>での影響と言うのはどういうのなんだ?」
「いい質問ね、城。これは基本的には<兵士>は場に<指揮官>がいれば特殊能力が発動する場合が多くて、逆に<指揮官>は場に<兵士>がいればその能力の底上げをする場合が多いわね。例えば<指揮官>タイプの<カースドジェネラル>の場合、場に<兵士>が出ると、その<兵士>に<疾走>を付与するわね」
「成程。お互いに影響がある、というのはそういうことか」
納得する茂美をよそに、サティスファクション都は続ける。
「とりあえず、<ロイヤル>デッキの良さは、誰でも、またデッキが安くても平均して勝ちやすいということね。特に場に多数のフォロワーを出して攻め切るのは、それほど頭とキーカードを使わないけど効果が高いし、<兵士>と<指揮官>のシナジーもすぐに慣れるし。そして上手くその方向にも持っていきやすい。それが<ロイヤル>のド基礎ね」
さて、とサティスファクション都は一区切りつけて、表情をあらかさまに胡散臭く輝かせて、そして切り出す。
「いってみましょうか、『コスト別この一枚』!」
「『コスト別この一枚』について説明するわね?」
「いや、大体分かる」
という茂美の言葉を当然無視して、気分よくやり始めるサティスファクション都。
「『コスト別この一枚』は、そのままコスト別にこの一枚というのを選び出してみる遊びよ。それちゃうやろ、は当然織り込み済み! まあ酔漢のたわごとと思って、お付き合いいただければこれ幸い!」
「あ、ああ」
テンションの糸が張り裂けんばかりのサティスファクション都に気圧される茂美。それに気をよくするサティスファクション都は続けた。
「まず、コスト1! これは<クイックブレーダー>ね。コスト1で攻1体1ながら<疾走>持ちで、強化後すぐにリーダーの顔を張れるのがポイント高いわね。序盤で引くのも当然ありだけど、中盤以降に強化を絡めて顔を張る要員と考えるのもいいわ」
サティスファクション都は「次!」と理解を待たずに進める。
「コスト2! <メイドリーダー>! <指揮官>を引く効果はレアリティが高い! 戦闘ではあまり役立たないけれど、この効果だけでも十分元は取れるのがいいわね。速攻で決める場合のデッキでは<指揮官>の数より<兵士>の数の方が多くなりがちだから、<指揮官>を中々引けない場合もあるのよね。それのフォローとして最適!」
そのままのテンションでどんどんと進めるサティスファクション都。
「コスト3! <冷酷なる暗殺者>! <必殺>持ち! 体力は1と低くて普通に出しては潰されやすいけれど、場に<指揮官>がいれば<疾走>を持つから、そうなれば後半でも<必殺>を活かせるのは強い!
で、コスト4! <ミラージュディフェンサー>! コスト4守護持ちながら攻3体4のいい性能なので、<潜伏>持ち重視する場合とかの、<リーダー>への被弾を減らす盾として有用!」
ホワイトボードに記載して、更にに続ける。
「コスト5! <旋風刃>! 新カードパックで追加された<ロイヤル>には有難い全体攻撃スペル! フォロワーの攻撃力依存だから、フォロワーが出てないと駄目だけど、フォロワーの攻撃力が上げれば威力も上がるというのがポイント高いわね。ただ味方<フォロワー>も同じダメージを、と言うのは忘れないように!
コスト6! <セージコマンダー>! タイプの別なく味方の能力に攻1体1プラスするのが地味ながら強力! 場にフォロワーが揃っている時にぶち込めば勝敗を決する場合もあるかも! 基本性能も悪くなくて使いやすいフォロワーね」
次に! と畳みかける。
「コスト7! <コウガクノイチ>! 単体の性能は攻3体3と低めだけど、一時的に攻撃対象にならない<潜伏>と、分身して二体になるので一枚で二度美味しいフォロワーよ! 上手く攻撃力を上げて活躍させたいわね。
まだまだ行くわよ、コスト8! <ファングスレイヤー>! 色々と特殊能力を盛ったフォロワー! 配置即殴れる<突進>に、相手フォロワーを確実に倒す<必殺>を持っているだけでも強いのに、その時のダメージを相手リーダーにぶつけられるのが更に強いわね。実質<疾走>持ち扱いでいいかも。そして<必殺>持ちにしては珍しく体力が8と高いから意外と生き残りやすいのもポイント!」
最後に、とサティスファクション都は言う。
「コスト9! <レオニダス>! 唯一のコスト9枠! 性能攻7体8とコストに見合った感じだけど、その真価はラストワードで出せるアミュレット<レオニダスの遺志>! これがあるとそこに出たフォロワーが攻+3に体+3の上に<突進>を得る好待遇! <指揮官>タイプだったりするのもご愛敬! ということで、『コスト別この一枚』、おしまい!」
言い切った、といういい汗を拭うサティスファクション都。一方、美咲と茂美は話にややついてこれていなかった。
「ちょっと勢いが過ぎたわね。まあ、この辺はあればいいなあ、くらいでいいから、とりあえずデッキ組んでみましょうか」
そこで、サティスファクション都は「あっ」と言って、そこに続けた。
「これはROB環境の時に書いたので悪しからずご了承ください!」
「またしても何言っているんだ、都君は」
茂美が怪訝な表情になるが、サティスファクション都はまるっと無視した。
一呼吸あってから、基本はね、とサティスファクション都は説明する。
「<ロイヤル>は低コストで組むデッキが比較的組み易いわ。レアリティの低いのも多くあるし、最初からあるデッキのフォロワーもだいぶ使えるからね」
「でも、最初から使えるのって弱いんじゃないの?」
そういう美咲に、サティスファクション都は「ノン!」と強く答える。
「初期からあるカードでも、使えるものは多いのよ? <ロイヤル>だと、低コストで一枚出すと都合二枚になる<オースレスナイト>とか<アセンティックナイト>、ストーリーを進めれば手に入るわりに使いやすい<フローラルフェンサー>、さっき言った<クイックブレーダー>や<セージコマンダー>も最初から三枚ある状態だからね。軸は作り易いのよ。後は味付け次第ね」
「成程なー」と美咲は納得する。
「で」と茂美。
「肝心の味付けの方はどうするんだ?」
「とりあえず、さっき言ったように低コスト帯フォロワーを重視する組み方がいいでしょうね。コスト4帯までを中心とした編成でいくと、PP溜るまでの待ちも少なくて扱いやすいわ。一枚で複数出せるフォロワーもいるから、手札の数が困ることも少ないから、手札を回す為の手段も多くなくていいわね」
「<兵士>と<指揮官>のバランスとかはどうするの?」
美咲の問いに、サティスファクション都は考えつつ答える。
「基本的には、どちらを優先するというより、能力で決めた方がいいわね。どういう狙いか、というのと合わせて考えて、バランスを取る、という風かしら」
「スペルとかアミュレットはどうするんだ?」
そう問う茂美に、サティスファクション都は思案しながら答える。
「<疾走>持ちと<守護>持ちの<兵士>を場に出す<アルビダの号令>辺りは、コストのわりには使いやすいわね。<兵士>を引く用の<兵士徴集>も、<指揮官>が場にいれば二枚引けるから、手札を増やすのに使うかしら。後、さっき言った<旋風刃>も中々強力だからオススメね。アミュレットは趣味でいいわ」
「趣味て」
「まあ、<指揮官>の効果があるアミュレットは、<指揮官>の数に入れられるわ。アミュレットはそれほど頻繁に除去されるものでないから、そういう意味では入れていてもいいかも、ね」
それだけ言うと、サティスファクション都はのたまう。
「まずは、自分でとりあえず組んでみて、プラクティスで試して、実戦よ! さあ、ちゃっちゃと組みなさい!」
はーい、と、片方は楽しそうに、片方は不安そうに答えるのを聞いて、サティスファクション都は満足げにうなずくのであった。
「にしても」
サティスファクション都はつぶやく。
「ニシワタリのやつはどこでなにをしているのかしらね」