第30枚 <Altersphere/次元歪曲>のカードについて
ここはいつものところである。つまり、ある県のある都市のある住宅街のはずれの、妖怪屋敷である。
そこで、屋敷の主であるサティスファクション都は長い黒髪を前に垂らして気味悪く唸っていた。
「弱ったわね」
「気配は感じていたってのに、不用意がすぎマセンカネ?」
従者ということになっている銀髪の妖怪、ニシワタリが言葉で突っつく。サティスファクション都は抗弁。
「いや、あの牢を破れるとは、まさかよ? この屋敷の一部だから、妖怪牢ってレベルのものだからね? 容易くは破れないのよ?」
「では、都君だと、どう破る?」
ポニーテール女子、城茂美の問いに、そうねえ、とサティスファクション都。
「何かしら牢を開ける方法が無いか、それを確認するわね。出来れば家主がするのを確認して、それを使うわ」
「たぶん、それをやられたんだろうね」
ぽわんこ系の犬飼美咲の言葉に、サティスファクション都はまた唸る。
「そこに行く時は隙は見せてなかったつもり、だったんだけどねえ」
「実際破られているんデスカラ、その線が有力デショウネ」
「ぐぬぬ……」
唸るサティスファクション都。この後、奪われた水晶の本当の持ち主であるパッション郷がやってくることになっているのもあり、大変気が気ではない。千年は生きているらしい妖怪なのに、と美咲は思う。
とはいえ、一度してやって、ここから追い詰めるという段でこれである。気に病むのはしょうがないか、とも、美咲は思う。
と。
「うん」
サティスファクション都が一言。そして次の一言。
「考えるのを止めて、<シャドウバース>の話をしましょう」
皆が集う和室に衝撃が走った。
「現実逃避だ」
「現実逃避だな」
「現実逃避デスナ」
「うるさいわねえ! この後酷い目に遭うのが確定的だから、せめて今は気持ちよくいたいのよ!」
ということで! とサティスファクション都はいつものようにどこからともなくホワイトボードを召喚した。
そこに、大きな大きな文字で書く。
<次元歪曲>
と。
「さて、シャドウバースの新カードパック<次元歪曲>。目玉は、今までいたクラスと違うクラスに移行したフォロワーね。ネクロマンサー側だった<魔将軍・ヘクター>がビショップ側で<聖騎士・ヘクター>に、とか」
「また暴れそうなんだよなあ」
「運営は思考力があるんデショウカ」
「運営批判はなし! 不毛だからね!」
そうサムズアップして言うと、サティスファクション都はホワイトボードに書いた文字を消し、また新たに書く。
<どっちがいいカードでSHOW!>
その文字に、美咲ははてなとする。
「どういうこと?」
「特に難しいことはないわ。今からニシワタリと城にカードのプレゼンさせて、どっちのがいいか、美咲が決めちゃうってことよ」
「なんで最初からそういう役振っているのか!」
「自分は高見の見物デスカ、サティスファクション!」
噴き上がる二人に、サティスファクション都は煽る。
「何? 自分のプレゼン力が弱くて逃げ口上って訳?」
「「なっ!」」
噴き上がりから更にいきり立つ二人を見て、こういうどうでもいいところでムキになるよなあ、と、蚊帳の外なので気楽な美咲は思う。
それとは関係なく、サティスファクション都の思惑通りに二人は発言する。
「やってやろうじゃないか」
「やってやるデス!」
そういうことになった。
「で、どこから始める?」
美咲が問うと、サティスファクション都は明快に言う。
「まずはニュートラルからね」
「「となると<氷獄の王・サタン>!」」
「……順番を決めなさい。同時に同じの言いだしたら意味がないでしょ、プレゼン勝負なんだし」
「「じゃあこっちは<氷獄の王・サタン>!」」
「人の話を聞きなさい。同時に言うなって言ってるのよ」
呆れ顔のサティスファクション都と美咲。それに流石にやり過ぎを感じたのか、二人はクールダウンの深呼吸。その様にサティスファクション都は助け船を出す。
「そっちが決められそうにないから、順番はこっちで決めるわ。まずは城が先手。で、クラスごとに交互に先手になるように、ね」
ニシワタリと茂美は頷く。そして番だから、と茂美が話し出す。
「ニュートラルならやはり<氷獄の王」
「あ、そうだ。カードを選ぶのに、制限を入れましょうか」
「サタン>って話の腰をいきなり折るなよ!」
サティスファクション都をどやす茂美。だがサティスファクション都はペースを揺るがさない。
「いやでも、先手が有力レジェンド言って勝つってパターン、面白い?」
「それは、確かに」
「デスネ」
茂美とニシワタリは納得の模様である。
「納得するんだ」
と美咲。
「そりゃそうだよ、折角なら面白く、だ。話の腰を折る前にやって欲しかったけどね」
「同意は得られたみたいだから、ぱぱっとに決めちゃいましょうか。ワタシが決めていいかしら?」
「ああ」
「問題ないデスヨ」
「なら、レジェンドは2、ゴールド2、シルバー2、ブロンズ3って配分ね。先にレジェンドで勝ち数を刻むか、ゴールドで安パイするか。その辺はご自由に」
茂美が言う。
「では、僕の番だな。ここはやっぱりレジェンドを切るよ。ニュートラルは<氷獄の王・サタン>! これだね。コストは9でステータスは7の7」
「カードの能力は?」
美咲の問いに、茂美はスマホでシャドバの攻略情報のページを確認しながら、話す。
「こいつ自体の能力は、ファンファーレでデッキをコキュートスカードのデッキにする、だね」
「コキュートスカード?」
うーん、と茂美は難しそうな顔をする。
「これは長くなるからねえ。はっきり言うとググれ、だな。僕も全部完全には覚えてないし。でも、とりあえず、頭おかしいカードが満載のデッキになる、と思ってくれていい。ついでにアクセラレート3でその頭おかしいカードの中から4枚をデッキに加えるというのもある」
「となると、ドラゴンっていう以外でも使える可能性が、ってことかな?」
美咲の質問に、茂美は然りと。
「言っても、デッキに埋めるからきっちり引ける手がないなら、確実性には欠けるのが難だがね。でも、他のクラスでも使える可能性は<サタン>よりある。そして頭おかしいカードは本当に頭おかしいから、かなり席巻する可能性もあるね」
そこまで、とサティスファクション都は区切りを入れる。そして続ける。
「対して、ニシワタリは?」
「ここはゴールドを切りマショウ。<唯我の一刀>デス」
ニシワタリは、ホワイトボードに筆記しながら、<唯我の一刀>について説明する。
「これは単純に言うと5コスト確定除去デスネ。アミュレットも破壊出来るノデ、<エクスキューション>と同じ能力と言っていいデショウ」
「それなら<エクスキューション>でいいのでは?」
もっとももっとも、とニシワタリは同意する。それから、しかし、と反転する。
「これにはちゃんと除去以外の能力も付加されていマス。自分のフォロワーが1体の時に進化した時、このカードのコストは3になるノデス」
「それ、結構大きいね」
ことの次第が分かった美咲が食いつく。
「デスネ。確定除去は5から6コスト、低くてもヴァンプの4コストデスカラ、それに比べれば破格デス。進化時に1体の場合は結構ありマスシネ。今後の確定除去はこれが入ってくると考えて妥当デショウ」
「ニュートラルだから、どのクラスにも入れられる便利な確定除去、という立ち位置な訳だね」
「コストダウンしなくても普通の確定除去なのも、チャームポイントデスネ」
で。とサティスファクション都は言う。
「ニュートラルでは、どっちに軍配かしら?」
うーん、とググりながら美咲は悩んでから、決断を下した。
「ここは、<氷獄の王・サタン>だね。確認したけど、頭おかしいカードの盛り合わせで、どうにも苦笑いレベルだったから」
「まあ、これはしゃーないデスネ。プレゼンで先に取られたどうしようもないタイプデシタシ。<唯我の一刀>ならワンチャンあるかも、デシタケドモ」
「実際の所、入れやすさだったら<唯我の一刀>の方が優位だとは思ったけど、あれだけ凶カード揃いだと、ね」
「デスヨネ。というかどういう理屈でああなったのかと問いただしたいデス」
「そういうのはそこまでよ、次に行きましょう」
ホワイトボードに<城茂美:一勝>と書くサティスファクション都。そこに、
「次は?」
と、茂美の問い。
サティスファクション都はささっと答える。
「次は、ロイヤル!」
茂美は呆れる。
「適当だなあ。流れもなにもあったもんじゃない」
「確定した流れだと先が読めすぎて面白くないでしょ? だからこそ、フレキシブルに!」
「聞き役は楽そうでいいデスナ」
「本当にそうね」
「同意を求めた言葉じゃねーデスヨ」
さておき、とニシワタリは区切って、続ける。
「ロイヤルならブロンズの<神速の歩法>デスネ。これはわりと使い道があると思いマス」
「フォロワーへ体+1に突進と必殺付与だね。シンプルでブロンズらしい一枚だけど、そこまで使える?」
「突進必殺は除去としては大層使えますカラネ。2コストデスカラ、1ターンで使いきるなら最低3コストで除去デス。後半あぶれた低コストフォロワーで相手の大型を取れる、と考えると地味にいいとは思いマセンカ?」
「ロイヤルを捨てたかと思ったけど、中々したたかに考えていたんだね」
得心いった美咲の様子に、ニシワタリはほくそ笑む。確かに捨てのつもりだったが、納得してもらえたなら儲けものである。
「さて、城は?」
「むう、これを上から取る、か?」
「あれ、案外考えることが必要な企画になってるね、これ」
「適当に発案したことだけど、結構楽しめそうね」
適当かよ! と思いつつ茂美は考える。<神速の歩法>が案外いいカードっぽく紹介されたからには、こちらとしては確実に上から取りたいところではある。だがロイヤルのシルバーはやや微妙で、正直<神速の歩法>の方が持っているまである。
となると。
「むう、ここは厳しいがゴールドのアミュレット、<兵士の誓い」だな」
「コストと効果は何かな?」
「コストは5。指揮官フォロワーを出した時、そのフォロワーと元のコストと同じコストの兵士フォロワーが場に出る、というやつだね」
美咲は、む、と興味を持つ。
「結構未知数なところがあるけど、よさげな感じ」
「ローテーションより、アンリミテッドで映えるでしょうね。まあ、逆に言うとローテだとかなり考えないといけない感じだけど」
「でも、一枚で二枚出せる形になるし、それがデッキ圧縮する側面もある。<戦場の歌姫マグノリア>から<簒奪の信徒>、そしてマグノリア進化で一気に三枚出す、と言うのも可能だぞ」
「前提の為の赤液が結構高いのが気になるけど、可能性は感じるね」
「で、美咲。ここはどっちかしら」
ひとしきり美咲は悩み、そして答えを出す。
「ここは<兵士の誓い>だね。今でいける構築は悩みどころだけど、今後のカード次第ではまだ化ける可能性が広いしね」
ということで、ホワイトボードに<城茂美:二勝>と記される。
だが、茂美の心中は穏やかではない。こちらは既にレジェンドとゴールドを一枚ずつ切っている。このまま次の二種でレジェンドとゴールドで勝てても、残り5クラスが全敗となってしまう可能性もある。そうなれば勝利はおぼつかない。
そもそもなんでこんな真面目にやりあっているのかとかも思うが、勝敗に関してはガツガツ行くのが城茂美という人間である。若く、血気盛んなのだ。
そういう懊悩を知ってか知らずか、サティスファクション都は続きを促す。
「次は、ドラゴンかしらね?」
茂美の先攻である。熟考する。
「考えるね」
「この辺りが実は分水嶺だからね。気前よくレジェンドとゴールドを使っちゃったから、ここはいかに低レアで勝つかを考えないといけない場面なのよ。たぶん」
「勘でよくそこまで言うなあ」
そうこうするうちに、茂美は考えを固めた。
「シルバーの<エンパイアドラグーン・エリオス>だね」
「その心は?」
「8コストで4の7で疾走持ち。顔に詰める役としてはかなり優秀だ。その上、ダメージを受けていれば体2回復で守護を持つ。基礎の体力が多いから、守護として十二分に活躍することも可能だね。<侮蔑の従者>とかで削って守護インも可能だと考えると、破格かもしれないね。8コストと一見重いけど、PPブーストのあるドラゴンならそこまでじゃない」
「ベタなとこきたわねえ」
「デスガ、良いラインデス。私が先攻なら取ってたカモ」
「おべんちゃらはいいよ。ニシワタリ君。君の選択は?」
ニシワタリは二ヒヒ、と笑って言う。
「ブロンズの<侮蔑の嘲笑>デスネ」
「何っ!?」
茂美が色めき立つが、その辺はスルーして美咲が問う。
「効果のほどは?」
「2コストで相手フォロワーに3点。エンハンス4でその後に他のフォロワー全てに1ダメージ。手軽に範囲攻撃、あるいは侮蔑シリーズ用の起動スイッチとして使えマス」
「軽い<サラマンダーブレス>、が有用かどうかだけど、うーん」
さて、どうなるか、とニシワタリは注目する。それなりに付き合いがあるが、美咲のこういうタイプのゲームでの選択の例はあまりよく分からない。どういうのが、美咲のツボなのか。これはその試金石だ。
そういうニシワタリの目測など知らない美咲はしばらく唸り、そして答えを出す。
「ここは、<侮蔑の嘲笑>かな? 4コストなら4点と範囲攻撃が出せるのは大きいね。<ドラゴニュートの威圧>だと最大2点だから、差別化もされているし、侮蔑関連に使えるのもいいね」
「しゃ!」
「ぬぅ!」
二者の明暗が分かれた形である。茂美としては取られたくない星を取られてしまった格好だ。低レアで勝負をしかけたのに、さらに下のレア度で取られてしまった。ここはゴールドはないと踏んだとはいえ、レジェンドを引き出せなかったのは痛い。
なので、ぐぬぬ、と悔しさをにじませてしまう。その隣でニシワタリはホクホク顔である。
そうこうしているうちに<城茂美:二勝>の隣に<ニシワタリ:一勝>が書かれる。
「じゃあ、次はネメシス」
「本当に適当だなあ!」
茂美の言にニシワタリがコメント。
「サティスファクションのすることですよ?」
「それもそうか」
「唐突にディスるの止めてくれない?」
顔をしかめつつ、サティスファクション都は促す。
「ニシワタリ。あなたの手番よ?」
「分かってマスヨ」
さて、とニシワタリは考える。こちらの残り数は、レジェンド2、ゴールド1、シルバー2、ブロンズ1。で、今選択すべきはネメシスのカード。出来ればゴールド辺りでレジェンドを上から取りたい。となると。
「ここは、ゴールドの<世界の扉・ティル>でいきマショウカ」
「能力は?」
美咲の問いに、ニシワタリは明確に答える。
「まずはアクセラレート。コスト2で体力2以下のフォロワーを消滅させて、それからデッキに<防御型ゴーレム>と<攻撃型ゴーレム>を加えマス」
「じゃあステータスと通常の能力は?」
「9コストの2の2。能力はファンファーレでデッキの中の異なる名前のアーティファクトカードを場に出す、デスネ」
「つまり、デッキにアーティファクトを色々埋めたら、一気に盤面が展開できる、ってこと?」
「その理解でOKデスヨ」
「むむむ」
茂美は取られた! という感じでぐぬぬっている。それを愉快に見つつ、ニシワタリはサティスファクション都に言う。
「こちらは以上デスヨー」
「城?」
「……こちらはレジェンドの<断罪者・シルヴィア>だね」
「ステータスと能力は?」
美咲の問いに、茂美はおずおずと答える。
「コスト9で4の4。能力で選択出来ない持ちで守護。そして相手のフォロワーかリーダーに4点与える」
「盛り盛りだね」
「それと、アクセラレート3で相手フォロワー1体に3ダメージ」
「コスト3にしては高くない?」
「まだ続きがある。EPが一つ以上あれば、一つ消費して相手フォロワー全体に3点ダメージを与える」
「破格、……? かな?」
美咲の混乱に、サティスファクション都が耳打ちする。
「進化権を一つ消費するなら、それくらいは欲しくない? 1体には6点だし、全体は3点。進化してこれが出来るフォロワーはいないでしょう?」
「確かにそうだね。代償としては妥当なのか」
「そういうこと。で、どっちかしら、美咲」
美咲はうーん、と頭をひねりちらかす。ヨガの動作を思わせる独特の動きになり始めたところで、カッと目を開け、言った。
「<断罪者・シルヴィア>だね! <世界の扉・ティル>も可能性を感じるけど、<断罪者・シルヴィア>は普通に使っても守護とダメージ出せて優秀だし、アクセラレートも代償が大きめだけど、その分効果は強いと思う」
<城茂美:三勝>となった。
「むう、行けそうだったんデスガネエ」
「実際、ティルはイケているとは思うわよ? 仕込みが活きるとことか、マキナよりいいかもだしね。でも、横並びを一蹴出来る方がいいかなー、って思ったの」
「その辺は趣味の話デスネエ。美咲さんの趣味を読み切れなかったデスナア」
とはいえ、城のレジェンド選択権はこれで尽きた。こちらはゴールドが尽きたが、レジェンドはしっかり残っている。これをいかに切るかが勝敗に直結してくるだろう。となると、次のクラスに注目しなくてはいけない。
「では、次は」
サティスファクション都はもったいつけてから、言った。
「ビショップよ」
「ぬあーっ!」
茂美がいきなり叫ぶ。ぎょっとした美咲に、ああ! と茂美は自分でフォローを入れる。
「いや、もうレジェンド選べないのに、レジェンド確定だろなクラスが来てね?」
「野暮なことは言いっこなしよ。城が自分からレジェンドの枠を消費したんだからね?」
「ぐぬぬ」
サティスファクション都の言葉にぐぬぬ顔をする茂美に対して、ニシワタリは煽る。
「ヘイヘイ、ブロンズ出すしかないじゃないデスカ? ないデスカ?」
煽りに煽ってくる。しかし、こちらとしてはもうレジェンドを選ぶ権利がない。そしてゴールドで対抗するにもそこは役に足りない。となると、ニシワタリが言う通りにブロンズを消費する形しかない。なので、渋々。
「ヘイヘイ! ヘイヘイ!」
「うるさいなあ! こっちはブロンズの5コストアミュレット<いにしえの聖域>! ファンファーレとラストワードで<バロン>が出せる一枚! <三月ウサギのお茶会>めいた一枚だね! <バロン>は守護と選択不能持ちだから、防御力がかなり増す要因になるかも! 以上!」
やけになりつつ、茂美はニシワタリに手番をパスする。
ニシワタリはこの勝機をきっちりと取るムーブに出る。
「こちらはレジェンドの<聖騎士・ヘクター>デスネ。7コスト5の6で、能力はファンファーレでまず墓場が9枚以上なら<聖騎兵>を2枚場に出しマス。そして、もう一つファンファーレで、場のフォロワーにターン終了まで攻+2と突進を付与シマス」
「ぶっちゃけ<魔将軍・ヘクター>だね」
「デスネ」
「というか、運営はヘクターに何を背負わせたいのかしらね」
「だよな。悪役に任ずる、ってことなんだろうか。聖騎士なのに」
「さておき」
とサティスファクション都が区切ると、美咲は言った。
「満場一致で、<聖騎士・ヘクター>だね」
うんうん、と四人は頷いた。
<ニシワタリ:二勝>とホワイトボードに書かれた。
それが終わると、サティスファクション都は言う。
「じゃあ次、ネクロマンサー」
今度はニシワタリの先攻である。ニシワタリは考える。
ここは微妙なところだ。レジェンドが一癖ある。先ほどの<聖騎士・ヘクター>ほど明確にパワーカードではない。レジェンドは後一つ選べるから、ここで使うのは勿体ない。そしてゴールドも使い切っているから、そうなれば後はシルバーかブロンズである。
となると。
そういう思考から脱して、ニシワタリは言う。
「ブロンズの<ボーンバッファロー>デスネ。能力とかデスガ、コストは2でステータスは2の2」
「それだけなら普通の2コストフォロワーだね」
「デスネ。しかしちゃんとエンハンスがあります。エンハンス4で、ラストワード<スケルトン>を二体出す、デスネ」
「<ボーンキマイラ>のスタッツいい版、って感じだね」
「ボンキマ先輩が裏に来いよって言い出しかねない性能デスネ」
「ボンキマ先輩そんなキャラじゃないわよ!」
「何の話をしだしているんだ、都君」
「ボケはその辺にして、城は?」
「う……」
茂美が言いよどむのも無理はないと、ニシワタリはあたりをつける。ネクロマンサーのゴールド、これもかなり微妙な線である。
<禁絶の腕・二コラ>は攻撃力が上がると高バーンスペルが手に入る。ネタとしては面白いが、実際の所どこまで使えるか未知数過ぎる。
<沈黙の詩>はエンハンスすると全体の能力排除があるが、こちらの能力も排除されるので、ラストワードが肝になりやすいネクロマンサーには使いどころが難しい。それに比べれば、シンプルな<ボーンバッファロー>の方が気持ちは掴める。が、それはもうこちらが使った。
さて、城はどう出るか。
茂美の口が動く。
「……<悪意の憑依>だな。2コストスペルで、フォロワーに2点と<ゴースト>1体を出す効果だ。3点打撃として使ってもいいし、顔に1点詰めてもいい。汎用性は高いスペルだな」
「<ゴースト>が出る、というのはいい感じだね。顔に当てて<ソウルコンバージョン>に使ったり出来るね」
あれ、好印象? といった言い方に、ニシワタリは懸念を覚える。ここで負けるのはまずい。確実に勝負を取れるレジェンドは残りがある。しかし、こういう細かい所で勝たないと。実際のところ、負けているのはこちらだ。
そう考えている内に、美咲が答えを出す。
「ここは<ボーンバッファロー>だね。スケルトンを出すから場残りがいいのと、2コストで使っても標準ステータス。不足のないフォロワーだから、でいいかな? <悪意の憑依>も悪くないけど、どっちみちフォロワーが残らないと考えると、ね」
「むむ、堅実派!」
「単に力こそパワータイプなんだと思うけどね。さっきの<侮蔑の嘲笑>も効果より侮蔑軸起動出来るのが上だった理由っぽいしね」
「読みが甘いデスネ、城」
「ぬぅー!」
悔しそうな茂美をスルーしながら、サティスファクション都はホワイトボードに記帳する。
<ニシワタリ:三勝>
「これで三勝同士デスネ」
「ぬぅぅぅ」
変な唸り声を発し始めた茂美をにやにやと見ながらしかし、ニシワタリの心中は冷や汗ものだった。それをおくびにも出さず、ニシワタリはサティスファクション都に続きを促す。
「サティスファクション。次はどれデスカ?」
その言葉に対して意味深な笑みを出す、サティスファクション都。そうしながら、続きを告げた。
「次は、エルフね!」
「僕か。うーん」
エルフの段になって、茂美は頭を左右に振りながら、考えている。
さて、どこを使ってくるか。とニシワタリは思考する。相手に使えるのはゴールド1、シルバー1、ブロンズ1。
ゴールドなら二枚ともいい感じである。特に一方の<獣戦士・セタス>は高コスト守護の見本だ。そっちを選ぶ可能性は高い。
ここでレジェンドが選べたなら、<無窮の輝石・カーバンクル>が確定的ではある。ファンファーレで手に入るカードがかなり使える。普通ならカーバンクル。だが、ジャッジするのは美咲だ。機微が中々普通じゃない。普通なら、ここまで妖怪と遊べる訳がない。
そう考えている内に、茂美が口を開く。
「ブロンズの<狂気のダークエルフ>だ」
「ブロンズだけど、いい感じなの?」
茂美は明確には頷く。
「3コスト4の1、とピーキーなステータスだけど、何と突進持ち」
「それどこかの<フェアリーナイト>が泣かない?」
「攻撃時に<フェアリー>も取得出来る」
「泣かない?」
「更にエンハンス6で攻、体共に+3。つまり7点突進になるよ」
「泣くね? ……、でもいい突進だね、それ」
むっ、また風向きが怪しい。確かに、<狂気のダークエルフ>は悪くない。デッキの形を決めるタイプではないが、細かい所で輝くタイプだ。それを取られたなら、では<無窮の輝石・カーバンクル>で上から取るか?
「ニシワタリ?」
声にハッとするニシワタリ。考え込み過ぎたか。
「ワタシの番デスネ? なら……」
ニシワタリはしばし考えて、これ、と言うのを出す。
「シルバーの<強者の威風>。2コストスペルで5点ダメージデスネ」
「5点、というのはこれまたコストからすると破格だけど、無条件じゃないよね? 条件は?」
「簡単なところデス。攻撃力最低のフォロワーに、デスネ」
「ふーん」
あっ、ちょっと気持ちが逸れている! そう気づいたが、これ以上にこのカードに能力はない。では、言い方である。
「攻撃力最低の相手、というのは確かにここぞではいまいちかもデスガネ? ランダム要素なので、相手が単体なら選択できないのを無視して当てられるんデスヨ?」
「うーん、でも、ここは<狂気のダークエルフ>だね。7点の突進になる、というのは大きいよ」
「よしっ」
「ぬぬぬっ」
<城茂美:四勝>と書き換えられる。
「そろそろ終わりも見えてきたけど、どんどん行くわよ? 次はウィッチ!」
サティスファクション都の下知に、ニシワタリは素早く答えた。
「ここは<真理の発見>デスネ」
「効果のほどは?」
美咲の問いに、ニシワタリは続ける。
「<クレイゴーレム>を出して、場の全ての<クレイゴーレム>攻を+1。土の秘術で<真理の術式>を手札に、デスネ」
「ふうん。コストは、3か。フォロワー出しつつ<真理の術式>ならわりとお買い得感はあるね」
「デショウ? 上手くスペルを組み合わせれば、3の2守護の<クレイゴーレム>が、デスヨ」
「分かりやすく小ネタだけど、ちょっといいかも」
「じゃあ、城は?」
茂美がしばらく考え始める。
ニシワタリも考える。ここで勝ちを取るかどうか、というのは未知数だ。ウィッチのゴールドは結構微妙な線である。レジェンドも強過ぎるカードではないが、ゴールドは輪をかけて考えが必要である。だが、<真理の発見>でそれに勝てるか、というと、そこは悩ましい。美咲の食いつきは良かったが、次ので覆らないとも限らない。
となると、場外乱闘である。
「フフフ、城さん」
「……なんだよ」
「まさかここで空気を読まずにゴールドで勝とうって腹デスカ?」
「当たり前だと思うがね?」
「それ、面白いデスカ?」
「……」
脈あり。畳みかける。
「面白くないんじゃないデスカ? ここで確定的に明らかに勝つのが全てデスカ? 義理の勝負が楽しいんじゃないデスカ?」
「……何が言いたい」
「次で、レジェンドとゴールドで勝敗つけマショウヨ。他ならこちらも無茶を言っているとは思いマスケド、最後はヴァンパイア」
「……ならば……」
「デショウ?」
「何も、ならば、じゃないと思うけど」
「その辺の機微は、戦ってきた二人ではないと分からないものよ、美咲」
「そう言う問題?」
「ならば! 僕は<マナリアの見習い教師。パスカル>! 4コスト3の3で、ファンファーレは<才能の開花>を手札に。進化時能力でマナリアカードを1コストダウン。<才能の開花>3コストはいいかもよ!?」
「でも<才能の開花>自体が微妙なので、<真理の発見>で」
<ニシワタリ:四勝>
と、書かれる。
「やあ、負けちゃったな! 次で最後の勝負だ!」
快活に言う茂美に、サティスファクション都はぼそり。
「基本的に勝負に熱いのよねえ、城」
ついでに美咲もぼそり。
「だね。でも本当のところは?」
「基本的に勝負馬鹿なのよねえ、城」
「だね」
「なんか言ったか!」
「いえいえ」
「何も何も」
誤魔化すのが嘘くさいレべルで下手だが、今は戦いに脳が猛っている茂美にはそこを見極める機微はない。それで何でもないと判断して、サティスファクション都に言い放った。
「さあ、最後のお題!」
「言わなくても分かってるでしょ。ヴァンパイアよ」
「先攻だから、こちらは当然ゴールド。<理性の崩壊>だね」
「当然、というだけの効果なの?」
「3コストスペルだが、手札のヴァンパイアフォロワーの攻撃を+2!」
「おおー、結構すごい」
「それだけじゃない! 復讐状態ならデッキのヴァンパイアフォロワーも攻撃+2! よりパワフルなヴァンパイアという形が生まれる可能性を秘めているのさ!」
「おお! 三枚使えれば、攻+6のカードが埋まっているという夢のような!」
「だろ?」
ニシワタリは、当然そこがくると予想していた。
もう一方も悪くないが、こちらの方がインパクトが違う。どれだけ美咲が食いつくか、というのが読めなかったが、結構前のめりに食いついている。
確かにあの効果はぱっと見強力である。うけたらもっと増えるだろうデッキバフを、<真実の絶傑・ライオ>の次とはいえ、またもぶっこんできたのだから。というか、これはこっちの手番の前に勝負が決してないか?
いやいや、だ。こっちらが出すのはレジェンド。それも中々に強力な。そして美咲さんに受けそうでもある。むしろこれで勝てないなら他でも絶対勝てない。それくらいの自信がある。
なので、ニシワタリは言った。
「こっちは残ったレジェンドの枠でいきマスヨ! <真紅のローズクイーン>!」
「能力のほどは?」
「8コスト6の6で、ファンファーレで手札の2コスト以下のヴァンパイアカードを<真紅の一撃>に変える能力デスヨ!」
「<真紅の一撃>の効果は?」
「2コストのスペルで、相手リーダーか相手フォロワーに3点。それに自分のリーダーの2点回復デス」
「回復付き!? 元の<ローズクイーン>と雲泥の差だね!」
「更に!」
とニシワタリはトドメの一撃を繰り出す。
「この<真紅のローズクイーン>は守護持ちなのデス!」
「<ローズクイーン>には無かったよね? ということは、6の6の守護が出て、更にバーンカードが!? 何それ超強い!」
「デショウ?」
ひとしきり盛り上がる美咲の肩を叩いて冷静に引き戻すと、サティスファクション都は問うた。
「じゃあ、どっちの勝利かしらね、美咲?」
「そうだね、これは……」
勝敗が決した。
「で」
と言うのは白貌の妖怪、パッション郷である。
「何でどんちゃん騒ぎしてたんですか? いえ、神妙にしていろ、とは言いませんよ。サティスファクションのすることですからね。神妙におかしなことをするやつですからね」
言い募りながらも、既に正座のサティスファクション都の頭をたたんだ黒い傘でペシペシ叩いている。
そうなる状態になったのには当然理由がある。先ほどのカードプレゼンが白熱し過ぎて、インターフォンが鳴っているのに誰も気が付かなかったのだ。その上、勝利の余韻に酔うニシワタリとサティスファクション都が謎の酒盛りに発展していた。そこにしびれを切らしたパッション郷が突入。現在に至る。
そしてものの数分で酒瓶が転がる形になった和室で、サティスファクション都は正座している。ついでに言うとニシワタリは寝ている。酒には強い方だそうなので、多分嘘寝である。その辺はパッション郷も分かっているだろうが、そこは攻めてもしょうがないと、御目こぼしである。
パッション郷は続ける。
「ですが、自分の関係のない勝敗を祝杯するというのは意味が分かりません。それも、これから私と打ち合わせしないといけないのに、酔っぱらうやつがいるかという話でしてね」
「あの」
「そもそも奴らを逃がして更に未来見の水晶を奪われたのはあなたな訳でしょう。もうちょっと悪いなあとかすまないなあとか、そういう心持になっていて欲しいんですよ。反省の念が欲しいんですよ。それだというのに」
「分かった、分かったわよ! わたしが悪かった! 油断があった! そう言えばいいんでしょう!?」
「その時の油断以上に今の油断が許せないと言っているんです。が、確かにこれ以上詰めてもしょうがない。やめましょう」
はあー、とサティスファクション都は息を吐く。詰めてくる時のパッション郷の圧は強い。今回は向こうが正しい分、受け続けるしかないし、最悪これで夜が明けるまでやる可能性すら考慮に入れていたから、ここで終わってくれて助かったまである。
「はあー、ですか。それはこっちのしたいことですよ、サティスファクション」
「そんなところで目くじら立てなくていいでしょ。で、どうするのよ」
「そっちは何か仕込みましたか?」
「……そういうそっちは?」
「……」
「……」
黙して、しかしいい笑顔になる二人を見て美咲は、この妖怪たちは敵に回さない方がいいなあ、敵にした妖怪さん大変だなあと蚊帳の外を決め込むことにした。
流れで新年一発目になった。そういうこともある。
話自体の締めも考えているけど、さてどうなるのやら。ある程度しか考えてないから、ちゃんと考えないとなあ。




