第25枚 新カードパックBOSについて
そこは、ある県の県庁所在地の、住宅街の一角。ゲーマー妖怪サティスファクション都の住まう妖怪屋敷、を見張るに適した位置に、その妖怪達はいた。
「本当に上手くいくのかい、これは?」
そういうのは男の姿をした妖怪。先日までサティスファクション都宅に囚われていた妖怪である。今後は仮に男と呼ぶ。
それに答えるのは、女の姿をした妖怪だ。数日前に、ニシワタリを拉致監禁した妖怪である。仮に女と呼ぶ。
「それは私たちを顎で使っている奴のすることだからな。むしろ失敗してくれたらいいとすら思うな。上が落ちれば、組織に食い込む助けになるよ」
「俺の予測だと、そうなったら一緒にトカゲのしっぽ宜しく切られると思うんだがねえ」
「最低でも、一緒に切られた奴をぼこぼこには出来るぞ?」
「そこまでなのに、なんで従うのかねえ」
そう会話している二体の妖怪がしているのは、監視である。あの妖怪屋敷から人間が一人走り出るから、それを余さず監視せよ、というのである。女、妖怪としては無数の目を持つタイプに分類されるその能力があれば大した労ではないが、それがいつになるか、というのが言われていない。男が戻ってきて監視し始めて丸1日が経過したが、その気配すらない。
「簡単すぎて朝飯前にもならんね」
などとやってきた男に女は言っていたが、時間経過と共に愚痴が多くなってきた。
その愚痴をするのも退屈になったのか、女は男に要望を出した。
「『シャドウバース』の新カードパックが出るよな」
「……なんだい、藪から棒に」
「私っちはここ最近忙しくて情報を追えてないんだ。後は分かるな?」
「俺っちもここ最近捕まってたから情報が追えてない、というのは?」
「牢獄の中でもスマホは持ってたから、どうせ暇潰しに情報追ってただろ?」
「否定はしねえ」
「つまり肯定だな」
しばしの沈黙。折れるのは男の方だ。
「……、分かったよ。話せばいいんだろ、話せば」
「おう、ちゃちゃっとやってくれよ。暇で死にそうなんだ」
「はいはい」
そう言うことになった。
「まず、だが、今回の弾に新しく<アクセラレート>という能力が追加される」
「前回が能力を選ぶ<チョイス>、その前が<葬送>と<リアニメイト>とあって、また増えるかね。どういう意図なんだ?」
「その辺の意図は知りゅあしないが、それはさておく。で、<アクセラレート>。これは<フォロワー>を元のコストより少ないコストで、<スペル>として使える能力を持つ、というものだ」
「ということはあれかい、場に<フォロワー>としては出ないってことなのか?」
「そうなるな。そう言う意味で、<スペル>として使う、と言ったんだ」
女は納得するように頷き、それから言った。
「となると、その辺のを上手く使うPPの管理が必要になってくる、と言った所かね」
「あるいは、手札管理かも知れねえな。調子に乗って手札をもりもり使うと、待っているのはジリ貧だからな」
うんうん、と二体の妖怪は訳知り顔で頷き合う。と、妖怪屋敷の方に人影が。
「おっ」
と小さく声を出した女だったが、その人影が単なる郵便配達人だと分かると、舌打ちをした。男は言う。
「あれが走り出さないとは限りないぜ?」
「家の中から出てきて、って注釈がきっちりあるんだよ。だから、あれは違う」
「そうかい。では話の続きを?」
「やりな」
へいへい、と男は従う。
「では、<アクセラレート>の分かりやすい例であるニュートラルのカード、<プロトバハムート>の話でも」
「プロト、と付くが結局<バハムート>みたいなものか? っと、<バハムート>は今回の弾でローテーション環境からいなくなるんだったか。その代わりか?」
「その辺は言わせてほしいところだったが、まあそれはいいとしよう。<プロトバハムート>はコスト9の攻8の体8。コストに見合った大型ですねえ」
「能力の方は? <アクセラレート>の分かりやすい例、だったな」
「基本能力は、自ターン終了時に場にいる他のフォロワー、敵味方区別なく3点ダメージと、相手のリーダーに1点ダメージだ。この能力をコスト7の<アクセラレート>で使えるという寸法だ」
「なるなる。まさにお手本だ。しかし」
「何か引っかかりやすかね」
「<卵の大爆発>の存在意義が消されてねえか、これは」
「PPが適正値より少なくないと使えないんで許してやってくれなさい」
「許そう」
その時、人影が横切る。
瞬時に黙した女と男の横を、自転車が通ったのだ。
ちっ、と女は舌打ち。
「そもそもああいう乗り物を使われたら、追いかけるの大変じゃねえか?」
「そこのところはどうなのかが分からないが、走って、だから当然ああいうのはなしだろう」
「ならいいがねえ」
「で」と女。
「次はエルフのをピックアップしろ。一つでいい」
命令口調に、男はむっと表情を硬くするが、女はそれ以上何も言わない。そういうやつだ、というのが分かっている男は、表情を硬くしたまま、期待に応えることにした。
「エルフでめぼしいの、の前に今回のエルフの新カードの概観でも」
「そういうのもいいね、やってみな」
大仰な女に、男は表情を硬めのままで続ける。
「今回のエルフは除去札になるのが多い。進化して全体一点とか、1体手札分ダメージとか。あるいはプレイ数で性能が変化する除去をするフォロワーなんかもある。この辺が<カシオペア>頼りだった部分のテコ入れとも言えるな」
「なるなる。除去強化月間な。で、一枚挙げると?」
女の促しに、男は答える。
「この一枚というと、レジェンドの<絢爛の紡ぎ手・コルワ>だろうな」
聞いたわりには女の返答はそっけない。
「レジェンドか。めぼしいとなるとやはりレジェンドになるな」
「デッキの形を決めるのがレジェンド、というのはシャドバじゃあよくあることだ」
「で、コルワもまた、デッキのコンセプトに成り得る訳か」
女の問いかけに、男は然り、と答えて言う。
「5コスト4の4とスタッツは普通だが、能力がリーダーに付与のタイプだ」
「カラボス辺りから出来たけど、リーダーに付与、とうとうエルフにもその波が来たわけだ」
「そういや、そういうのは<邪悪な妖精・カラボス>までは無かったかな? まあ、それはいい。コルワの能力だ。ちょっと面倒だが筋が分かればすぐに納得できるぞ」
「ぱっと見は複雑なの、いいぞお」
一瞬男の方を見て喜色満面する女に、男は心底気持ち悪いものを見たという顔で応える。女はそういうのは通じてないらしく、フンスフンスと鼻息が荒い。
興が乗った相手を無視するわけにもいかず、男は表情を直さずに内容を告げる。
「まず、リーダー能力に『自ターン開始時に<フィル>を1枚手札に加える。直前の相手ターンに4点以上ダメージを受けていれば、2枚手札に加える』が付与される。そしてエンハンス8で<フィル>を3枚手札に加え、PPを3回復する」
「つまり、<フィル>を毎ターン貰うリーダー能力の付与に、エンハンスでその<フィル>を予め貰える、という能力なわけだな。ちなみに、<フィル>というのは? 予想では1コストのスペルと見たが?」
「<フィル>はお察しの通り1コストスペル。効果の方は、フォロワー1体に体力+1。と」
「デッキを形作る、なら当然、と、だな」
「またご明察。そのバトル中に<フィル>を4回使っていると、5回目以降使用したフォロワーが2回攻撃出来るようになる、だ」
「なるなる、となるとエンハンス8を積極的に使うか、5コストで能力だけ取るか、というのが肝になってきそうだな」
「後、能力値バフで効果を発揮する能力に使いやすい点も重要だねえ。それも一回使用できる条件を整えれば、毎ターンフィルを使っての2回攻撃をするフォロワーをつくれる点がデカい。専用構築が強いか、は微妙なところだが魅力的ではある」
と、人影が通り過ぎていく。それも、サティスファクション都邸に向かって。
「おっと、これが目標じゃないですかね」
「まだだよ。入っていくが、出てきてはいない」
「そんなに杓子定規である必要あるんですかねえ?」
「とにかく、様子を見るしかない。で、次だ」
「次ですかね。じゃあ順当にロイヤルですかい?」
「その筋で」
少し話しているうちに、男の機嫌は上向いてきている。ちょっと力を入れて告げる。
「ロイヤルの追加カードは、待望のドローソースが追加!」
「おお、良いのが少なくて困ってたところが追加か!」
「だが!」
「だが?」
「ちょっと癖があるんだな、これが。フォロワーをエンハンスで使って手札を5枚に、とか、チョイスで選んだスペルで相手の手札の枚数まで、とか」
「安易なドローソースはロイヤルには似合わないってことか」
女がどこか遠くを見るのを無視して、男は話を続ける。
「それはさておき、ロイヤルで特に目を引くのは、ゴールドレアの5コストスペル<ドラゴンナイツ>だな」
「効果」
サティスファクション都邸に入っていく人影を確認しながら、女は素っ気なくそう言った。自身も状況を確認しながら、男は言う。
「<チョイス>で4体の5コストフォロワーのどれか1体、エンハンス8をすればもう1体場に出す。この4体はそれぞれ能力が違うが、ヴェインが居ればランスロットが、ジークフリートが居ればパーシヴァルが能力アップする、というのが売りだな。特にランスロットは疾走持ちで且つヴェインがいれば能力が底上げされるから、エンハンスで一緒に出すのがお薦めなんだろう」
「分からん名詞が多すぎる。もうちょっと詳しく」
「……、じゃあ、出るフォロワーを1体ずつな。
<不撓不屈の騎士・ヴェイン>は攻2の体5。自ターン終了時に攻+1と体3点回復。
<竜殺しの騎士・ジークフリート>が攻5の体4。守護と必殺持ち。
<俊英の双剣士・ランスロット>が攻3の体3、疾走持ちで、ヴェインがいると攻撃時に攻+1と体+1。
<炎帝・パーシヴァル>が攻5の体4。ジークフリートがいる限り突進と、攻撃時に場の自フォロワーの数だけ攻+1だな」
「となると、基本はランスロットとヴェインの組み合わせを出すのを狙う、か」
「そうなるな。8ターン目で基本3点+ヴェインありで+1の4点疾走、をどこまで評価するかにもかかっているが。あるいは、ジークフリートとパーシヴァルの組み合わせで防衛的にいく場合もあるだろう」
「5コストで使うのも悪くない性能。だがエンハンスで2体、シナジーがあるのを使えば更に使いやすい、と言った所か?」
「そういう理解でいいと思うがね。正直ゴールドとしては破格かもしれねえな」
と、そこで影がよぎる。
「むっ」
と見れば、それは猫だった。にゃーんと鳴いて、素早い身のこなしで通り過ぎていった。
「気を張り過ぎじゃないねえかね?」
「うるさい」
一瞬照れ顔が見えたように男は思ったが、すぐに目が、それもあちらこちらから睨みつけてきたので、その考えを改めることにした。
「次は、ウィッチ」
ご指名が来た。
「ウィッチのカードは比較的安定した感じだな。スぺブ方面も秘術方面もきっちりと追加されている。後、手札20枚以下で、という能力が追加されたのも特筆点だな」
「ウィッチでそこまでポンポンとドローするか、というだけど、<クロノス>辺りと組み合わせれば、か」
「そこまでする必要があるか、という能力具合だがな。で、ウィッチで重要そうなのは、<神託の妖童・アルルメイヤ>だろうな」
「うーん」
突然女が思案の声を出す。
「どうした?」
と男が問うと、女は答える。
「んー、引っかかることがあったんだが、まあ気のせいだろうな。で、あるるかん」
「アルルメイヤな。こいつもリーダー能力の類だ」
訂正にあまりいい顔をしていない女は、その顔のまま問う。
「使えるのか?」
「人によるだろうね。効果は手札6枚以上ならスペルブースト、5枚以下なら6枚になるまで補充。ついでに進化時に一回その能力を使える、ってやつだな」
「コストとスタッツ」
「6の5の5」
「悪くないけど、6PPPからか。悪くないけど。悪くないけど」
「微妙と言えばいいと思うぞ」
「いや、悪くは」
と。
にゃーん。
猫が近づいてきていた。
すぐさまその喉を触ろうとする女。
が。
にゃーーん。
猫が逃げる。
「ちっ」
舌打ちする女に男は嘆息。
「やってる場合ですかい? というか猫好きだけど猫好かれではないってことで?」
「……」
女が微妙に赤面の様相を呈する。そして半ば強引に話を変える。
「次はドラゴン」
「へいへい」
「ドラゴンの追加カードの傾向はバランス型。レジェンドがぶっ飛んだ性能だが、他の要素はいい感じにばらけている。PPブーストあり、守護必殺あり、覚醒時に能力が強くなる突進持ちあり。そんな感じだな。逆に言うとレジェンドのぶっ飛びを包括する訳ではない、ともいえる。器用貧乏ってやつだな」
「それで、一枚上げるとすると?」
「ゾーイ、もいいがここはまた増えたPPブースト要員、<護国真竜・スカーサハ>でいこうか」
「ドラゴンだとPPブーストは重要だが、それだけなら特筆はしない、と思っていいか?」
「そうだ。単なるPPブースト要員、というだけじゃあない。覚醒状態の有無で使い道が変わってくるからな」
猫をまだ狙っている女は、「どういう差があるのかね?」と猫を見定めながら聞いてくる。
男は答える。
「覚醒状態でないなら、このフォロワーに2点ダメージしてPPブースト。覚醒状態なら、リーダーへのダメージ-2だ」
猫に「チチッ、チチッ」と舌を鳴らしていた女は、しかし話は聞いていたらしく、理解のあるのを示す。
「なるなる、覚醒状態でも腐らないタイプ。予想ではちょっと重そうだが?」
「5コストの5の5、ですから覚醒状態じゃないなら実質5の3だな」
「上手く使えれば、だけどいけているな。面白い」
猫が一向に近付いて来ないのを悲しそうな顔で甘受している女はそう結論づけて、促す。
「次はネクロマンサー」
「ネクロマンサーの傾向というのはどうだ?」
促されるままに、男は答える。
「今回でかいのは、新たなレジェンドにもアーカスの影響があって、また3コストにもアーカス向けのフォロワーが追加されたことだろうな。つまりアーカス使いには嬉しい、という傾向だ」
「いるのか、そういうの」
何気ない女の言葉に男は分かってねえな、という顔をして続ける。
「ネクロは新しくなった決闘者もいいが、こっちも変則手で行ってみようかね」
それには気づかず、猫が近づいて来ないことに切なさをみせている女は、問い返す。
「どういうのだ?」
「地味なシルバーレアだが<心眼の双葬女・レディ・グレイ>。2コストの1の3で、ドレイン持ち」
「どっかで聞いた性能だが、折角上げるんだ、何かあるんだろうな?」
男は頷く。
「その通り。進化するとリアニメイト2、つまり2コストフォロワー1体を黄泉返らせるんだよ」
「ふむ、進化が出来る4から5PP辺りで進化からの展開が出来る、と」
「ついでにドレインもありやすから、回復も可能。地味なフォロワーながら、案外今回の弾のネクロの収穫と言われるやつかもですねえ」
「進化権使う辺りで使えないいけない点以外は、確かにそうかもしれんな」
そこに、猫が近づいてきた。
にゃーん。
「にゃーん」
猫は逃げた。
「どうしてそう、逃げられるかねえ。割と人懐こいやつに見えるが」
「何が悪いのかねえ。嫌がるオーラとかか? 出しているつもりはないんだが」
そこで、女は動いた。一歩後ろに。男と衝突する寸前だ。
「な」
と、女の居た所に鳥の糞が落ちた。
「ふっ」
「……、もしかして猫をあなたの沢山の目で見てますかい?」
「その為の私だからな。今この辺りを一望監視」
「……それが悪いんじゃないですかね?」
「何が」
「周りの姐さんの視線が、沢山の目の視線が猫に集中して、猫が驚くんじゃないか、ということ」
「……」
女はがくり、と肩を落とす。
「盲点」
「いや、わりと初手から疑う所ですよ」
「次」
失意がにじみ出る声にご愁傷様、と思いつつ、男は話を拾う。
「ヴァンパイアですな」
「ヴァンパイアは面白いのがたくさんありやす。体力2点のタイミングなら勝利確定? とか、ヴァンプ版<ジャバウォック>とか、自ターン1回完全無敵とか、進化で8の10になるスタッツお化けとか」
「ヴァンプは相変わらず実験場というか、まずやってみるという精神性に満ちているな」
「明らかに、ヴァンプのカード能力を考える人、シャドバを壊そうとしている節がありますな。そこがまた魅力ですが」
「それはいいんだ。ヴァンプの一枚はなんだ?」
女は猫にはもう執着していない。ように見えるが、おそらく周りにばらまいている“眼”で追っている。それが分かっているのか、猫も先ほどの気やすい感じはなく、警戒色を出している。
その事実を伝えるべきか。それを瞬時に判断して、男は言わない方に舵を切った。なので、女の質問に答える。
「端的にパワーカードな一枚をセレクトしようかね。<揺らぎの斬鬼・ナルメア>。ゴールドレアで、かなりのパワーカードだぜ」
「特別に上げるんだからそうだろうね。で、その内実は?」
「4コスト4の3の必殺持ち、だけでもいけてるが、これは進化したらその威力を発揮する」
「スタッツ的にも十分だと思うがまだあるか」
「そうそう。それが、進化時に相手1体のフォロワーを破壊。そして自分のリーダーの体力を10まで減らす、だぜ」
「<ベルフェゴール>っぽい感じだが、相手フォロワーを処理するにはうってつけなのが怖いな」
「進化時限定とはいえ、自身の必殺とその破壊効果で、2体仕留められるからな。そもそも進化して攻撃力が6になるから、それで倒せる場合も往々だ。そう言う意味では設置時に体力を調整しない分、<ベルフェゴール>より使いやすいまであるな」
「流石にそれは言い過ぎだとは思うが、なるなる、パワーカードだ」
「復讐を重視するデッキなら3枚積んでも問題ない。言いきれるねえ」
「よく言うもんだ。では、次、ビショップだ」
猫がにゃーんと鳴き、カラスがカーと鳴き、また糞を近くに落とす。妖怪は蠢くが、人間は全然走り出さない。そんな環境の中で、男は女にビショップの説明に入る。
「ビショップは今回は以前のカードのバージョンチェンジ版が目に付く。<テミスの審判>上位互換とか、ガルラのバージョンチェンジとか」
「テミス帰ってくるだけで厄介度半端ないぞ」
「一応、6コストの審判に対して8コストでの登場だから、単純なアッパー調整ではないが、それでもあの印象は強いな」
それと、と継いで、男は語る。
「DBNで追加された要素である、<天狐の社>と<聖獅子の結晶>を軸に置くデッキに追い風になるカードが増えたのが大きいかな?」
「ビショップは前の最初のローテ脱落の影響が大きかったから、テコ入れという訳か。それは置いておいて、これはってカードは?」
「さっと流したのが多かったから、ここは大穴だが<天罰の神父>でどうだろう」
「レア度は?」
「シルバー」
「コストとスタッツ」
「1コスト1の1で能力なし」
「という事は進化時能力か。それは?」
「フォロワー1体かアミュレット1つを破壊」
「1コストの持つ能力としては、進化時とはいえ魅力的だな。これで3点も出せるなら」
「いや、進化後のスタッツも1の1だ」
「なるなる。絶妙だわな。そりゃこれで3点出せたら強いわ、ってなるなる、ナルメア無茶だわ」
「言ったじゃないかい。納得してなかったんかい?」
「考え直すと返す返すも、ってやつだよ」
「では最後、ネメシスだな」
男が傾向を話し出す。
「今回の傾向としてはアーティファクト軸に影響のあるものが多いな。顔4点だけどアーティファクト無いと使えないとか、アーティファクトが出たら守護が付くとか」
「操り人形軸は?」
「ちょっと迂遠なのが増えたな。相手のフォロワーを変身させて、そのフォロワーの能力で操り人形が手に入るというのが」
「そりゃ確かに迂遠だ。でも、変身効果は結構通りやすいからなあ」
「で、この一枚、というのは<奮励の儁秀・シルヴァ>だな。レジェンドだ」
「さっきから真正面にレジェンド出さないなあ、だったが、最後はレジェンドで〆か」
「まあ、こいつが使えるのもあるんだがな。基本は7コスト6の5で潜伏。そしてアクセラレート3で別の効果のスペル扱いに」
「ここでアクセラレートか」
「ああ、能力は、元コスト3以下のフォロワーを場に出し突進を持たせる」
「思ったより平凡だな」
「と同時にリーダー能力に自ターン1回につき一回、フォロワーが攻撃したときに1点を顔に、だな」
「平凡じゃなかった」
「レジェンドだからな。で、効果で出したフォロワーで盤面処理しつつ最低顔1点は取れる、という寸法なわけだ。ちなみに効果は累積するから、三枚使えれば3点、ということだな」
「当たりレジェンド?」
「だろうな。まあ全体的にこんな感じだ」
「よく分かった。しかし、まだ動きがないなあ」
『おい』
いきなり声が出た。女も男も、どこから!? と周りを見回す。しかし、周りには猫くらいしかいない。
「って、この猫か?」
『そうだ』
冷静に聞けば、その声には聞き覚えがある。上役だ。
「猫を端末代わり、ですかい?」
『そうだ。あまり時間がないから手短に言う。近くに橘茂美が現れる。捕まえろ』
「誰が?」
問う男に声は冷淡に返す。
『“目”は残ってないとだろう。お前だ』
「あー、はいはい。そうだろうなそうだろうな。捕まえるのは多い方がいいって判断ですかい?」
『好きに憶測するといい。それに、捕まえられたらの話だ』
「あー、はいはい。期待されてないってことだな。けっ」
それだけ吐き捨てると、男は上役の声に促されながら、隠れていた場所から走り去った。
それからしばらくして、女が猫に呟く。
「で?」
『で、とは?』
「で、は、で、だ。どういうつもりだって言う意味合いのな」
『どういうつもり、とは?』
「迂遠な会話はやめにしてもらいたいね。さっきの指示、あんたの独断だろ」
「根拠は?」
「無い。勘しかない。だが、タイミングが良過ぎる気がするからな」
『……』
「この場合の沈黙は答えも同然だが?」
『話しても仕方ないことだ。察しろ』
「……察しろってなあ」
『お前は監視を続ければいい。深く考えるな』
それだけ言うと、猫はただの猫に戻り、にゃーん、と鳴いて離れていった。
「けっ」
女は唾を吐き捨てた。
と。また妖気の乱れがあった。ニシワタリのそれだ。それが、しばらく置いてもう一度。
「こりゃあ、あいつあっさりやられたな」
女はそう判断したが、することは、走り出した人間を監視すること。ニシワタリの能力を封じる動きをしろ、ということだが、しかしそれで大丈夫なのか。
と。
サティスファクション都邸から、一人の人影が。先ほど入っていった、女生徒。名前は確か、犬飼美咲。
それが、走り出す。あまり早くないから追いかけるのは楽そうである。
「これを追う、か。なるようになるかねえ」
そう独り言ちると、女は追走し始めた。
えらい久しぶりですが、また次も久しぶりに、くらいになりそうな。まあえっちらおっちらとやっていきますです、はい。
DBNのカードの取り上げ出来てませんが、それもその内さくっとしたいところです。需要があるか分かりませんがね!