第二枚 『シャドウバース』の言葉のケセラセラ
とある県のとある街の住宅街。その端の端に、ゲーマー妖怪の巣食う家があった。
妖しの黒髪を煌かせるゲーマー妖怪が、邸最大の和室且つゲーム部屋に座っている。
「どうも、ご紹介にあずかりました、ゲーマー妖怪のサティスファクション都です。さて、話は前回からほんの少ししか進んではいないわよ?」
「何を言っているんだ君は」
そう突っ込みを入れるのは、黒いポニテの乙女、城茂美である。サティスファクション都の対面に、居住まいは凛として座る姿勢もすこぶる良いものである。その隣には癖っ毛をもしゃもしゃ描いている犬飼美咲もいる。こちらはまだ頭がくらんくらんしているのか、視線はあちらこちらを向いている。
「というか、いきなり洗脳まがいなことをするなんて、見損なったぞ、都くん!」
「その点は性急だったのは認めるわ。でも、沼にハマろうとする人を見たら落としたくなるじゃない?」
「それ全然いい訳になってないぞ」
(面倒ねえ)
そうサティスファクション都は思う。城茂美は、美咲の友人であり、且つ女学生であり、且つ退魔の家系の者だ。どれ一つとってしても面倒な要素である。特に退魔の家系なのは厄介だ。己が大妖であると自負するサティスファクション都でも、小手先でどうにか出来るが、まあ戦わない方が楽である、程度には脅威としている。それが出張ってきているのが面倒だった。
(さて、どうしましょうかね)
美咲からはシャドバをする快諾は貰っている。なので更にその話を進める方が良いだろう。しかし、城茂美が隣にいるのはどうだろうか?
城茂美は不確定要素である。ゲーマーであるのは知っているが、スマホゲーに手を出しているかどうか。あるいは、スマホゲーに偏見を持っているのではないか。お堅い城茂美のことだから、偏見持ちだと話が続かなくなるかもしれない。
(さて、どうしましょうかねえ)
再び心中に思っていると、美咲の方が茂美に声をかける。
「茂美ちゃんも、『シャドウバース』してたりする?
「『シャドウバース』? ああ、最近CMも結構やっているやつだな。そういうカードゲームがある、というのは知っているぞ」
「茂美ちゃんも初心者なら一緒にやってみない?」
「え!?」
美咲の提案が意外だったためか、茂美は困惑顔である。そして「うーん」と悩むポーズを見せる。
「あたし一人だと、色々と不安だから、一緒にやってほしいな。駄目?」
下から上目遣いというある種フィニッシュムーブを繰り出した美咲に、茂美は一瞬「くはぁ」よろめき、それから言った。
「一緒にやろう!」
(ころり、といったわね。それならそれで、問題はなくなった訳だけど)
サティスファクション都はそう思いながら、美咲が先の七種のリーダーの話を茂美にし始めているのを黙認した。自分から言うより、美咲からの方が、茂美にはいいのだ。自分じゃ、聞いてもらうのにワンクッションがいる。その点美咲は、である。
「で、各々スマホの方に『シャドウバース』のアプリは入れたわね?」
「入れて、初めて、最初のソロプレイで、ぱっと動かし方は分かったよ。でも」
「何かしら、美咲?」
「言葉が良く分からない……。<プレイ>が何を指すのかとか、<PP>とか<EP>とか」
「最初のチュートリアル、その辺が今一分からなく感じる場合もあるけど、美咲はその手のだったのね。城は?」
「なんとなくは分かる。なんとなくだが。カードの数字の意味合いも若干分かる」
情報の取り方が散々な二人に、サティスファクション都は優しく語りかける。
「こういうのは特にそうだけど、覚える情報が多いから混乱するのは分かるわ。詳しくはwikiれだけど、それじゃあここに居る意味が無いから、私がレクチャーしましょう」
「お願い」「助かる」
ふふん、とサティスファクション都は調子良く語りだす。
「まず、覚えるべきはカードの種類ね。これは三つ。<フォロワー>、<スペル>、<アミュレット>、ね」
まだそこにあったホワイトボードを伸ばした手で裏っ返し、まだ白いそこに書き込んでいく。
「まず<フォロワー>。これは言い方が分かりにくいけれど、他のゲームならクリーチャーとかモンスターとかいうタイプの、つまりユニットのことね。これを場に出して、殴り合いするのがシャドバの基本な訳」
それと、と続ける。
「先にカードにある数字情報の意味を知っておかないとね。まず左上の数字はコスト、後で言うけど<PP>いくつで出せるか、というものね。これは後で言う<スペル>も<アミュレット>も同様にあるわ。で、<フォロワー>カードの左下が攻撃力。この数値分のダメージを出せる。そして右下が体力。この数値分ダメージを耐えられる、というものね」
カードを大ざっぱに書き、言った場所に数値を書く。こんな感じにね、というように。
「次は<スペル>。これは当然だけど魔法ね。これを上手く使うのが<ウィッチ>クラスだ、というのは既に話してあるけど、他のクラスも専用の<スペル>があって、更にどのクラスでも使えるニュートラルのものもあるからだからバリエーションは豊富ね。基本的にコストが高いほど効果が高い、と覚えておいていいでしょう」
次、と言ってサティスファクション都は板書する。<アミュレット>。
「<アミュレット>はスペルの長期間版、と言ったらいいかしらね。場に配置して、効果を受け続けるのが主な使い道。効果はステータスが少しずつ上がるという地味なのから、配置して一定ターンしたら勝ち確定するという派手なのまで、色々とあるわ。<ビショップ>クラスは良く使うから、使うなら覚えておくといいわね」
そこまで言うと、サティスファクション都は一息いれる。そして個々人の理解度を見た目で判断する。どちらも理解の色がある。
なら、とサティスファクション都は続ける。
「質問を受けましょうか。美咲、分からないことがあったらどうぞ?」
「うん。まずさっきから言ってる<PP>と似たような<EP>ってなに?」
「いい質問ね。最初ちょっと戸惑うところだわ」
ではね、とサティスファクション都は続ける。
「まず<PP>。これはプレイポイントと呼ばれるものよ。最初は1から始まり、1ターン毎に1つ増えていき、10ターン目で最大の10になるの。これをさっき言ったコストで減らしてカードを繰り出すわけ。それと、毎ターンそのターンの最大まで回復するのも覚えておいた方がいいわね」
「プレイポイント内なら低コストをバンバン出すとかも出来る訳だな?」
「そういうこと。勘がいいわね、城」
平然として見えつつもほんのり嬉しそうにする茂美を置いて、次の質問に答える。
「次、<EP>は<進化ポイント>よ」
「<進化ポイント>の前に<進化>って?」
うんうん、とサティスファクション都は続ける。
「<進化>は、<進化>。シャドバでは、決まった回数だけど、<フォロワー>を<進化>させて能力をアップさせられるの。基本は攻撃体力共に+2、それに偶に進化した時に特殊能力発動する<フォロワー>がいるわ」
「攻撃体力+2、って地味じゃないか?」
茂美の問いに、ふふん、とサティスファクション都。
「そこのところが妙味ね。後一撃で倒せる時にあれば、フィニッシャーとして使えるし、後1耐えられるなら、なら+2は大きいでしょう? そういう場面が結構あるゲームなの」
「成程な」
「ねえ、それって無制限なの?」
美咲の問いに、サティスファクション都は「ノン」と言う。
「使用には当然制限があるわ。それが<EP>ね。使用回数は先攻が2回で後攻が3回。1ターンに一度しか使えなくて、先攻が5ターン目から、後攻が4ターン目から使用可能よ」
「やっぱり地味じゃないか?」
「もう一つ、ネタがあるにはあるけど、それはしかるべきタイミングで語るわ。次、城。何か質問は?」
問うよう振られた茂美は、少し黙して後、質問をする。
「カードに書かれた特殊能力が色々あるが、何がどういうことなのかさっぱり分からん」
「ああ、それはそうね。色々あるからね、このゲーム。でも、覚えれば簡単だから、固定ワードなやつをざっくりだけど説明するわね?」
「頼む」
と言われる。
(敵対する勢力の相手に頼むか)
そう気づいたサティスファクション都はくすぐったそうに笑ってから、話始める。
「まずこれね。<守護>。これは重要なスキルね。これを持った<フォロワー>がいると、その<フォロワー>以外、つまり相手側の他の<フォロワー>や<リーダー>が狙えなくなる、というものよ。まさに<守護>ね。慣れないうちは<守護>持ちは必須と言えるくらい使いやすいわ。ただ、防御は強くても攻撃は弱いのが難点かしら」
<守護>:他を守る! 防御特化に多し! と記載される。
「次に<疾走>。サラッと重要なこと言うけど、このゲームは基本的に<フォロワー>は置いたターンは攻撃出来ないわ。でも<疾走>はその類ではなくて、そのターンに<フォロワー>や<リーダー>に攻撃が出来るの。だから<疾走>持ちはフィニッシャー向きだから覚えておくといいわ。でも、持っているフォロワーは攻撃力が低い場合が多いけどね」
<疾走>:置いて即殴る! 若干火力なし? と記載される。
「次は<突進>。これは<疾走>と似ていて、置いたターンに攻撃できるわ。ただ、<リーダー>は狙えないから要注意。さっき言った進化のもう一つのネタ、というのはこの<突進>効果が付く、というのなの。すぐに出して邪魔<フォロワー>排除、というのがやりやすいのね」
<突進>:置いて即殴る! リーダーは無しよ? と記載される。
「更に行くわよ? <必殺>。これは相手に攻撃を当てればこちらの攻撃力が0でも、いくら相手<フォロワー>に体力が残っていても倒せる、というもの。<守護>持ちや高体力でも一撃だから、決まれば強いわ。ただ持っているのは大体ひ弱な<フォロワー>だから、一人一殺になりやすいのは覚えておきなさい?」
<必殺>:必ず殺す! でも相打ち多し! と記載される。
「まだまだあるわよ。<潜伏>。これは置いた<フォロワー>が攻撃しない限り攻撃の選択をされない、つまり攻撃を喰らわないというものね。ただ、<潜伏>側が攻撃をした時点でそれは解けてしまう、というのも覚えておいた方がいいわね」
<潜伏>:ゴウランガ! 攻撃が出来ない! と記載される。
「これはちょっと少ないけど<ドレイン>。文字通りだけど、ダメージ分の数値、リーダーが回復するものよ。<ヴァンパイア>クラスに多いのも特徴ね」
<ドレイン>:血ぃすうたろか! と記載される。
「もうちょっとあるけど、付いてきている?」
サティスファクション都はそう尋ねる。茂美はやっとこという顔だが、美咲は真剣さが出ている。基本やれば出来る子属性を発揮しているようだ。それを確認すると、サティスファクション都は続ける。
「次はちょっと変わって<ファンファーレ>。これは<ファンファーレ>持ちのカードを手札から場に置いた時点で効果が発動することを言うわ。例えば、『<ファンファーレ>:フェアリーを2枚手札に加える』とかね」
<ファンファーレ>:手札から置いたら発動! と記載される。
「それから<ラストワード>。これは逆にカードが破壊された時、<フォロワー>ならやられた時ね、その時に発動する効果のことよ。『<ラストワード>フェアリーを一枚手札に加える』とかね?」
<ラストワード>:ただではやられんで! と記載される。
「で、お次が<カウントダウン>。これは<アミュレット>限定で、カウント数が0になったら<ラストワード>の効果が発動するもののことよ。このコンボで強力な<フォロワー>を呼ぶのがビショップの基本ね」
<カウントダウン>:アミュレットが持つ秘密の数字! と記載される。
そこで、サティスファクション都は腕を延々と伸ばして台所まで向かわせ、そこにあるお盆の上の湯飲みを取り、それから自分の方へまき戻して口の前まで持ってくると、その中身を一息で飲み干した。
「くぁー! 喋ったわ!」
「なんか、一気に叩き込まれて混乱してるところがあるんだが」
「とりあえず、そこの殴り書き読んで納得させるといいわ。あるいはぐぐれ。というか、ここまで話したからにはこれ以上は話さないわよ?」
そう言いながら、サティスファクション都はもう一度二人の人間の理解度を確認する。
茂美はホワイトボードを確認しつつ、咀嚼しようとしている。一回で言うには多い内容ではあったが、それほど難しい処理ではない。何回かプレイすれば分かるだろう。茂美の方はそう結論付けているようであった。
対して、美咲の理解の色は鮮明だった。今からプレイしても問題なくプレイできるであろう、というものだ。とはいえ、それだけでいきなりなんとかなるものでもないのだが。
(それはそれとして)
と、サティスファクション都は区切りをつける。
「とりあえず、基本的な用語の話は済んだから、まずはソロプレイをやっていきましょうか」
そういうと、美咲が異を唱える。
「いきなり対戦とかしちゃ駄目なの?」
問いは美咲の気持ち先鋭しているのをうかがわせるものだった。
「いきなり対戦とかクソタレ甘い。まず、ソロプレイのストーリーでどのクラスがいいかを感得してから、カードを引いてデッキ作って、対戦はそれからよ」
ぴしゃり、とサティスファクション都は言い切る。その言葉に美咲は渋々と、茂美はほっとしたように従う。その初々しさに、サティスファクション都は教導する身にあることを喜ぶのだった。
一方、その頃。
「あ? そうだがよ? ああ、そうだ。え? 違う違う。そこはそれこう、もっとアグレッシブに、ああ、そうそう。その方向性だ。いいイントロダクションを頼む」
男が一人、携帯に話しかけている。通話先の声は雑音が多くて聞き取れない。ただ男の声が狭い室内に響いている。
その中心に、一人、いや一体の妖怪がいた。名はニシワタリ。口に猿ぐつわ。体全体に鉄のチェーンで椅子に縛られている。
(どのものも年季をうかがわせる逸品デスネ。これを使って何人もここに括り付けたのデショウ)
ニシワタリはもがもがとしながら思う。
なぜこうなっているのか、と言うのはニシワタリにも分からない。サティスファクション都邸に行く前にコンビニに寄ったところまでは覚えているのだが、そこから先があいまいだ。
頭部が痛い。
(コンビニに入るところで何かされて、殴られて、それで気を失ってとっ捕まった、あたりデスカネ)
そう見当をつけるが、その行為をされるいわれが全く分からない。見た感じ電話をしているのは人間だ。妖怪にも、自らと同じように人間に見えるやつもたくさんはいるが。筋骨隆々で、もう冬だというのにタンクトップに革ジャンだけという寒いのか見せたいのかいまいち不明である。
(この人、誰デショ。見た時ないお人デスガ)
ニシワタリもそれなりに生きている妖怪である。数多の人と巡り合い、別れてきた。
(でも、こんなお人は知らないデスネ)
孫と曾孫とかの類かもしれないが、そうなるとこれはさっぱり分からない。
つまり、状況的に手詰まりだ。向こうのアクションを待つしかない。
「ああ、分かった。そっちの筋で頼む。じゃあな」
電話が終了した。男がニシワタリの前に立つ。
そして言う。
「じゃあ、色々喋ってもらおうか」
強い顔で、その男はにやけた。
ネタがある時はちゃちゃっと書かないといけないですよ。ということでまた勢いでさっくりと。用語はまとめておくと後が楽だなあ、ということでざっとやってみましたが、まだ掘れそうなとこなので、おいおい掘っていきたいと思います。ということで次回はいつになるやら。気分次第!
とかなんとか。