第一枚 まずは『シャドウバース』のド基本のお話から
とある県のとある街の住宅街。その辺鄙なところに、とあるゲーマー妖怪がいた。
見る角度で彩度の違う、妖しの黒髪を腰下まで流す麗しの君である。服は上下ともブルーのジャージなので、あんまり麗しくないが。
「そういうことはどうでもいいの」
そう地の文に答えながら、黒髪の君、サティスファクション都は口上を始める。
「どうも、サティスファクション都です。ゲームネタシリーズも三回目になりましたが、相変わらずいつものスタンスでやっていきたいと思います。前回はゲームネタに詰まってアクションっぽくしてしまったのが反省点なので、今回はその点を注意してやっていきたいですね」
「何言っているの、都ちゃん?」
虚空に喋るサティスファクション都に、この家で一番広い和室のテレビ前のスペースにちゃぶ台の対面で座っている、サティスファクション都の数少ない人の友人である犬飼美咲が疑問を投げかけてくる。いつも通りの茶色い癖っ毛が、はてな、と首をかしげる動作と相まって子犬のそれに見える。
「何って、導入って大事じゃないかしら? どんないいゲームでも、とっかかりがクソタレ悪かったら、いい印象は持てないし、プレイも嫌になるでしょう?」
「それは分かるけど、何のとっかかりなの?」
「さておき!」
サティスファクション都はビシャリと言う擬音が出そうな動きから、話をすり替え始める。
「今日は美咲がスマホゲーに手を出したいというから、その候補として一つのゲームを例示するって話な訳でしょう? 脱線してはいけないわよ、美咲」
「まあ、そうだね。最初からレール乗ってなかったのは都ちゃんだけど」
(美咲も結構言うようになったわね……)
思うが口には出さず、サティスファクション都は話を続ける。
「そういう訳だから、今回は『シャドウバース』、略してシャドバについて話をしていきましょうか」
「そもそも『シャドウバース』というのはどういうゲームなの?」
美咲の問いにサティスファクション都は偉そうに頷いて答える。
「よくぞ聞いてくれたわね!」
「まず当然聞くべきところだと思うよ」
無視して続ける。
「『シャドウバース』、それは単純に言うとカードゲームよ。正確に言うなら、オンラインカードゲームね。前にやった『カルドセプト リボルト』はボードゲームに足すことのカードゲームだったけど、シャドバはより純粋にカードゲームと言うべきね」
「より、俺のターン! ドロー! で、ドローさえ創造するタイプな訳だね?」
「どこでそういう知識を得たのか知らないし、語弊しかないけど、まあそういうタイプね。純粋にカードを引いて、戦うゲームよ」
「そうかー」
微妙に乗り気ではない雰囲気の美咲に、サティスファクション都は「どうしたの?」と問う。
「カードゲームって運が強くないと駄目な印象があってさ。カードを引くにしても買って手に入れるにしても、どっちにしろ運次第な気がするんだよ」
(私たちと仲良くしていてまだ生きているという、基本的に豪運の美咲が言うと、イラっとくるわね)
「どうしたの、都ちゃん。険しいって顔だけど」
「あ、いや、なんでもないわ。その部分はあるけど、それを技術と発想でどうにかしていくのもまた、カードゲームの面白さよ? ということで、『シャドウバース』についてもう少し話していくわね?」
うん、と頷く美咲に、サティスファクション都は話を始めた。
「シャドバというのは、7人のリーダーのどれかを選んで、40枚カードを一つのデッキとして戦うカードゲームよ。様々なカードを使ってリーダーのHPを0にしたら勝ちという基本的ルールね。で、この7人のリーダー、というのがこのゲームの面白いところなのよ。カードゲームの神髄はカードの選択なのは、美咲も『カルドセプト リボルト』をしていたから分かるでしょ?」
「うん。でも数が多くてブック考えるのが大変でもあったよ。頭がこんがらがるったら」
「そうよ、そこなの。『カルドセプト リボルト』はシナリオをクリアして段階的に使えるカードが増えていくタイプだけど、それでも多くのカードを考えなくてはいけなかった。シャドバは、その部分でかなり面白い趣向を凝らしているのよ。それが、7人のリーダー、もっと詳しく言えば7通りのコンセプトね」
「ということは、7人ともに、違うコンセプト、ということなのかな?」
美咲の回答に、「そう」とサティスファクション都は答える。
「シャドバには7種のリーダーつまり基本コンセプトがあるのね。そしてそのコンセプトによって、入れられるカードが制限されるのよ。、例えばリーダーが<エルフ>なら、<エルフ>の類のカード以外はどれでも選べるニュートラル属性のカードしか選べない。つまり、カード選びは比較的簡略化されている訳。それによって、デッキコンセプトもある程度絞れるようになっているの」
「ということは、わりと迷いなくデッキが組める、のかな? でも、幅が狭くならない?」
「そうね」とサティスファクション都は当然と受ける。
「でもね、カードゲームというのはどの道、自分では使わないカード、というのが出てくるものなの。だから、最初からある程度の指向性があることによって、デッキの組みやすさとデッキの理解のしやすさが段違いな訳」
「でも、それなら相手に手の内がばれやすいんじゃない?」
当然の質問に、しかしサティスファクション都はうろたえない。
「それは、むしろなのよね。他のカードゲームだと、そのデッキというのに対する理解が大変だけど、シャドバでは基本的には7つのパターンに絞れるのよ。でも」
サティスファクション都は続ける。
「当然だけど全く同じパターンだけしかできない訳でもないわ。基本コンセプトの中から、更に派生した戦略を考られるの。基礎コンセプトきっちりと狙いが持てる形にするように出来る。それが『シャドウバース』の妙味な訳」
「確かに最初から7種に限定されている、というのは分かったよ。それで、七種のコンセプトってどんなの?」
「聞く? なら手短に言うわね。ちょっと長いかもだけど」
と言うと、サティスファクション都はどこからともくホワイトボードを出してきて、そして座ったまま手を伸ばしに伸ばして、身長より伸ばして板書しながら語りだす。
「まず、チュートリアルする為に最初に触る<エルフ>。いきなりゲーム用語だけど、所謂トークンとして低コストな<フェアリー>を多く手に入れ場に出すのが基本。場に出したことで発生する能力を使って戦うデッキね。手札の量でダメージを上げられたり、手札から出した数によって能力が発動したり、と手札の使い方を考えるデッキでもあるわ」
<エルフ>:場に出して能力を出すのがメイン! と記載される。
「次に<ロイヤル>。とにかく手数勝負のデッキね。たくさんの手勢で、軍隊で戦う、とイメージするといいかも。<兵士>というクラスと<指揮官>と言うクラスがあって、それぞれにぞれぞれへ効果を持つようになっているわ。<指揮官>の能力で<兵士>の攻撃力が上がる、<兵士>は<指揮官>が要れば追加能力が出る、とかね。また用語だけど、シナジーってやつね」
<ロイヤル>:ウォー! シナジーでバトれ! と記載される。
「次が<ウィッチ>。魔法使いね。他のリーダーより魔法、スペルの種類が多くて、また魔法を使うと性能が変化する<スペルブースト>が一つと、あると特殊能力がより発動出来る置物であるアミュレットの<土の印>シリーズが特徴ね。特に<スペルブースト>はそれをしないと基本コストが使えるコストの上限を超えていて発動不可能な魔法があるくらいだから、かなり特化した魔法デッキもあるわね」
<ウィッチ>:魔法で魔法をぐるぐる回せ! と記載される。
「お次は<ドラゴン>。他のリーダーより基礎能力が高いカードが多いけど、それ以上に特徴的なのは、ターンで上昇していくコスト限度を恣意的に上げていけること。他のリーダーより素早く上げるのが重要ね。そして、コスト限度が7になると<覚醒>をして、カードの性能が変化するわ。元より屈強なところが、更に強くなる訳」
<ドラゴン>:コスト限界上げて相手より早く強力に! と記載される。
「まだまだいくわよ、<ネクロマンサー>。これは<ネクロマンス>という破壊されて墓地に送られた時の数値を特別に使用して、カードの特殊能力を発言させるデッキね。倒されれば倒されるほどその数値<ネクロマンス>が増えていくし、その数値を増やす効果持ちも居るから、能力を活用出来る中盤から後半に力を発揮するタイプのデッキね」
<ネクロマンサー>:死体増やして更に強い死体を! と記載される。
「次行くわよ次。<ヴァンパイア>。これはHP操作、特に自分へのダメージがある場合が多いデッキね。それだけだと単にマゾヒストだけど、リーダーのHPが10になると効果を発揮する<復讐>があるから、上手くHPを管理していくのが重要なデッキね。<復讐>に入ると能力が向上するのもポイント。でも、回復手段もあるから、ダメージばかり受けてないで上手く回復も、が重要ね」
<ヴァンパイア>:HP減らして復讐だ! 回復もあるよ! と記載される。
「最後、<ビショップ>。これはさっきもちらっと言ったけれど、置いて能力を発動する<アミュレット>を重視したスタイルのデッキね。低レベル<アミュレット>で高性能なカードの召喚に使うけれど、そのコンボだけで勝利を狙えるという魅惑のものもあるわ。総じてガチガチの殴り合いには向かないけど、防衛力は高いカードが多いのも特徴ね」
<ビショップ>:アミュレット設置から召喚して殴ればいい! と記載される。
「まあ、ざっとしたところはこのくらいね。またもうちょっと深い話はおいおいやっていくけれど、理解は追いついたかしら、美咲?」
「うん、大体は。7種でも全然違う味付けなんだね。で」
「で」
美咲がじり、と手を元に戻したサティスファクション都に近づく。
「結局どれが一番楽なの?」
サティスファクション都は眉をひそめて、美咲に苦言する。
「そういう考えは私感心しないわね。とはいえ、聞きたい気持ちは分かるわ。7つあると流石にどれかに絞りたくなるからね」
「で」
更に詰め寄る美咲に、サティスファクション都は嘆息。
「で、はいいから。そうねえ」
サティスファクション都はしばし黙考。頭を一周横回転してから、言う。
「色々とカードの兼ね合いもあるけど、基本的な所で分かり易くてやりやすいのは<エルフ>と<ロイヤル>ね。前者は手札とコスト管理が重要で、後者は手早くカードを集めて配置するのが重要、というのだけど、結局はカード引いて場に配置する、だから他のリーダーよりは比較的考えることが単純で簡単で戦いやすいわね。まあ、考えなくて勝てる、って感じではないけど、ゲームの感じはつかみやすいわ。次で<ドラゴン>もコスト上限上げて強いのを相手に先んじて設置して殴る、が基本だけど、多数の相手や小細工は苦手なところがあるから使いやすさでは前の二つより少し落ちるわ。特にデッキの力が高レアに頼る部分が大きいのもあって、ガチになればなる程手持ちとにらめっこになるわね」
「他は難しいの?」
「難しいというか、特殊な感じね。まず<ウィッチ>と<ネクロマンサー>は少し難度が高いわね。どちらも独自の数値管理とか、土の印とかがあるから、その辺の理解と管理が重要ね。ただ出すだけじゃなく、数値も見ないといけないから。それに、その点に即したデッキ作りしないとさっぱりだから、その点も難度を上げているわね。<ネクロマンサー>は若干やりやすいかもだけど、環境次第ね。だから初手からこれ、というには難しい所があるわね。それと、<ヴァンパイア>と<ビショップ>は難度は高いわね。<ヴァンパイア>は自分にダメージがないと<復讐>が活かせないから、HP管理が難しい。そこを管理しやすいデッキもあるけど、それでも自分から減らすのにびくつく時もあるでしょうしね。<ビショップ>は守るのはいいにしても殴り倒す方へは時間がかかるのが難ね。アミュレットから召喚するまでのタイムラグをどうするか、というのもあるわ。で、どちらもはまれば強い、と言うタイプだからね。でもまあ、どれも一度は触ってみるといいと思うわ。というよりも」
「よりも?」
「やるからには全部やるわよね? 全リーダーで強くなるわよね、美咲?」
その顔には有無を言わせない、そもそもまだそのゲームをするとも言っていないのに、力があった。普段あまり見せない、サティスファクション都の大妖としての力を、その視線に込めているのだから当然だ。常人の美咲に耐えられるものではない。
むおんもんと念力が美咲に集中する。その口を、する、と動かせようとする。
と。
ぃん
涼やかな音と共に、剣閃が美咲とサティスファクション都の間を通り抜けた。
「……城」
姓を呼ばれた黒髪ポニーテールの女性、城茂美は刀を腰の虚空に収める。そして、刀はするりと消えた。しゃぼんのようだ、と美咲はぼんやりと思った。
と、茂美が答える。
「何をするか、って顔だけど、こっちの台詞だよ。美咲に何をする気だったんだ」
「前後不覚にして『シャドウバース』させる確約を手に入れるんだったのだけど」
「普通に一緒にやろ? で、いいだろそれ」
ああ、とサティスファクション都は柏手を打つ。すぱん、といい音がした。
「……城にしては冴えたこと言うわね」
「君の頭の冴えなさは異常だよ。それで何百年と生きているのが不思議なくらいだ」
「……その辺は長生の油断とも言えるかもね。瞬間に生きてないってやつかしら」
「……そういう問題じゃない。というか、美咲大丈夫か?」
問いかけられた美咲は、焦点のあっていなかった視点を急速に元に戻して、
「え、あ、うん」
と取り急ぎ返答した。まだ強力な催眠の余波があるようで、油断をするとふらふらとしてしまっている。
ほら、と言わんばかりにサティスファクション都を見る茂美。その視線を逸らしながら、美咲に今度は普通に問う。
「で、美咲、一緒にやってみない?」
美咲の答えは、サティスファクション都の予想通りであった。
ということで、ゲーマー妖怪3rdシーズン、始めます。前回はちょっと口惜しい部分も多かったので、その辺を解消していきたい、いきたいなあ。できたらいいなあ。まあなんとかします。