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トランスジェンダー  作者: 葵 春
3/5

あかり

食事を終え、自室で着替える。


Tシャツとバスパン。いわゆるダル着を脱げば、自分の女らしい体のラインが現れる。

俺はなるべくそれを見ないようにして素早く着替える。

幸いにも俺が通う高校は、決まった制服はなく、私服登校。俺が高校を選んだ時の判断基準は、女子の制服を着なくてすむかどうか。

理にかなっていたから、選んだ。


下着を脱ぎ、胸にバンドを巻く。

俗に言う、ナベシャツ。

少しでも女体的な部分を隠そうとする、俺の精一杯の反抗心。


お気に入りの、シャツにチノパン。

いつも通りの格好でまた今日が始まる。

青のシンプルなリュックサックに荷物を大雑把に入れて、俺は家を出た。




例の舞は、俺が高校に入学してから仲良くなった。

偶然にも最寄のバス停が隣で、仲良くなってからはいつも俺が一つ手前のバス停で降りて、

舞を家まで見送ってから、一駅分、自分の家まで歩いて帰るというサイクルを繰り返していた。


朝は、いつも決まった時間のバスの中で舞と落ち合う。


昨日のことがあった以上、

同じバスは避けたかった。


が、それもなんだかこちらが気にしているようで恥ずかしかったから、俺はいつも通りの時間に、バスに乗った。


バスに乗り込むと、外気と車内のクーラーの効きすぎた冷気との温度差が、少しばかり眩暈を引き起こした。


肌が、じんわりと汗ばんでいる。


田舎のバスは、平日の朝でもいつも見知った人が数人乗っている程度。


俺はいつも舞と隣り合わせで座っている座席へと座った。


次の駅で、舞は乗り込んでくる。


どんな顔をして第一声、おはようと言おうものか。

これからどう付き合っていくかばかり考えていたせいで、挨拶のことなんて忘れていた。



そういえば、俺はいつもどんな表情をしていたのだろう。


車内から道路沿いに舞の姿が見えるやいなや、

俺はふーーーっ、とゆっくり息を吐き出す。

舞の最寄駅にバスが停車した。


いつも通りだ。いつも通り。


ドアが開くのと同時に舞がステップを登り、乗車する。



目が、合った。



「「お、おはよ!」」



ハモった。



二人とも声が上ずっていて、それが余計に可笑しかったのか、舞は小さく吹き出して笑った。



お互いどんな顔で挨拶しようか迷っていたんだな、と悟った。


そして舞はいつものように、俺の隣に座る。


「へんなの、ふふ、はもっちゃったね。」

舞は笑ってこちらを見る。


俺は相槌を返して、笑みも返す。

これがいつも通りだ、と思い出した。


汗ばんでいた肌は、車内の冷気で乾かされ、同時に少しすっきりした気がした。



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