あかり
食事を終え、自室で着替える。
Tシャツとバスパン。いわゆるダル着を脱げば、自分の女らしい体のラインが現れる。
俺はなるべくそれを見ないようにして素早く着替える。
幸いにも俺が通う高校は、決まった制服はなく、私服登校。俺が高校を選んだ時の判断基準は、女子の制服を着なくてすむかどうか。
理にかなっていたから、選んだ。
下着を脱ぎ、胸にバンドを巻く。
俗に言う、ナベシャツ。
少しでも女体的な部分を隠そうとする、俺の精一杯の反抗心。
お気に入りの、シャツにチノパン。
いつも通りの格好でまた今日が始まる。
青のシンプルなリュックサックに荷物を大雑把に入れて、俺は家を出た。
例の舞は、俺が高校に入学してから仲良くなった。
偶然にも最寄のバス停が隣で、仲良くなってからはいつも俺が一つ手前のバス停で降りて、
舞を家まで見送ってから、一駅分、自分の家まで歩いて帰るというサイクルを繰り返していた。
朝は、いつも決まった時間のバスの中で舞と落ち合う。
昨日のことがあった以上、
同じバスは避けたかった。
が、それもなんだかこちらが気にしているようで恥ずかしかったから、俺はいつも通りの時間に、バスに乗った。
バスに乗り込むと、外気と車内のクーラーの効きすぎた冷気との温度差が、少しばかり眩暈を引き起こした。
肌が、じんわりと汗ばんでいる。
田舎のバスは、平日の朝でもいつも見知った人が数人乗っている程度。
俺はいつも舞と隣り合わせで座っている座席へと座った。
次の駅で、舞は乗り込んでくる。
どんな顔をして第一声、おはようと言おうものか。
これからどう付き合っていくかばかり考えていたせいで、挨拶のことなんて忘れていた。
そういえば、俺はいつもどんな表情をしていたのだろう。
車内から道路沿いに舞の姿が見えるやいなや、
俺はふーーーっ、とゆっくり息を吐き出す。
舞の最寄駅にバスが停車した。
いつも通りだ。いつも通り。
ドアが開くのと同時に舞がステップを登り、乗車する。
目が、合った。
「「お、おはよ!」」
ハモった。
二人とも声が上ずっていて、それが余計に可笑しかったのか、舞は小さく吹き出して笑った。
お互いどんな顔で挨拶しようか迷っていたんだな、と悟った。
そして舞はいつものように、俺の隣に座る。
「へんなの、ふふ、はもっちゃったね。」
舞は笑ってこちらを見る。
俺は相槌を返して、笑みも返す。
これがいつも通りだ、と思い出した。
汗ばんでいた肌は、車内の冷気で乾かされ、同時に少しすっきりした気がした。