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トランスジェンダー  作者: 葵 春
1/5

こころ

トランスジェンダー


この言葉の意味を知っている人は、世の中にどれくらいいるのでしょうか。


性同一性障害。

こう聞くと、わかる方も多いかと思います。


体の性と、心の性。

それらが食い違うことで、多くのトランスジェンダーの方が悩んでいます。

一方で、自分らしく生きている方も沢山いるのです。


トランスジェンダー、つまりは性同一性障害。

これは障害ではないのです。

病気では、ないのです。


まだまだLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略)に関する理解はないのが現実です。

肯定的な考えを持つ方にも、否定的な考えを持つ方にも、より深く知って頂きたく、ウェブ小説を書くことを決めました。


拙い文章ではありますが、是非この機会に少しでも、性的マイノリティの世界について知って頂けたら幸いです。

生きているなら。


恋がしたい。



生きているから。


存在理由が欲しい。



誰とでも同じように


生きている価値が欲しい。



我儘なのか本能なのか、16歳の俺にはまだ、分からない…。


________________________



「俺ずっと、舞のこと見てきた。」

今、俺は人生で初めて告白をしようとしている。

高一の夏。

帰り道の田んぼ道はなんだか少し泥土の匂いがして、近くの森からは蝉の鳴き声が迫ってくる。

切り出した自分の言葉が、蝉の声で掻き消されそうで。いや、自分の緊張を急かしているようで、耳を塞ぎたくなる。


「入学した時からさ、仲良くしてくれて…いい友達だよって言ってくれて…俺、嬉しくて…」


俺は決まりの悪い言葉をつらつらと並べながら、隣を歩く舞の方を見た。


「舞が俺のこと友達として見てるって知ってる。でも、もし少しでも俺のこと、男として見てくれてるなら…」


言うんだ、俺。


「つ、付き合って…欲しい。」

恥ずかしさで語尾が小さくなったのが分かった。

暑いはずなのに、体は熱いはずなのに、緊張でなんだか涼しい。ひんやりと、一筋汗が流れる。

告げられた舞は、少し驚いたように前方一点を見つめて、スピードはそのままに俺の隣を歩いていく。


何秒だったのか。

長く感じられた沈黙の後、舞はすぅっと小さく息を吸い込んで、口を開く。


「美月、ごめんね。」



一度思考が停止する。蝉の声がさっきと変わって遠くなる。

聞きたくなかった一言と、その理由を聞きたがる自分の脳を強く恨んだ。


「な、んで…?」

俺は振り絞るように切り出す。


「私ね、美月のこと大好きだよ。いつも明るくて、運動だってできるし、みんなの人気者で。

でもね…美月のことを男の子として……見られないよ…。私の中で、美月は、女の子なの……。」


舞は、こちらを見ることなく、度々詰まらせながら、口にした。

その言葉には、『しっかり言わなきゃ』

そんな気持ちが籠っているのを感じた。


美月は、女の子……。


振られることよりも、よっぽど避けたかった現実。

心のどこかで言われることを恐れつつ、こうなる事は、知っていた。


たった数分の出来事なのに、俺の心は脆くぽろぽろと崩れていくのが分かった。


「そ…だよな。ごめん!変なこと言って!いつものジョーダンだから、気にすんなよ…?はは」


俺は馬鹿だ。

俺の脳みそはどこまで阿保なんだ。

また本当の自分を、隠すことを選んだのだ。


「……。」

ここで初めて、舞は俺の方を見る。

必然的に目が合う。

お互い田んぼ道を歩く足は止めないままで。


舞は不思議そうな、且つどこか切なそうな目でこちらを伺い見る。


ジョーダンだって…、言ったのに。

頼むから、そんな顔をしないでくれ…。


「そんな顔すんな〜って!……ほら、もうすぐお前んち!」

そう言って俺は無駄に明るく振舞い、いつものように笑顔を作る。


「あ、うん…。」


見えてきた舞の家を前にホッとする。

まるで逃げ道ができたように思えた。


「じゃあね、美月…おやすみ。」


「おう!ほんと今日のは忘れてな!おやすみ、舞!」


舞は少し笑って、遠慮がちに手を振りながら立派な門の中へ消えていく。


小野川 美月、16歳。

女の体で生まれた俺は、男として初めて、


失恋を経験した。





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