こころ
トランスジェンダー
この言葉の意味を知っている人は、世の中にどれくらいいるのでしょうか。
性同一性障害。
こう聞くと、わかる方も多いかと思います。
体の性と、心の性。
それらが食い違うことで、多くのトランスジェンダーの方が悩んでいます。
一方で、自分らしく生きている方も沢山いるのです。
トランスジェンダー、つまりは性同一性障害。
これは障害ではないのです。
病気では、ないのです。
まだまだLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略)に関する理解はないのが現実です。
肯定的な考えを持つ方にも、否定的な考えを持つ方にも、より深く知って頂きたく、ウェブ小説を書くことを決めました。
拙い文章ではありますが、是非この機会に少しでも、性的マイノリティの世界について知って頂けたら幸いです。
生きているなら。
恋がしたい。
生きているから。
存在理由が欲しい。
誰とでも同じように
生きている価値が欲しい。
我儘なのか本能なのか、16歳の俺にはまだ、分からない…。
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「俺ずっと、舞のこと見てきた。」
今、俺は人生で初めて告白をしようとしている。
高一の夏。
帰り道の田んぼ道はなんだか少し泥土の匂いがして、近くの森からは蝉の鳴き声が迫ってくる。
切り出した自分の言葉が、蝉の声で掻き消されそうで。いや、自分の緊張を急かしているようで、耳を塞ぎたくなる。
「入学した時からさ、仲良くしてくれて…いい友達だよって言ってくれて…俺、嬉しくて…」
俺は決まりの悪い言葉をつらつらと並べながら、隣を歩く舞の方を見た。
「舞が俺のこと友達として見てるって知ってる。でも、もし少しでも俺のこと、男として見てくれてるなら…」
言うんだ、俺。
「つ、付き合って…欲しい。」
恥ずかしさで語尾が小さくなったのが分かった。
暑いはずなのに、体は熱いはずなのに、緊張でなんだか涼しい。ひんやりと、一筋汗が流れる。
告げられた舞は、少し驚いたように前方一点を見つめて、スピードはそのままに俺の隣を歩いていく。
何秒だったのか。
長く感じられた沈黙の後、舞はすぅっと小さく息を吸い込んで、口を開く。
「美月、ごめんね。」
一度思考が停止する。蝉の声がさっきと変わって遠くなる。
聞きたくなかった一言と、その理由を聞きたがる自分の脳を強く恨んだ。
「な、んで…?」
俺は振り絞るように切り出す。
「私ね、美月のこと大好きだよ。いつも明るくて、運動だってできるし、みんなの人気者で。
でもね…美月のことを男の子として……見られないよ…。私の中で、美月は、女の子なの……。」
舞は、こちらを見ることなく、度々詰まらせながら、口にした。
その言葉には、『しっかり言わなきゃ』
そんな気持ちが籠っているのを感じた。
美月は、女の子……。
振られることよりも、よっぽど避けたかった現実。
心のどこかで言われることを恐れつつ、こうなる事は、知っていた。
たった数分の出来事なのに、俺の心は脆くぽろぽろと崩れていくのが分かった。
「そ…だよな。ごめん!変なこと言って!いつものジョーダンだから、気にすんなよ…?はは」
俺は馬鹿だ。
俺の脳みそはどこまで阿保なんだ。
また本当の自分を、隠すことを選んだのだ。
「……。」
ここで初めて、舞は俺の方を見る。
必然的に目が合う。
お互い田んぼ道を歩く足は止めないままで。
舞は不思議そうな、且つどこか切なそうな目でこちらを伺い見る。
ジョーダンだって…、言ったのに。
頼むから、そんな顔をしないでくれ…。
「そんな顔すんな〜って!……ほら、もうすぐお前んち!」
そう言って俺は無駄に明るく振舞い、いつものように笑顔を作る。
「あ、うん…。」
見えてきた舞の家を前にホッとする。
まるで逃げ道ができたように思えた。
「じゃあね、美月…おやすみ。」
「おう!ほんと今日のは忘れてな!おやすみ、舞!」
舞は少し笑って、遠慮がちに手を振りながら立派な門の中へ消えていく。
小野川 美月、16歳。
女の体で生まれた俺は、男として初めて、
失恋を経験した。