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少女の懺悔

作者: 抹茶色

キツイ薔薇の匂いがする。

これは花の香りなんかじゃない、香水をかけ過ぎた匂いだ。

どこからともなく匂っているそれに、バイト帰りの疲れもあり、バス酔いしそうになる。

まったく、誰だよ。

「次は、○○町五丁目です。お降りの方はブザーでお知らせください。」

車内アナウンスが聞こえてきて、助かったと思った。

誰かがブザーを押した。

「次、止まります。ご乗車ありがとうございました。」

と、再びアナウンスの声がする。

ああ、ようやくこの匂いから解放される。

そんなに自分の存在を主張したいのだろうか。

頭の中で文句を言いながら、リュックから定期券を取り出す。

真っ直ぐ続く国道を走るバスがゆっくり減速し、バス停の前で停車した。

着いた。

さっさとバスを降りようと、歩みを早める。

「ありがとうございました。」

運転手さんにそう言って、やっと降車できた。

自分の後に続いて何人か降りてきたのがわかった。

まあ知り合いはいないだろう。


ふと空を見上げると、夜空には満天の星空。

この町はいつでも空気が美味しい。

国道に対し垂直にある上り坂を歩けば、五分程で家に着く。

よし帰ろう。


そう思った時だった。

後ろからまた、顔をすっかり包み込むようなその匂いがした。

匂いは一瞬で人の心を支配する。

同じところで降りていたのか。


私は苛立った。

ちょっと睨んでやろう、そんな考えが頭を過った。

こんなものを身に纏っていたら、私だけじゃなく、同じ空間に居合わせた人も困る。

それに、本人だってそんな目で見られて、いい思いはしないはずだ。

いい加減やめないか。

その人のいる位置はあらかた掴めていた。

ただ振り返って、少しだけ嫌な表情を向ければいい。

人間しようと思えば、どんな下衆な顔だってできる。

まあこんな小さなことで、そこまで恨んでいる訳でもないのだけど。


私はキッ、と振り返った。

もちろん少し顔を歪めて。

「あっ」

思わず声が出てしまった。

睨むつもりだったその人と目が合って、作っていた表情が崩れる。

葵だ……

一瞬だけ、彼女は私をすごい形相で睨んでから、私の横を通り過ぎて行く。

ひらひらと派手な色をしたミニスカート。

パーマをかけた明るすぎる茶髪。

その人は自分にとって、一番たちの悪い相手だ。


今日こそは謝れるだろうか。

話し、かけられるだろうか。

「か、狩屋さ…」

声を掛けようか迷って、明らかに語尾が掠れた。

私が迷っている間に彼女は、声の届かないところまで歩いていた。

また話せなかった。

私はただ彼女の歩く姿を呆然と眺める。

次会うのはいつだろう。

もうないかもしれない。

私はあと一ヶ月で、この町を出る。


高校三年生の春。

正確には大学一年生の春か。

一年間勉強に打ち込んできた私は、偏差値はそこまで高くない公立大学に合格した。

だがここから通うのには、片道二時間、往復で四時間と、かなり遠い。

それで春から一人暮らしをすることになっていたのだ。


上り坂を歩きながら考えた。

久し振りに会った葵は、昔とは大きく変わっていた。

今まで彼女は、どうやって暮らしていたんだろう。

……まあ、生きているとわかっただけで良かったかもしれない。



ただ私は、あの頃の出来事が未だに心に引っかかっていた。

これからどうすればいいんだろう。

私は少しでもこの不安を和らげたくなって、小学校から付き合いのある幼馴染に電話した。

そういえば同じ高校とはいえ、クラスが違ったためか一年くらい電話してない。

少し躊躇いながら、私は電話を掛けた。

二回、三回、着信音が鳴って、相手が出た。

「はい。清白(すずしろ)です。」

聞き慣れた咲優(さゆ)の声だ。

「もしもし、あの、相沢です。」

「あ!望実(のぞみ)?!久し振りだね~!あ、私ね、大学受かったよ!!地元の私立だけど、校舎が綺麗なの。望実は?」

「うん、受かったよ。ちょっと遠い大学。」

「そうなんだ。会えなくなっちゃうのかなあ。でもさ、お互い良かったよね!大学入ってもまた遊ぼうよー!」

うん、と返事する。

良かった、何も変わってない。

咲優はいつも明るかった。

「それで?」

「え?」

そして咲優は、こういうことに昔から鋭かった。

「なんか話しあったんじゃないの?望実、相談したいことがあるとよく電話してくるでしょ。」

「そうなの?」

うん。即答で返された。

そうだったっけ。

私そんなにわかりやすかったっけ。

「とにかく、話すだけ話してみてよ。」

「うん、ありがとう。実はね、今日狩屋さんに会ったの。」

「え、狩屋さんってアノ狩屋さん?」

中学の時も私とクラスが違った咲優は、あまり葵……狩屋さんを知らないようだ。

「うん、そう。中学の時……いじめられてた。」

「うん。そうだったね。中一くらいだっけ? 違うクラスだったけど、噂は何となく聞いてた。その子がどうしたの……?」

「……実は……」

少しずつ、あの時のことを思い出していく。

私は思い出しながら、それを口に出した。

忘れようとしていたあのことを。



中学一年の、生温く暑い夏の日のことだった。

私は幼馴染みのマナと、彼女が連れて来てその時初対面した葵と、三人で公園にいた。

初めて見た葵は、そこそこ可愛かった。

綺麗に黒く、真っ直ぐ伸びたセミロングに、ぱっちりとした目。

鼻といい、口といい、全体的に整っている。

腕や脚なんかは華奢で人一倍小柄だが、小麦色の肌からして、元気な子なのかな。

どんな子だろう。

私は少し期待していた。

「私、狩屋葵!!名前なんて言うのー?」

期待していたはずの第一声がこれだった。

予想の枠を越えて元気だなあ。

「え、と……私、相沢望実。マナとは小学校からの付き合いなの。これからよろしくね。」

「へー、望実って言うんだ~!なんか名前負けしてるね!全然望みとか希望とか、持ってなさそう!」

葵はあははっ、と軽く笑う。

あれ、私の話聞いてた?

というか初対面なのに名前負けとか、失礼じゃない!?

なんか変な人だ。

「マナ、何この子。」

私は隣にいたマナに、小声で話しかける。

「うーん……葵ってね、小さい頃に事故で両親が亡くなっていて。そのせいか、あんまり人の事を考えて行動できないみたいで……」

そんなこと関係あるの?

心の中で呟く。

「でもほんとは良い子なの。だから、お願いできないかな。」

仲のいい友達のお願いなら、断る理由もない。

「うーん……わかった……」

マナとは小学校からの付き合い。

葵はマナの家の隣に住んでいる子で、傍若無人な振る舞いのせいか、マナ以外ほとんど友達がいないらしい。

それなのに、マナと葵は違うクラスになってしまった。それで葵と同じクラスになった私に、友達になってもらいたいそうなのだ。

この子、本当に友達になる気があるのだろうか。

第一印象は最悪だった。


出会ってから一ヶ月。

「のぞみーん!おはよっ!」

葵はいつも朝からハイテンションだ。

「……おはよう。」

相変わらずうるさい。

クラスの子にも、色々自分勝手なことを言って困らせているようだ。

でもこの一ヶ月、わかったことがあった。

この子、そこまで嫌な奴じゃない。

例えば、自分が悪いことを言ったとわかった時は、言い訳のひとつもせずに謝る。

人より鈍感で、不器用なだけだ。

私はそう思い始めていた。

ちゃんとした友達になれるかもしれないとも思っていた。


そんな時だった。

あんなことが起こったのは。

いや、起こったとは言えない。

私が起こしてしまったのだ。


出会って二ヶ月が経った時。

葵とは一緒に帰るようにもなっていた。

その日は委員会があったから、葵に待ってもらっていた。

委員会が終わって教室に戻ると、待つと言っていた葵の姿がなかった。

先に帰っちゃったかな……?

その代わり、教室には同じクラスの女子五人が残っていた。

話すのに夢中になって、私に気付いていないみたいだ。

確かあれは……クラスで悪目立ちしてる女子だよな。

よく人の悪口を言っているのを聴いていた。

みんなで円になって、何か話してる。

雰囲気からして、あんまりいい会話じゃなさそうだ。

また悪口だろうか。

よくもまあ、こんなに堂々と。

変に巻き込まれる前に早く帰ろう。

そう思った時だ。

「……ねー、ウチのクラスに"狩屋"っているじゃん?」

帰る方向に向かっていた足がピクッと動く。

うちのクラスにいる狩屋は、葵だけだ。

葵の悪口?

「あー、いるいる!あいつほんっとウザいよねー。めっちゃ人の話聞かないし。何様のつもり?」

ほんとだよねー、と、頭の悪そうな口調で相槌を打っている。

口々に話す、葵の悪口。

止める……?

友達の悪口言うの、やめてよ!

そんな大それたことを言う、自分を思い描いた。

だけど、そんなこと言えるわけがない。

ケタケタといやらしく笑う声。

「そうだ、いいこと思いついた。狩屋のこと、クラスで外れにしない?」

……それって、つまりイジメ……?

「あいつそんな可愛くもないのにさァ、私達の話ガン無視するし!身の程弁えろよ、って話!」

「あ、それいい!なんかいっつも空気読めてない、っていうかー。」

「そんなこと……」

やめてよ。

私は声を出しそうになった。

もしかしたら明日から、葵はいじめられるかもしれない。

……でも、やっぱり私に止めることはできない。

恐い、私までいじめられる。

次の瞬間、私はリュックを持って、走り出していた。

悪口を止めることも、彼女達を批判することも、何もできないまま。

私は必死で彼女達から、事実から逃れようと走り続けた。


翌日、私はいつも通り葵はおはよー!と、いつものハイテンションで言ってきた。

私は少し引き気味に、おはよう、と返す。

昨日のこと、言ったほうがいいのかな。

でも普段と変わった所は、何もないように見える。

きっと大丈夫だ、あれは何かの聞き間違いだ。

私はそう思うことにして、事実に蓋をした。


だが既に私の知らないところで、あの五人を中心としたいじめが始まっていたのだ。


あの放課後から一週間。

葵は完全にハブられるようになっていた。

今まで彼女のことを"狩屋"と呼び捨てにしていた人が、"狩屋さん"と、こぞってさん付けで呼んだ。

そもそも呼ぶ人もいなくなった。

他にも散々惨いことがあった。

給食の時間、葵が配膳したものは汚いと言われ捨てられたり、本人に聞こえる声で悪口を言われたりしていた。

ある時は上履きがなくなったり、教科書がいつの間にか捨てられていたり。

……それと、あまり表立ってはいなかったが、あの五人に無理やりトイレまで連れて行かれたこともあったようだ。

その後葵が全身を水浸しになって帰っていた、と聞いたが、そこで何があったかは、葵と、彼女達以外、誰も知らない。


あの苛烈ないじめは全部、あの五人の影響だ。

だが「狩屋さんは邪魔。」という偏見が、次第に自然なことになっていた。


五人が悪いと知っていた私もまた、葵を避け始めていた。


ある日、直接的にはイジメに関わっていない、クラスの女子に話しかけられたのだ。

「ねえ、相沢さん。なんで狩屋さんと仲良いの?あの子めっちゃウザいじゃん。」

やめてよ。

そんなこと言われたら、私まで除け者にされる。

「いや、そんな、仲良くないよ。」

私は咄嗟に否定した。

「そうなの?じゃあ私たちと友達になろうよ!あの子といたら、相沢さんまでいじめられちゃうよ?」

「え?」

心が揺さぶられた。

葵のイジメの根源を知っているのは、もしかしたら私だけ。

先生に言えば解決するのかもしれない。

……でも。

葵とは最初からそんな仲良くなる気なんてなかったし。

たまたまマナに押し付けられただけだし。

もう関係ないよね。

切っても、いいよね。

「うん、心配してくれてありがと。私も"狩屋さん"のこと、ウザいと思ってたの。友達になってくれないかな。」

その日から私もイジメの傍観者になった。

周りの人間のように、葵のことを"狩屋さん"と呼ぶようになった。


葵の友達をやめてから少し経った頃。

どんなに私が冷たく接しても、それに気がつかないみたいに、葵は私に話しかけてきた。

「ねえ、のぞみん!一緒にかーえろっ!」

「……」

うるさいな。

どっか行ってよ。

大体、のぞみんって何?

気持ち悪い。

「ねえ のーぞみーん!」

どうして気付いてないの?

能天気なの?

もう私に構わないでよ!!

「ね「うるさい!!もう話しかけないで。」

自分の冷えきった声と態度にハッとした。

私、こんな声出るんだ。

私はついに言ってしまった。

葵が彼女の大きい目をさらに見開いて、怯えた顔をしている。

そこへ"友達"が来た。

「望実、どうしたの?」

葵の表情を見て、何と無く状況を察したらしい。

私の前にいた葵を一瞥し、その存在自体をまるで無視して言った。

「望実、行こ?」

「……うん。」

それからも何度か話しかけられることもあったが、私は頑なに無視し続けた。

二年生になりクラスが離れた時には、廊下でもすれ違わなくなった。

後から聞いた噂によると、二年生になってすぐ、不登校になったらしい。

高校生になると、本当に関わりはなくなった。




「そんなことがあったんだ……うーん、それはお互い辛いよね……」

私は今まであったことを赤裸々に話した。

こんなに悪いところを話してもなお、私の話に耳を傾けてくれる咲優は、本当に優しい。

ふと思った。

咲優なら、どうしただろう。


「今はその、狩屋さんは元気なんでしょ? それならもうそこまで気にしてないんじゃないの?」

「でも……私、この問題をこのまま終わらせたくないの。」

このままだと、一生何も言えないうちに人生が終わってしまう。

「じゃあ、謝るしかないよ。」

「それはわかってるんだけど……」

簡単に言えたら苦労しないよ……

「けど、じゃない。」

いつになく咲優が厳しい。


「望実は、何で謝りたいの?」

「なん、で……?」


私は、どうしたいの?

謝るのは、誰の為?

受話器を持つ手が、汗で滲む。

謝るのは……葵の為なんかじゃない。

私はただ、厄介事を終わらせたいだけ。

葵を無視していた時だって、私は自分の身を守ることだけを考えていた。

そうだ。

全部、全部自分の為だったんだよ。

今もそう。

自分が会った時に気まずいから、この町に未練を残すことが嫌だから、私は謝りたいって思ってる。

どんなに頑張っても、どんなに謝っても、罪は消えない。


ふと香水のことが思い出された。

気持ち悪くなるくらいにつけられた香水。

そして派手な服装と髪。

やっとその意味がわかった気がする。

いじめられて、誰からも存在を無視され続けて。

それなのに本来支えてくれる存在である家族もいない。

多分葵は、私はここにいる、って気付いて欲しかったんだろう。

いじめられる中で、存在を無視しないでほしいと言いたかったのだろう。

葵は悪くないのに。

ただ普通に過ごしたかっただけなのに。


怯えきった顔。

見開いた目。

華奢な身体。

私が怒鳴った時に見たもの、全て鮮明に憶えている。

私は急に恐くなった。

体中から汗が噴き出る。


……葵、ごめんなさい……


私どうやっても、何しても、あなたに償いきれない……最悪な人間だ。

でももう、あの時には戻れない。

許してもらえるわけないだろう。

謝っただけで許してもらえるような、そんな簡単なものじゃない。

どうしよう、どこにも逃げられない。

手足がガタガタと震え出した。

嫌だ、恐い。

どうしたら逃げられる、この恐怖から。

どうしたら……



「……ぇばいいのよ……。」

え?

耳に押し当てていた受話器から、何か聞こえた。

咲優……?

「……殺シテしまえばいいのよ……。」

コロ……ス……?

……そっか。


葵の存在を消してしまえば、私は誰にも責められない。



「ごめん咲優。ありがとう、私上手くやるから。」

「え、何が? もう大丈夫なの?」

受話器から聞こえる声を無視して、私は電話を切った。





とりあえず会わなきゃ。

そう思っていると、本当にそうなるみたい。

電話してから一週間後の、バイト帰りのバス車内でのことだった。

キツイはちみつと、何かの花が混ざったみたいな匂いがした。

そこには葵がいた。


チャンスだ。


「葵。」

彼女がバスを降りたところで、そう呼んだ。

まるで今までのことが全て消え去ったかのように。

どうせ全て消えるのだから。

警戒心を抱かせたら、そこで終わりだ。

私の前を歩いていた彼女は、突然のことでふいを突かれたのか、自然に答えた。

「…………何?」

「少し、話さない?」


春の夜風は冷たい。

彼女と横に並んで歩く。

こんなこと何年ぶりだろう。

沈黙は続くが、意外にもすんなりついてきてくれるものだ。

私達は坂を上がらず、バスが走ってきた国道を戻るように歩いていた。

夜なのに、国道は何台か車が通っていた。

ただこの国道沿いの歩道は、人通りは少ない。

「ねえ、何なの……?……いきなり無視したり、話しかけたり。あんたの行動って、ほんと訳わかんない。」

私は答えなかった。

というよりこれからどうしようか、ということだけに集中していたせいで、ほぼ何も聞こえなかった。

向こうから大型トラックが走ってきていた。

「ねえ!聞いてんの?!私疲れてるの!早く帰らせてよ!!」

「葵、ちょっとこっち来て。いいもの見せてあげる。」

私は葵の手をグイと引いて、車道の端まで連れて行く。

大丈夫、やれる。

「……何もないじゃない。」

「ううん、あるよ。ほら、そこの下の方。」

私はじっとタイミングを見計らう。

トラックがすぐそこに来た。

「あるから。」

そう言って私は、国道沿いの歩道ギリギリに立つ葵の背中を思いきり蹴飛ばした。

これまでにないくらい力を込めて。

もとから小柄な彼女を蹴飛ばすのは容易だ。

足先にヌルくて重たい塊の感触。

ドンッともとれるような、ゴツッともとれるような音がした。

キィーーッ!!

夜の町に、悲痛な叫びが響いた。





ーーー「葵、元気?体調はどう?」

ぐったりとベッドの上にいる葵に声をかける。

寝ているのか、葵は返事をしない。

いつもなら、望実ちゃんおかえり、って返してくれるのに。


あの夜には続きがある。

トラックの運転手には、葵がただ飛び込んできたようにしか見えなかったらしい。

運がいいことに、一人も私が彼女を蹴飛ばしたところを見ていなかった。

そのため、私は誰からも訴えられなかった。

まあそれを狙って、あの時間を狙ったのだが。

本来の殺すという目的は達成できなかったが、記憶をなくした彼女には関係ない。

私は誰からも咎められない。

これで大丈夫だ。


あの事故から、半年。

私は葵の世話をしていた。

身の回りの世話全部だ。

彼女はあの夜の事故で両脚と、左手が使えなくなったのだ。

親のいない葵には、彼女の世話をする人がいない。

そこに私が幼馴染だと偽って、葵の世話役を買って出たのだ。


一人ではまだ食事すらとれない彼女は、産まれたばかりの乳児と同じだ。


つまりーー私がいなければ、この子は生きていけない。


私はこの先の生涯をかけて、葵の世話をする。

私がお世話してあげるの。

我ながらとても素晴らしい償いだと思う。

私は寝ている葵に向けて、にこりと微笑んで言った。


「これが私の懺悔よ、葵。」


彼女の笑顔は、今までで一番酷く醜い形相であった。

ぐしゃぐしゃしてしまいました。

あまりオチがありません。

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