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第零節 回想-アシドリ-

 雲海の夜闇に浮かぶ、銀色の光を放つ月。黒に染まりつつある雲を纏い、現実から切り離された世界を創り出していた。


 静寂が続くかと思われたが、2本の光条が夜空を2分した。


 互いに複雑に舞ながら激突し合い、光が弾けた。片方の光が力を失ったように、地上に向けて墜落しだした。雲の中を貫け、下は都会のネオンの煌きの星空だった。


 摩天楼の屋上に落ち、コンクリートに蜘蛛の巣の紋様を刻んだ。


 それを追う様に、もう片方の光が舞い降りた。その動きは最初、質量を感じさせなかったが、ゆっくりと動く様は充分に人間的だった。


 その姿は西洋の中世に使用されていた、白銀の板金鎧プレイトメールの格好。それは全身を覆う儀礼用ではなく、力強さを強調した白兵に特化した風貌だ。所々に金色のラインが奔り、印象に残り易い縁取りをしている。頭はやや東洋気味の兜と、鋭いツイン・アイのフェイスカバーを付けている。


 その手に握られているのは、身の丈を超える程の大剣。異様に幅が広く、鉄塊を物語る鋼色が、自らが力の塊である事を主張していた。それに反して刀身には、十字架か翼を広げた鳥のレリーフが彫られている。


 その背からは、雄大な翼が広がっていた。


 その姿は騎士のようであり、天使のようでもあった。


 土埃が晴れ、亀裂の中央の物体が見えてきた。


 霊長類的なフォルムだが、ホモサピエンスよりもゴリラに近い。全身に装甲板を思わせる金属を纏い、隙間からは生物的な筋肉が見える。だが所々、人工的な配線や、有機的なチューブが見受けられる。胸部から腹部へ斜めに奔る傷からは、暖色系の火花と冷色系のスパークが出現する。鋭角的な顎と、異様に突き出した額も奇妙だが、切れ込みの様な細い目から漏れる光も不気味だ。


 天使とも騎士ともつかない者は足を進め、大剣を振り上げた。上段から斜めに斬り下ろし、断ち切った。血振りの様に大剣を払い、背を向けた。


 光が弾ける様に膨れ上がると、ホタルの様に光が舞い、霧の様に霧散した。


「終わったようだな」


 女性の声と共に、足音が近づいて来る。


 アメジストの粉末を混ぜたプラチナブロンドは、一流の金細工師でも作り出せぬ程細く、繊細に背中まで流れている。目は釣りあがり、瞳は蒼。眉は細く、目と同じ角度で上がっている。鼻は小さくも整っており、その下には小さな唇。余り日に当たっていそうもない白い肌を、何処かの学校の制服が包んでいる。胸元は大きく開かれ、豊満な谷間が覗ける。


「早いものだな。お前が“騎士ナイト”となって半月。Cランクであれば、私の手助けは無用か・・・これも才能なのか?」


 女性が視線を騎士に向けると、全身が眩い光に包まれた。やがて柔らかな羽が舞うように、光が風に流されていった。


 現れたのは、少年だった。


 茶色い髪は癖が少し強いのか、外側に向かってやや跳ね気味だ。目は大きく、瞳は翠。眉は少し太く、見方では意思の強さを垣間見せる。肌の色は典型的な東洋人で、身長の割りに華奢な印象を受ける。彼も学校の制服らしき物を着ており、同年代の少年達にしては童顔の顔は、どこか純朴そうな印象を与える。


「・・・天国に、逝けたかな?」


「前にも言った通り、奴らが『輪廻の環』に加わる事は無い。私達が倒すのは、悪魔。それも、機械の体を受け、物理となったモノ達だ」


 少年の呟きに女性は冷たく返し、ドアの方に足を進めた。


「明日も学校なんだ。今日は早く帰って寝るぞ、恵」


 ノブを捻って暗闇の向こうに消えた女性を見送ると、少年は右手の中の懐中時計に視線を落とした。猛禽類を思わせる顔に、翼を模った縁周り。文字盤には英数字が刻まれ、現在の時間が示されている。


「もう、半月になるのか・・・」


 初めまして、達郎吉宗です。

 今回は第零節、言うなれば序章みたいなものです。読まれた方は分かるかもしれませんが、本編が始まってから時間が経過しています。バトル物である事を強調したかったので、こうしました。

 次の第一節・二節は事の始まりになり、第三節くらいから主時間に戻ります(多分)。

 駄目物語にならぬよう心がけますので、末永く見守ってくださいませ。

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