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一番欲しいもの

作者: 尚文産商堂

私が今、一番欲しいものと言われて答えるならば、単位だろう。

大学の進級要件の単位に、若干足りない。

あと4単位だ。

「って言っても、なにかこれから取れるやつってないかな……」

そう言って、教務科の掲示板を見ていると、面白い授業の申請があった。

「化学か」

ただし、ルビで“ばけがく”と書かれているが。

もっとも、昔は化学と科学を分かりやすく言うためにそう言う人もいたことは、知っている。

だから、あまり不振がらず、おれは教務科に受講申請を出した。


翌日、その授業の部屋へ行くと、先生らしき男性が一人と、生徒が4人いた。

「お、これで全員そろったな」

紙を見ながら人数を数えて、先生は言った。

「まだチャイムは鳴っていないけど、もう始めてしまおうか。私は、この講義で化学(ばけがく)を教えることになっている、狐井士高(きついしたか)だ。他の教授たちからは狐さんと呼ばれている」

名前を黒板に書きながら、簡単に授業の説明をし始めた。

「さて、この講義は人に化ける、物に化けるということを中心に講義する。人間は……」

紙を再び見て、俺を指さした。

「彼一人か。まあ、いいだろ」

ということは必然的に他の生徒は人間ではないということになる。

「とりあえず、これだけ少人数なんだ。自己紹介を互いに出来るだろ」

そう言って、一番前に座っている女子を指さした。

「初めに君から、おねがい」

「私は家狸育代(かりいくよ)です。よろしくお願いします」

先生だけが拍手をする。

今度は男子が立ちあがる。

「僕は龍佐太雄(りゅうさたろう)。陰陽師の家系なので、一応人間です。先生は間違えておられるようですが…」

「おや、そうだったかい。ごめんごめん」

笑っているが、龍は嫌そうな顔をあらわにしている。

「…まあ、いいです」

「んじゃ、次」

「うちは、鏡止子(かがみとめこ)。よろしゅうに」

京美人な感じの女子だ。

「じゃあ最後に」

「えっと、自分は北雅楼(きたまさろう)。一般人の自分がこの授業取ってもいいんでしょうか……」

先生に聞いたが、笑って返される。

「単位がヤバいって話だね。まあ、4単位ならこの授業と同じ単位数だし。いいんじゃないかな。それに、彼女たちも、人間とのつながりは欲しいだろうしね」

「どういうことです」

教壇に紙を置いて、俺たちに話し始める。

「太古の昔、人間は獣だった。ゆえに妖怪や獣と共に生きていた。しかし、最近は人間と妖怪と獣は区別されている。かなり厳密にな。それゆえに、接点が無くなった。この大学は、ちゃんと試験に受かった者なら誰でも入れるということを謳い文句にしている。それは、文字通り、誰でもなんだよ」

「…ていうことは、先生も?」

「私も妖怪の一員だよ。純度百パーセントのね。ここにいる彼女たちは家狸さんは狸の家系だし、鏡さんと龍くんは、それぞれ別系統の陰陽道の家元の子供だ。まあ、鏡さんは神道系だということで、ちょっと純粋な陰陽道とは違うけどね」

「他にも、いろんな人たちがいるんですか」

「もちろん!」

楽しげに、先生は話しだした。

「吸血鬼、狼男、それに夢魔に、人魚も妖精も天使も悪魔もいるぞ。そうだ、一度私のゼミに来るのはどうだろう。みんな純粋な人間とのつながりは希薄だからな」

「え、でも……」

「いや、いいんだ。彼らは君を歓迎するだろうしな。問題ないよ。何かあったら、私が割り込んであげよう。いつが暇かな」

単位不足のために、とんでもないことになりつつあるが、もう、俺の手では止めようがなかった。

こうして俺は、いろんな世界を知ることになる。

ただ、それは別のお話。

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