13 濃紺の空間
外見は古めかしいが、中は整っている。オーク家との差に、ユリシーズは気圧された。
「こっちだ、来い」
アンドリューはユリシーズを自室へ通した。そして、ユリシーズが部屋に入るのと同時に鍵を掛けた。はっとしてユリシーズが振り向く。
「なぜ・・・放っておいて下さらなかったのです」
その言葉と同時にアンドリューは両手を壁につき、ユリシーズが逃げられないようにした。
「いいか、お前はユリシーズ=オークである前に、海軍司令官なんだ。こんな物まで着せられおって!」
片手で古い布は簡単に切り裂けた。ユリシーズが短い悲鳴をあげた。白い肌がむき出しになる。
「辛いんです!なぜ私だけがこんな目に会わなくてはならないんですか。なぜ他の貴族の娘達のように着飾って踊ってはならないんですか。なぜ・・・」
ユリシーズはしゃくり上げるように泣いた。アンドリューは初めて気づいた。目の前にいるのはユリシーズ=オークという男ではなく、女だった。なぜオーク家にいるのか小耳に挟んだことがある。その時はただ、可哀想な境遇のやつもいるもんだ、と思った。だが、どうだろう。同じ年頃の娘達はおしゃれに熱心で、一日中踊ったりお喋りをしたり。恋をすれば恋文を書き、噂話をして・・・。ユリシーズと同じ年で嫁に行く娘だっている。そんな女達を横目に、ユリシーズは銃を、剣を手に男達に交じっている。おそらく誰もユリシーズが女だとは知るまい。男として扱われ、士官なのでそこまでではないだろうが、力仕事も出来なければ叱責され、戦場へ行き・・・。辛くない方がおかしい。一番華やかな時を軍服を身に纏い、誰にも振り返られず過ごしてゆく。
オーク中将の妻、ジョゼフィン=グレイシーの噂も聞いたことがあるが、嫉妬深いらしい。今回も、ジョゼフィンが一枚噛んでいるのかもしれない。今までさんざん嫌味を言ったことを後悔した。
「おい」
あらわになっている肩に手をかけた。ユリシーズがビクッとする。
「何もしない・・・。いいか、よく聞け。お前一人の問題じゃない。 お前がいなくなれば、お前の部下はどうなる?後任の将軍か別の者の下につけられる。だが・・・はっきり言おう。お前は優秀だ。お前が手塩にかけて育てた第八艦隊と第九艦隊はどうなる?奴らは他の将軍の目の敵となって、最前線へ送られるだろう。ジュノー王国と対峙すれば、最前線で生き延びるのはまず無理だ。だが、お前がいれば奴らの運命は変わるんだ」
「ひどい・・・」
ユリシーズは顔を覆って泣いている。確かに酷だとは思う。だが、今回の戦線ではユリシーズが必要だ。・・・いや、それよりも何か単純に離したくない、という気持ちの方が強い。
トマスに命じて服を持って来させた。
「あいにくうちに女物はなくてな。私が昔使っていた物だ。丈は合うと思うが」
ユリシーズは素直にそれを着た。
「オーク家が嫌なら・・・うちに泊まっても構わぬが」
「いいえ、海軍司令部で十分です」
あっさりと断られた。まあ、当然か。
次にユリシーズを見た時、シャツに透ける胸の膨らみに、アンドリューは今さらながら頭がカッと熱くなった。




