第三話 後悔先に立たず
旅を続けて早10年。親父は最低10年と言っていたから、つまりはもう帰れるわけで。
そんなルンルンな気分だった俺が、最後の依頼を最初のギルドで受けて何が悪いと言うのか。
別にいいじゃない。だって人間だもの。
・・・なのにさ、何でだろうね。
隣町に向かう山の中腹。
「はあぁっ!!」
聞こえてきた威勢の良い声に、何事かと目を向ける。
見えるのは、ゴブリンの大群。
何かを取り囲んでウホウホ言ってるよ。何だ何だ? 喧嘩か?
「でやぁっ!!」
声はゴブリン達の中央から。フライで少しだけ浮いて覗き込むと、
「およ?」
立派な剣と鎧を身に纏った少女が、ゴブリン相手に大立ち回りをしていた。
一人旅の途中かな? 何とも運の悪いこって。
さてさてそんな少女は、突いて斬ってとゴブリンを始末してはいるけども。
幾らなんでもあの数に一人は分が悪すぎると。
既に何体かは死体になって転がっているけど、やっぱ多勢に無勢な訳で。
少女は既に肩で息をしている訳で。
か弱い少女を助けないとという正義感(笑)に身を任せた俺は、エア・ストームで手早くゴブリンを始末した。
大魔導師をバカにしちゃいけません。
あんな雑魚共、指先一つよ! ふはははは!!
あれ? 昔こんな笑い方する奴が居たような・・・。
誰だっけ?
思い出せないなら、そんな大した事じゃないかな?
まぁいいや。ふははは!!
と、一人テンションが高い俺。
・・・それがいけなかった。
何ですぐに逃げなかったよ、俺。
「す、凄いな!! 何だアレ!? あのゴブリン達が一瞬で全滅だぞ!!」
キラキラした瞳で俺を見つめる少女。
距離はもう近い。
少女は既に俺の手を取ってブンブンと振り回している。
細腕に見合わない、中々の握力だ。痛い痛い。
「貴方は、何て言う名前だ!?」
「お、俺? 俺は、イズミ・ユウキだけど・・・」
俺以上にテンションの高い少女に、若干引きながら自己紹介。
あるよね。周りが無駄に騒いでると何か急に冷めちゃう事。
「イズミ・ユウキ? と言う事は、貴方があの有名な大魔導師か!?」
「その有名な大魔導師です」
どの有名? とは聞かない。溢れ出る紳士イズム。
うわぁ~とか言いながらペタペタ触りつつ、『本当に異国の服なんだな~』とか、『噂は本当だったんだ!』とか、『よく見ると、か、カッコいいし・・・』とか、ブツブツ呟いてる。
何これ怖い。
ちょっと目がイっちゃってるよ。
「良し、決めた!!」
何を?
「私の名前は、ミア!! ミア・ブレイブル!!」
何か嫌~な予感がした。
しかし、手はがっちり掴まれている。
痛いです。
「勇者だ!!」
もうね、直感で分かったよ。
完全に巻き込まれたと。
―運がいい事があったら、運の悪い事もあるんだから―
ふと脳裏に浮かぶ受付嬢の声。
いやいや、運の悪い事起こるの早すぎでしょうよ!?
て言うか勇者もっと遠くで活動しろ!
噂聞いてから出会うまでが早すぎるんだよ!!
そんな俺の心の声を知らず、勇者様はニコニコと笑ってましたとさ。
ゴブリン討伐から帰還した俺はギルドで報酬を受け取った後、酒場に来ていた。
給仕から酒を受け取り、一気に呷る。
くぁ~!! 仕事の後の一杯はたまんね~な、おい!!
「イズミは酒に強いんだな」
いいな~とばかりにチビチビと酒を飲む少女。
出来れば忘れたままで居たかったよ、うん。
「・・・でさ、要件って何?」
あれから、話があると無理矢理に町へと強制移動させられた俺。
勇者様は結構力がお強いようで。
頑張ったんだ!! 振り解こうと頑張ったんだ!!
でも無理だった!! 無理だったんだ!!
「うん、それはな・・・」
あれよあれよと連行されて、酒場ですよ。
何とか逃げようと報酬を受け取りに行きますって言ったら、私も行くって。
もう何があっても逃げられないんだろうなぁ。
瞬間移動出来る魔法が欲しいとです。
ルーラ! ルーラ!
え? 何で逃げる必要があるのかって?
そりゃミアさんは所謂美少女ってやつだけどさ。
勇者様ですよ勇者様。
ぜってーアレだって。何か世界を救う旅的な事に巻き込まれるって。
やだよ俺。帰って自適悠々な生活を送るんだ。
・・・え? ただお礼がしたいだけじゃないのかって?
バッカちげーよ。アレは獲物を狩る目だよ。
形の良いパッチリお目々は俺の身体をロックオンですよ。
某モンスターハ○ターな人も真っ青な目ですよ。
だから、だからね? 次に出てくる言葉も容易に想像が付くわけで。
「一緒に魔王を倒しに行こう!!」
「断る!!」
「そうか!! 一緒に来てくれるか!!」
あっれ~、おっかしいぞ~!? 断ったはずだよね!?
「いや、あのね勇者さん?」
「いや、大魔導師が仲間になってくれるのは心強いな!!」
聞いちゃいねぇ。
それから、魔王について色々と語りだす勇者様ことミア。
何でも、遥か昔に封印されていた魔王が復活したらしい。
最近魔物の動きが活発になっているのはそれが原因なそうで。
で、かつての勇者の末裔であるミアが魔王を再度封印すべく立ち上がったと。
そんな話を2時間に渡って猛烈に語られた。
もう俺の中じゃ、『勇者』と『魔王』がゲシュタルト崩壊ですよ。
出てきました、勇者です。
女の子です。レベル15ぐらいです。
詳しいステータスとかは、いずれ纏めて載せたいと思います。