第二話 何だかんだで10年後ですよ
旅に出てから、早10年。
いやぁ、色々あったわ。
大陸へ向かう船に乗り王国の片田舎に行ったりもした。←密入国
金を稼ぐ為に冒険者ギルドに登録して仕事をこなして。←不法滞在&年齢詐称
金が無い時はちょっと市場の物を拝借したりも。←窃盗
いやぁ、色々あったわ!!
そんなこんなで18歳になった俺がいるのは、とある王国の片田舎の町。
名前は・・・忘れた。
け、決して作者が考える事を面倒臭がった訳じゃないぞ!?
忘れたんだ、そう、忘れたんだ! ここ大事だから忘れない様に!!
と、そんな町の角にある冒険者ギルド。
俺はそこにいた。
服装は相変わらずの袴姿。新しく買うのも面倒だった為、サイズが合わなくなる度に仕立て直した。
仕立て直しは安いしね。当時金の無い俺にはどんな宝物よりも輝いて見えたよ、仕立て直し。
まぁ、そんなこんなで長く着ていると当然愛着も湧く訳で。
俺と言えば袴。これが定着してしまっていた。
「あら~、大魔導師じゃない。いつ帰ってきたの?」
カウンターに近付くと、俺の姿を確認してニッコリと笑う受付の女性。
ちなみに、俺は旅の間魔法の練習を欠かさなかった訳で。
そりゃ、ほとんど全ての魔法が使える訳で。
そんなだから、大魔導師なんて渾名みたいな二つ名みたいなモノが付いてしまった訳で。
結構恥ずかしい名前である。
魔導師て。大て。
「ついさっきね。ヤマに帰る途中だし、ついでだから小金でも稼いで余裕を持った帰省をしたい訳ですよ」
あらそう、と呟く受付嬢。
一番最初に依頼を受けた時もこの受付嬢。そして最後もこの受付嬢。
う~ん、何か感慨深いものがあるよね。
・・・ここで、10年もの間現役を勤めている彼女をどう想像するのかは皆さんにお任せしたい。
「今は、そうね~。ゴブリンの討伐依頼ぐらいかしら。ホラ、隣町に行くのに山を通るでしょ? そこに群れが住み着いちゃったみたいなのよ~」
「へ~。俺が通った時は別にそんなの居なかったけどなぁ」
「偶々じゃないかしら?」
「そっか?」
「最近、魔物の動きが活発になって来てるから。イズミ君は運が良かったのね~」
そういうもんかと一人納得し、俺は依頼書を受け取る。
報酬は3万ペリカ。
ざわ・・・ざわ・・・と、どこからか声が聞こえてきそうな通貨単位だが、歴としたこの世界共通の通貨単位だ。
何も難しい事は無い。日本円で言う所の、1円が1ペリカ。10円が10ペリカとなる。
100ペリカまではコインで、1000ペリカから1万ペリカまでは紙幣。
・・・日本なんじゃねぇのここ?
まぁ、単純に考えて報酬は3万円と言う事だ。
俺はその額に少しだけ眉を顰めた。
「な~に? そんな顔して。日々を細々と暮らす人達にとっては、それだけでも十分な大金よ?」
そんな俺の顔を見て、受付嬢は少し怒ったような顔をする。
「いや、ごめんごめん。今まで結構派手な仕事が多かったから、つい、ね?」
冒険者ギルド。簡単に言えば、何でも屋の元請けみたいなものだ。
誘拐犯を捕まえてくれだとか、魔物を退治してくれだとか、盗賊を懲らしめてやってくれだとか、ネコを探してくださいだとか、腰が痛いので揉んで下さいだとか。
そんな依頼を受けて、何でも屋たる冒険者に斡旋する組織。
それこそ、1千万ペリカの大仕事から1000ペリカの雑用まで。
旅をしながら金を稼ぐにはもってこいの職業である。
ちなみに冒険者にはEからSSランクまでがあって、それが上がるほど大仕事を受ける事が出来るようになる。
実力主義なこの世界。結構厳しい職業である。
俺? 俺はSSランクだけど何か?
「仕事に大きいも小さいも無いの。大魔導師からすればただの雑魚だって、民からしてみれば十分な脅威よ」
「あ~、だからごめんって。大丈夫。引き受けたからには、全力で依頼を達成するから」
説教モードに入り掛けている受付嬢から依頼書を奪うようにして受け取り、俺は笑顔で言う。
「もう。でも、油断はしちゃ駄目よ? 運がいい事があったら、運の悪い事もあるんだから」
「はいよ~」
その言葉に生返事を返しながら、俺は出口に足を向けた。
と。
『何でもさ、勇者が現れたらしいぜ?』
『ああ、どっかの偉い占い師が言ったんだろ? 魔王の復活と共に勇者が現れるって』
『つー事はアレか? 魔王が復活したのか?』
『そもそも魔王って何だよ』
目を向ければ、テーブルを囲む4~5人の冒険者達。
(勇者に魔王、ね~)
今から故郷へ帰る俺にとっては、全く関係の無い事。
(頑張れ、勇者。草葉の陰的な所から応援してるぞ、うん)
そうして俺は、颯爽とギルドを出ようとする。
「きゃっ」
そんな時、耳に飛び込んでくる小さな悲鳴。
目を向けると、スカートを履いた女の子が転んでるではないか。
・・・まぁ待てよ。落ち着け俺。クールになるんだ。
前世も合わせて、精神年齢は40を越える。オッサンだ。小娘のパンツ如きに一々反応する俺じゃない。
自然と下がる視線。
「最近、足腰が鈍ってる気がするな~。何でだろう」
ゆっくりとだ。まだ小娘は立ち上がっていない。決して気付かれることなく、ゆっくりとゆっくりと。
今、俺は、そこ等中漂う空気となる!!
「何やってんの」
スパーンとスリッパで頭を殴られる。
「・・・これが、悪い事か・・・っ」
何という事だ。ヤマに帰る直前に、こんなトラップがあろうとは。
「何言ってるの。さっさと行って来なさい」
「は~い」
不貞腐れながらギルドを後にする、見た目は青年中身はオッサンな俺。
・・・後になって思う。
いや、そもそもね? ギルドに立ち寄ったのがいけなかった。
・・・帰るべきだったんだ、早々に。
パパ&ママの待つ家へ帰るべきだったんだ・・・。
次回は魔法の説明が入る・・・はず。
こんな駄文を読んでくれて有難う御座います。
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