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勇者のお供  作者: 御影
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第一話 子供に旅ってありえんでしょ・・・

「で? 何よ親父」


「ゴホンっ。明日で、お前は8歳になるな」


 ・・・何? そんな話の為に俺の練習の邪魔をしたの?


「いやいや、話はそれだけじゃないぞ!? だからそんな冷めた目で父を見ないで!?」


「じゃあ、用件をどうぞ。余りにも詰まらなかったら、俺は庭に戻るから」


 俺の言葉に、親父は咳払いを一つ。


「うむ。実はな、このユウキ家には男児は8歳から見聞を広める為に旅に出るという慣わしが・・・」


 さて、今度は氷魔法の練習でもするかな?


 アイスニードルとかカッコいいよね~。氷と炎でメド○ーアだぜヒャッハー!!


「まぁ待て息子よ!!」


 立ち上がった俺の腰にしがみ付いて来る親父。


 ええい、HA☆NA☆SE!!


「で? 親父は俺に旅に出ろと」


 座り直した俺は、親父に訊ねる。


 カポーンと庭で音を立てる獅子脅しがシュールだ。


「うむ。無論、安心して旅に出せる力を持っている事が前提条件だが・・・」


「ねぇぱぱぁ~。ぼく、たびとかわかんな~い」


「今更遅いわ!! 父は知ってるんだからね!! お前、裏山の主を焼き殺しただろうがっ!!」


 ちっ。


 ちなみに、裏山の主とはでっかい猪である。


 もの○け姫に出てくるアレみたいな。


 あの時は怖かった。若干5歳の前に立ちはだかるおっことぬしモドキ。


 しかしそこで逃げるのはただの5歳児。ファイアボールで真っ先に目玉を狙った俺に隙は無かった。漏らしたけどね!


 視界を奪われて暴れまわる猪に、木の上からファイアボール連発。焼けた肉の一部は美味しく頂きました。


「まぁ、剣術では無く魔法に秀でているのが不満だが・・・」


 さいですか。


「という訳で、今から旅の支度をしなさい」


「断る!!」


 断固とした俺の言葉に、親父は顔を歪める。


 えっ? 何それ笑ってんの? 怖いよ。


「別に~。断ってもいいんだけど~。その時はお前を家から追放するだけだし~」


 ちょ、おまっ!!


「あぁ、怖いな~。お前は何か無駄に美形だから、どっかに誘拐されるかもな~。どっかの脂ぎったおばさんの玩具になるかもな~」


 て、てめぇ・・・!!


 だがしかし俺は自由で怠惰な日常を諦めない。


 真正面から親父を睨み付ける。瞬きを忘れて、若干瞳がウルウルしているのは内緒だ。


「ん~? 何だいその目は」


 ぶつかる視線。俺を飲み込もうとする威圧は収まらず、しかし俺はそれから逃げない。逃げたら駄目なんだ。あの日から、俺は逃げないって・・・そう誓ったんだ。


 若干厨二テイストでお送りしたが、様は睨み合ってるだけである。


「ん~?」


「くっ・・・!!」


 続く睨み合い。


 永遠にも思えるその最中、ふと親父の胸元に目が向かう。


 ・・・札束が、胸元から覗いていた。


「ちょっ、てめっ・・・」


「あ、見えてたか。いかんいかん・・・」


 いそいそと札束を隠す親父。


 間違いない。従わなかったら俺を売る気だ・・・。


(云わば、貴様などいつでも俺の好きにできるのだよ)


 ざわ・・・ざわ・・・。


 畜生。親父の野郎、死んだ魚の目をしてやがる。


「・・・るよ」


「ん~? 聞こえなかったなぁ」


 札束を扇子替わりに扇ぐ親父。


「旅に出るっつってんだよ!!」


「おぉ、そうかそうか」


 満足そうに笑う親父(という名の悪魔)。


 こうして、俺の旅立ちは決定したのだった。






「手拭いは持った? 保存食は? 下着の替えは?」


 翌日。


 玄関先で、俺は両親と向かい合っていた。


「大丈夫だよ、母さん」


「でも、心配だわ・・・」


 常識人な母。


 何でこんなゴリラと結婚したのか不思議に思ってしまう程の美人だ。


 俺、母に似て良かった・・・。


「いいか? お前が納得した時が、旅の終わりだ」


 え? それって・・・。


「ちなみに、最低10年は旅してこいよ? 明日になったらただいま~とか無しだぞ?」


 くそっ。


「本当に、良く似合ってるわ」


 どこか悲しげな顔で俺を見る母。


 そんな俺は袴姿である。


 何でも、これが正装なのだとか。


 こんな理不尽な旅に正装もクソもない気がするのは俺だけだろうか。


 格好だけ見たら、完全に七五三である。・・・こんな恥ずかしい格好で旅をするなんて、きっと何かの罰ゲームなんだろう。


 とまぁ、ここでぐだぐだしても仕方ない。


 早く旅に出ないと危ない。(主に俺の貞操が)


「それじゃ、親父、母さん」


「うむ」


「ええ」


 俺の言葉に頷く二人。


「行って来ます!!」


「「行ってらっしゃい!!」」


 そうして、俺は旅の第一歩を踏み出したのだった。


 目指すは大陸。


 こうなったら自棄だ。


 ポジティブに行こうポジティブに!!


 頑張れ頑張れ出来る出来る!!


 ・・・ハァ。






 イズミを送り出した後、俺は縁側で酒を飲んでいた。


 あいつが産まれてからもう8年か。


 早いものだ。


「あなた。あの子は大丈夫でしょうか?」


 心配そうな顔をする家内。


「大丈夫だ。いざと言う時には、護りの小太刀があいつを護るだろう」


 ユウキ家に伝わる宝刀、護りの小太刀。


 それは、あらゆる災害から持ち主を護ると言われている。


 思えば、俺もアレに大分助けられたな。


「だから、大丈夫だ」


「・・・あなた」


 家内が、言いにくそうに話し掛けてくる。


 ん?


「護りの小太刀とは、まさか寝室に飾ってあるアレですか?」


「うむ。そうだが・・・」


「・・・アレ、今日の朝見ましたわよ? イズミを送り出す直前に・・・」


 ・・・。


 ・・・・・・。


 嫌な沈黙が場を支配する。


 俺は、目を閉じて小さく笑った。


「・・・大丈夫だっ!!」


「あなた!!」


 やっべ、汗が止まらん。どうしよう。マジでどうしよう。


 まぁ、あいつの事だ。


 何とか頑張るだろう。うん。


 何たって、俺の息子だ。


 今はそれよりも・・・。


「・・・あなた。ちょっとそこに正座してくださいな」


 この鬼をどうにかしなければっ!!


 命が危うい!!


 その後、6時間に渡って説教が続けられたのは、また別のお話。

・・・肝心の勇者はいつ出てくるんだろう。

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