番外編3 エンの街で
―これは、炎の魔石を手に入れた後のお話。
魔石を手に入れて街で一泊した勇者一行。
「そう言えばイズミとマッスルさんは、冒険者なんだよな?」
いきなりミアがそう言った事からこのお話は始まる。
「む? そうだが、いきなりどうしたのだ勇者よ」
「私も、ギルドに興味がある!」
一体何なのだろうか。
唐突過ぎる申し出に、お兄ちゃんはどうしたらいいか分からないよ。
「何? いきなりどうしたの」
「いやな? 今まで、食事とか宿代とか全部イズミが払っていたじゃないか」
うん。そうだね。
だってこの勇者様ってば、ほとんど金持ってなかったし。
さすがに、年頃の女の子を野宿させるのも・・・ねぇ?
「そこでだ。このままだと良くない。非常に良くないんだ。・・・いや、確かに楽なのは楽なんだけどな?」
本音漏れちゃってますよ勇者様。
「だから、私もお金を稼ごうかと思うんだ」
「しかし勇者よ。冒険者は、辛い事が多いぞ? ここは、酒屋の給仕でもやって小金を稼ぐのもいいのではないか?」
「給仕か~。それもいいかもしれないな」
何だかんだで乗り気になっているミア。
ギルドはどうしたギルドは。
しかし、ミアが給仕・・・ウェイトレスねぇ。
駄目だ。イメージが出来ない。悪い予感しかしない。
そうと決まれば酒場へ行こうと意気込むミアの肩を掴む。
「ちょっと待てミア」
「ん? どうしたんだイズミ」
「いや・・・。そう言えば、給仕の経験とかってあるのか?」
「無いぞ!」
胸を張って言われても・・・。
「じゃあ、練習して行こう。うん、それがいい」
「む。確かに、その方がいいのかもしれんな」
「そうか・・・?」
「そうだとも。よし、それじゃあ俺が客の役をするから、ミアは思いっきり練習してくれ」
「分かった!」
「ふははは。ならば我が採点してやろう!」
~勇者練習中・・・~
「ここが最近評判の酒場か~」
「いらっしゃいませ~。ご飯にしますか? それともパンにしますか?」
「何でいきなり何食うか聞いてるんだよ!」
「まっ、まさか、スープの方がいいのか・・・っ!?」
「ちっがーう! 何でそんなに深刻な顔するの!? スープに何かあんのか!?」
「むぅ。じゃあどうすればいいんだ?」
「客にそれを聞くなよ・・・。まずは、席に案内してだなぁ・・・」
「む、そうか! 席は・・・え~っと・・・。結構空いてるから、好きな所へどうぞ!」
「どうぞじゃねーよ、案内しろ!」
「難しいな・・・。え~っと、席はこちらになります」
「・・・まずは酒を下さい」
「こんな昼間から飲むなんて! 若いんだから働かないと駄目じゃないか!」
「駄目なのはてめーの方だよ! 何で説教してんの!? ここは酒場だからさぁ、基本酒飲む所だからさぁ!」
「そうか。何だ、賢いなお前! はっはっは!」
「何でそんなに仲良さそうに肩叩いて笑うんだ?」
「酒の他には、何かご注文は?」
「そうだな~。何かおすすめは?」
「鶏肉か牛肉か、どちらかになります」
「肉しかないのかよ・・・。じゃあ、鶏肉で」
「すみません。今、どちらも切らしてまして。魚しかありません」
「何で肉って言った!? 最初から魚って言えよ!」
「我が侭ばっかり言うと大きくなれないって、長老も言ってたぞ?」
「あ”~、もう! もういい! 帰るからな!」
「あっ、はい! お会計は2000ペリカになります!」
「何にも食ってねーだろうが!」
「む? たしか、こういう店では指名料というのが・・・」
「ねーよ! どっから出てきたその知識!」
~勇者練習終了~
「全然駄目じゃん」
「むぅ。結構いい感じだって思ったんだけどなぁ」
「我は嫌いではないぞ?」
結局、ギルドに行くことになったとさ。
「はい。これで登録完了です。今すぐ依頼を受けますか?」
ギルドにて。
ミアの登録を済ませて、簡単そうな依頼を受けてきた。
何でも、家の地下にある倉庫の片付けをして欲しいそうだ。
報酬は8000ペリカ。
まぁ、簡単な依頼だし最初だからこんなもんか。
「ここが依頼にあった家か」
意外と広い家だ。
「よし、たのも~!」
だから違う違う。
「おお、ギルドの方ですか?」
出てきたのは、壮年の男性。依頼人だろう。
「そうだぞ!」
「では、早速ですが始めてもらってもいいですか?」
「分かった!」
ズンズンと家の中に入るミア。
俺とマッスルさんも続く。
・・・ん?
「おいおいおいおいミアさんや」
「ん?」
「いや、ん? じゃ無くて。なに人の家の箪笥開けてんの?」
「まず家に入ったら、これをやるんじゃないのか?」
「冒険者の嗜みでは無いのか? 少年。・・・む、布の服」
だから、どっから持ってきたんだよその偏った知識!
しかもマッスルさんもか!
「いいから、早くその服仕舞え! 箪笥も閉めろ! いいか? 普通こういう事は常識として・・・くどくど」
「「むぅ」」
むぅ、じゃないの。ホラ、地下室行くぞ。
「いや、捗りました。ありがとう御座います」
依頼人に礼を言われて、ギルドへと戻る。
初めての依頼を達成したからなのか。心なしかミアの顔は明るい。
「はい。依頼達成ですね。ではこれが報酬となります」
「ありがとう!」
渡された8000ペリカを大事そうに袋に入れるミア。
多分、初めて自分で稼いだ金なんだろう。
思い出すな~。俺も初めて依頼を達成した時は・・・。
「さぁイズミ! 次だ!」
はい?
「む? 流石勇者。やる気一杯ではないか!」
見ると、ミアの手には次の依頼書が。
・・・え? 休憩とか無いの?
こうして感謝される事に味を占めたミアは、その日54000ペリカを稼ぎ上げたという・・・。
・・・そろそろ休ませて下さい。
久々の番外編。
炎の魔石入手からアークアに行くまでの間にあったお話になります。
そして恐らく次も番外編・・・。
本編は今しばらくお待ちください。