第十三話 勇者の使命
『ありがとう御座います!』
オーブを精霊に渡したら、しこたま感謝された。
「これがオーブか」
「石ころにしか見えんな」
確かに。
『ところがどっこい、このオーブは水で出来てるんですよ』
な、何だってー!
触ってみる。
・・・石ころじゃん。
『まぁ細かい事はいいじゃないですか』
流された。
「良かったな!」
『はい!』
ワイワイと喜び合う勇者と精霊。
感動して涙を流すマッスルさん。
何一つ着いていけない俺。
「さて、これで水の魔石も手に入ったな」
「うむ。あと二つか」
ミアの手の平で輝く二つの魔石。
これで、残すは土と風かな?
『土の魔石は知りませんけど、風の魔石ならウィンディにあると思いますよ』
ウィンディか。
「風の谷にある街だな」
地図を広げながら場所を確認するマッスルさん。
お前、いつから地図持ってた?
そういうのは先に出せよ。
「風の谷かぁ。何だかワクワクするな!」
地図を見ながらワクテカするミア。
『外は夜ですし、ここで一夜を明かせばいいと思いますよ』
「そうだな」
「ふむ。では準備するとしよう」
道具袋の中からテントを取り出して準備を始めるマッスルさん。
ミアはミアで、食料の準備をしている。
『おぉ~。コレが野宿というやつですか。テンション上がりますね~』
精霊・・・最初のキャラはどこ行った?
各々が好き勝手に行動する食後。
ミアは精霊と話し、マッスルさんは剣を振っていた。
「頑張るね~、マッスルさん」
「む、少年。今は話しかけないでくれ。我は集中しているのでな」
真剣に素振りを続けるマッスルさん。
おぉ、マッスルさんってこんな人だったか?
しかし手持ち無沙汰だ。何か面白い事は・・・。
ふと足元に目を向ける。
おや? こんな所に手頃な大きさの石ころが。
果たして、集中して素振りを続けるマッスルさんは飛んでくる石ころの気配を察知出来るのか。
湧き上がる好奇心。もう誰にも止められない。
「ピッチャー第一球、振りかぶって~・・・」
目標はマッスルさんの後頭部。
大丈夫。彼は腕の立つ冒険者だ。きっと気付くはずさ。
ブンッ!
ヒュー・・・。
「む、気配・・・! 恐らくこれは半漁人が我を狙っているに違いない。そこかっ!」
見当違いの方向に剣を振るマッスルさん。
非常に惜しかった。
頭を抱えて蹲るマッスルさん。
「おのれ半漁人め・・・。この我に一撃を入れるとは!」
怒って、洞窟の奥へと消えていく筋肉達磨。
何の罪もない半漁人を倒しに行くなんて、何て外道な・・・っ!
「イズミ、何してるんだ?」
「いや、バカを見送ってた」
「?」
可愛らしく小首を傾げるミア。
『魔法使い様も、こっちでお話しませんか?』
精霊に誘われるままに近くの岩に腰掛ける。
『それで、勇者様はどうして魔王退治を?』
「うん。それはだな、私がかつて魔王を封印した勇者の末裔だからだ」
・・・それだけ?
「? そうだぞ?」
それがどうしたとばかりに、眉を寄せるミア。
『いえいえ。何か重大な事があったのかと思ってましたんで』
「む? 重大じゃないか。今まで大して役に立っていなかった私が、やっと誰かの役に立てるんだ。長老も私にしか出来ないって言ってたからな」
何か胡散臭いのは気のせいだろうか。
「いやぁ、私が勇者の末裔だって言われた時は嬉しかったな~。魔王を倒す事が私の使命だ!」
誇らしげに胸を張るミア。
『へ~。そうだったんですね~』
ユラユラと揺れる精霊。
勇者の末裔だから、か。
「じゃあさ、魔王って何だ?」
「それは、私も知らない。でも、封印されてたんだ。きっと悪い奴に違いない!」
・・・何かが引っかかるな~。
『さて、そろそろ夜も遅いですし、寝ますか?』
「ん? そうだな。イズミも早く寝なくちゃ駄目だからな」
言って、テントへと入っていくミア。
さて、俺も寝るか。
・・・そう言えば、マッスルさん帰ってこないな。
翌朝。
『行ってらっしゃいませ~』
精霊に見送られて、俺達は洞窟を出る。
ちなみに、マッスルさんは途中で力尽きたのか洞窟の途中で寝ていた。
「むぅ。途中まではいい感じだったのだが・・・」
言えやしない。
あの石ころは俺が投げた物なんて、言えやしない・・・。
「さぁ、次は風の谷だな!」
勢いよく歩き出すミア。
地図で見ると、結構な距離があるな。
「ふははは! 行くぞ!」
先頭に立って歩き出すマッスルさん。
意外と元気だな。
でも、これで残りの魔石は二つだ。
もう少しでヤマに帰れるぜヒャッハー!
どんどんキャラが崩壊する水の精霊・・・。
さて、ちらっと出てきました勇者のお話。
これからどうなって行くのか。
それは作者にも分かりませんw