第九話 水の都へ向かう道
炎の魔石を手に入れたあの後。
今、俺達はエンを出て街道を歩いていた。
~回想~
『マッスルさん! 仲間になってくれないか!?』
『む? いきなりどうしたと言うのだ少女よ』
『実は、カクカクシカジカ、うんぬんかんぬん・・・』
『何と!? 少女は勇者であったか!?』
『そうなんだ!!』
『ふははは! 良かろう! 世話になった分、我が全力で手助けしよう!!』
~回想終了~
そんな感じで、今勇者一行にはマッスルさんが同行している。
勇者の刻印を嬉々として受け入れていたマッスルさん。
マゾとしか思えない。ん? と言うことはアレか?
「勇者よ。次はどこへ行くのだ?」
まさかのマッスルさん受け疑惑を深めている中、当のマッスルさんがミアに訊ねる。
・・・確かに。
この後どうするつもりなんだろう。
「うん。炎の魔石は手に入れたから、次は水の魔石だな」
炎の次は水ですか。
面倒くさい。この旅は何時まで続くんだろう・・・。
「水の魔石というぐらいだから、水の都にあると思うんだ」
お~い。いいのかそんな適当で。
「ふむ。水の都と言うとアークアだな。湖の中央に浮かぶ、観光名所として有名な街だ」
意外と物知りなマッスルさん。
確かに、アークアってそんな街だった気がする。
「アークアに行くとすると、途中にある森を抜けなければな」
「森かぁ。何だかワクワクするな!」
「ふははは! そうだな勇者に少年よ!」
まだ見ぬ森にワクワクするミア。
マッスルさんに後ろに付かれガクブルする俺。
テラコワス。
「ぬ? どうしたのだ少年?」
まだマッスルさんのガチムチ疑惑が晴れた訳ではない。
気を付けねば・・・。
「凄いなイズミ! 凄いな!」
街道を進み、アークアに向かう為森に入った俺達。
始めて見るのか、ミアのテンションはウナギ登りだ。
「ふははは! きのこだ!!」
脇に生えていたキノコを手に取り笑うマッスルさん。
いくら何でもテンション高すぎだろう。
「旨そうだな!」
ハイテンションのまま、マッスルさんの持つキノコを奪い取るミア。
先の展開がこれ程読めるのも珍しい。が、意外と素早いミアを止める事は出来ない。
きっと勇者の素早さはカンストしてる。
奪い取ったキノコを齧るミア。
「もぐもぐ・・・。ぐはぁっ!!」
キノコを咀嚼し、血を吐くミア。
迂闊過ぎだよ勇者様・・・。
「ど、どどど、どうすれば良いのだ!?」
ワタワタと慌てるマッスルさん。
「お、落ち着け我。こういう時は落ち着いて、道具袋から毒消し草を出して・・・。む、苦い」
お前が食ってどーすんだよ!!
全然落ち着いてねーじゃねーか!!
「わ、私を置いて、イズミとマッスルさんは・・・魔王をっ!」
旅の序盤でまさかの勇者離脱フラグ。
あと、その台詞は魔王戦で言うべきだと思う。
「どうするのだ少年!?」
「まぁ落ち着けけけけけ」
ガクガクと肩を揺らすマッスルさん。
首が、首が。
マッスルさんを引き離し、道具袋から毒消し草を取り出す。
「面倒だから全部入れよう」
手持ちの毒消し草全部をミアの口に押し込む。
「もが・・・もがもが・・・!」
「ホラ食えさぁ食え全部食え!」
楽しそうだって?
だって楽しいからな!
「もっきゅもっきゅ・・・苦い」
毒消し草を食べて、復活するミア。
「おお勇者よ! 無事だったか!」
涙を流して喜ぶマッスルさん。
こいつ等に森を抜ける気あるんだろうか・・・。
「おぉ~」
あれからマッスルさんが同じ様に毒キノコを食ったりもしたが、俺達は何とか森を抜けた。
ちなみに、マッスルさんはミア手持ちの毒消し草で回復させた。
特に戦闘も無く、ただ森を抜けるだけで手持ちの毒消し草を全部消費するなんて・・・。
「綺麗だ・・・」
毒消し草消滅の原因その一が、目の前に広がる湖を見てボーっとしている。
「ふははは! あれがアークアだ!!」
毒消し草消滅の原因その二が指差す先。
確かに、湖の上に街がある。
「よし! こんなに綺麗な湖なんだ! 泳いで行こう!」
そして予想の斜め上な事を言う勇者ミア。
目の前に石橋があるのというにこれ如何に?
「ふははは! どちらがアークアに先に着くか競争だ!」
「負けないぞ!」
鎧を着たまま湖に飛び込む二人。
ざっぱーん!
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・はっ!
いかんいかん。あまりの出来事にちょっと意識が飛んでたみたいだ。
『『ふははははは!』』
凄い勢いで遠ざかって行く二人。
鎧を着たまま、どうやって泳いでるんだろう。
まぁいいや。俺は橋を渡っていこう。
『侵入者だ!』
『指名手配の侵入者か!?』
遠くで声が聞こえる。
『私の勝ちだな! ん?』
『ふははは! さすが勇者だ! む?』
何をするにもトラブルを生まないと気が済まないのか、あの勇者は。
「・・・どうしよう。逃げようかな・・・。でも刻印あるしなぁ・・・」
そして俺は、重い足取りでアークアへと向かうのであった。
少し短い第九話。
石橋は叩いて渡らずに避けて通る。
それが勇者クオリティー。