第八話 盗賊退治・後編
薄暗い洞窟の中を慎重に進み、少し広い空間に出る勇者一行。
もうそろそろアジトの中央ぐらいかな?
いつ盗賊と遭遇するかも分からない。
慎重に行かねば。
「宝を返せー!!」
「ふははは!! どこからでも掛かってくるがいい!!」
おぉーい。
言ったじゃん。
進む前に慎重に行こうって言ったじゃん。
バカ二人の声に、何だ何だと出てくる盗賊達。
「んだコラァッ!!」
「誰だテメェ等!!」
「でやぁっ!!」
「うおおぉ!!」
出てきた瞬間に問答無用で斬りかかる二人。
「え? ちょ・・・!」
「うおっ!? 何!?」
何が何だか分からないままに倒されていく盗賊達。
俺も何が何だか分からないよ。
しばらくすると、全て倒されている盗賊達。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「くっ・・・ごほっ・・・!」
そして満身創痍なミアとマッスルさん。
そんなに苦戦してる感じじゃ無かったよね?
勝手に限界バトル叩きつけて傷付いたバカ×2は、薬草を食べて回復している。
「おおっ、何じゃこりゃあ!?」
と、奥から出てくる大柄な男。
そりゃ驚くだろうよ。
倒れてピクピクしてる盗賊に囲まれて、薬草をモキュモキュしてる美少女とムキムキのオッサン。
非常にシュールである。
「・・・ゴクン。お前が、盗賊のボスか?」
薬草を飲み込んで訊ねるミア。
目に見えて回復してるのがすげぇ。
「お、おおよ・・・」
若干腰が引けてるボス。
インパクトはバッチリだったようだ。
「ふははは! とある方からの依頼でな! 盗賊退治に来た!」
「盗んだ物を返せ!!」
剣をボスに向ける二人。
「くっ! しゃらくせぇ!!」
斧を取り出して構えるボス。
完全に三人の空間になってるなー。帰ってもいいかなー?
「返すつもりは無いか」
「出来れば、話し合いで決着を着けたかったが・・・」
いきなり盗賊達をボコボコにしておいて、どの口がそれを言うのか。
「仕方無い。・・・イズミ!!」
・・・ん? 俺?
「2対1は卑怯だからな」
グイグイと俺を押し出すマッスルさん。
「何だぁ? この細い兄ちゃんはよぉ?」
いや、何なんでしょうね?
「さぁイズミ。一思いにやってやれ」
「薬草は準備しておく。我の優しさに感謝するがいい」
後ろに下がって観戦モードの二人。
あれ? 涙が出てきた・・・。
「何だ・・・その・・・。頑張れよ・・・」
「ありがとう・・・」
ボスの優しさが心に染みる。
「でも、まぁ何だ。これだけコケにされたら、こっちも引く訳にはいかねぇからよ」
「はぁ・・・」
「っつー訳だ。死ねええぇっ!!」
斧を振りかぶって斬りかかるボス。
あ、結局こうなるのね。
「渦巻け、ウィンド・サークル」
「うおぉ!?」
魔法によって生まれた風の壁が、ボスの斧を逸らす。
テキパキと行こう。そろそろ宿屋で休みたい。
「押し潰せ、エア・プレッシャー」
「うおぉぉぉ!?」
上から圧し掛かる風圧に、這い蹲るボス。
「で、盗んだ物返してくれる?」
「ふ、ふざけんな・・・」
イライラ。
「ふーん」
「ぐおおぉぉぉ!?」
圧力を高くする。
地面にめり込むボス。
「お、お、奥の部屋に・・・! 盗んだ物なら、奥の部屋にいいぃぃぃっ!!」
よし。
「縄無い? 縄」
「む? 縄ならここにあるぞ」
魔法を解除し、ボスを縛る。
さあ、物取り返して帰るとしようや。
「こっちかな? それともこっちかな? こっちのほうがいいかな?」
もう少しで街に帰れるとだけあって、テンションが高い俺。
「む? これか・・・」
何かを見つけるマッスルさん。
「何だ、それ?」
マッスルさんが持っているのは、輝く金の卵。
本当に何だコレ。
「うむ。長老からの依頼は二つあってな。一つは盗賊退治。もう一つは、長老の弟が盗賊から奪われた家宝を取り戻してくれと・・・」
ん? んん?
「なぁなぁミアさんや」
「うん?」
「確か、あの爺ちゃんって家宝がどうとか言って無かった?」
「言ってたな」
つまり。
「あの爺ちゃんって、長老の弟だったんじゃね?」
「・・・な、何だってー!?」
街に戻ってギルドに報告。
やってきたのは、盗賊に襲われた爺ちゃんと知らない爺ちゃん。
襲われた爺ちゃん・・・長老の弟さんにしこたま感謝された。
「おお、ありがとう御座いますじゃ」
言えない。
勘違いで家宝を取り戻しに行ったなんて言えやしない。
「ふははは! 何、我らに掛かればこんなものよ!」
報酬を受け取ったマッスルさんが笑いながら会話に参加する。
・・・おや? その手に持っている、赤いキラキラした石は何ですか?
「む? 報酬だが?」
「それは、炎の魔石と言ってのう。数あるコレクションの内の一つじゃ」
サラリと言う長老。
何ですと?
「少年! これは手助けしてくれた礼だ!」
そう言って、魔石を渡してくるマッスルさん。
えらく太っ腹だ。
「いいのか!?」
おずおずとマッスルさんを窺うミア。
「うむ。報酬金は別で頂いたからな。なに、気にする事はない! ふははは!」
腕を組んで笑うマッスルさん。何? このイケメン。
でもまぁ、何だ。結果オーライと言うか何と言うか。
こうして、俺達は炎の魔石を手に入れた。
はい、全部勘違いでした。
人の話は最後まで聞きましょう。
これはそんなお話。