第七話 盗賊退治・中編
「ふははは! 久しいな少年!」
バンバンと背中を叩いてくるマッスルさん。痛いです。
「何だイズミ。知り合いなのか?」
袖を引きながら聞いてくるミア。
ええい掴むな。俺は急いで尻を隠さねばらなんのだ。
「少女よ。あれは5年前だったか。少年と我は、共にギルドの依頼を達成するため獰猛なトロールと戦った仲なのだ」
そんな事もあった気がする。
主に戦ったのは俺だけだったけど。
しかし、今更そんな事を掘り返す俺ではない。
ミアはキラキラした目でマッスルさんを見上げている。
この状況で掘り返せば、掘り返される可能性がある。
何がって? 言わせんな恐ろしい。
「で、オッサンは何でここに居るの。あの小太りとヒョロいのは?」
「あ奴らとは、あの依頼の後に別れた。真っ先に逃げ出す者など、我のパーティーに相応しくないからな!」
いやいや。
真っ先に逃げ出そうとして失敗した奴が何を言うか。
「それと、我はオッサンではない。ファイタル・マッスルという名前がある」
そう言えば名前を聞いてなかった。
ってか、マッスルさんで合ってるじゃん。適当だったのに。
「それで、マッスルさんはどうしてここに居るんだ?」
小首を傾げながら訊ねるミア。
「ふむ。いや何。我は依頼でここに来ているのでな」
そりゃそうだろう。
マッスルさんは冒険者だ。
「依頼?」
「うむ。エンの長老からの依頼でな。盗賊退治だ」
何と。
マッスルさんも長老の依頼を受けていたのか。
・・・ん? 何か、そこはかとなく違和感を感じる。
「そうか! 私達も長老に頼まれて、盗賊退治に行く途中なんだ!」
「む? では長老は、少女にも個人的に依頼をしたという訳か」
「目的は一緒だな!」
「ふはははは! よろしく頼むぞ!」
やんややんやと言いながら、意気投合している勇者とマッスルさん。
―ふはははは!
―は~っはっはっは!
あ・・・、何か胃が痛い・・・。
「おっ? イズミイズミ~!」
三人で進む事数十分。
そろそろ中腹辺りかなと考えていると、先を行くミアが手招き。
何だ何だ?
岩陰から何かを覗き込んでるミアとマッスルさん。
「む? あれがアジトではないか?」
一緒に岩陰から顔を出すと、確かに。
怪しい洞窟がある。
入り口には、見張りの盗賊が。
間違いない。
「よし、行こう!」
我らが勇者様は、剣を抜いて飛び出ようとする。
「待て待て待て」
肩を掴んで止める。
「イズミ! 何で止めるんだ!?」
「そうだぞ少年!」
マッスルさん、お前もか。
「いいか? 良く聞け脳筋共。見張りに仲間呼ばれたら面倒だし、ここは慎重に行く方が・・・」
「分かった!」
最後まで聞かずに飛び出るミア。
何も聞いてねー!!
『あの~・・・』
見張りに話しかけるミア。抜いた剣は背中に隠している。
非常に心配だ。岩陰から様子を伺う。
「む、むむむ・・・(ソワソワ)」
そしてマッスルさんは落ち着け。
『何だぁっ!?』
『ここって、盗賊さんのアジトですか?』
勇者はいつでも直球勝負である。
『だったら何だってんだ? あぁんっ!?』
『フンッ!!』
凄む見張りの鳩尾に、グーパンチを入れるミア。
剣使え剣。何の為に抜いてるんだよ。
崩れ落ちる見張り。
勇者は素手の方が強いのかもしれない。
「流石だな少女!」
ふはははと笑いながら、岩陰から出て行くマッスルさん。
「ふふん」
それ程豊かでもない胸を張って威張るミア。
もうね・・・何かね・・・。いや、もうどーでもいいや。
「この奥だな」
剣を抜きながら、洞窟の奥を見据えるマッスルさん。
「とりあえず、入る前に回復しておこう」
いそいそと道具袋から薬草を取り出すミア。
モッキュモッキュ←回復中
傷口に擦り込む為の薬草を、口一杯に頬張りながら回復していく二人。
シュールだ。
「ふぃふみも、ふぉふぁ」
何かを言いながら、薬草を差し出してくるミア。
飲み込んでから喋りなさい。
「俺は怪我してないから」
「ふぉふふぁ」
いそいそと薬草を仕舞うミア。
「ゲ~ップ。よし、では我が先頭を進む。遅れるなよ!?」
「モッキュモッキュ・・・ゴクリ。よし、行こう!」
薬草を飲み込んで進む二人。
こんな下品な薬草の使い方、初めて見た・・・。
薬草は、用法用量を守って正しくお使い下さい。
決して食べ物ではありません。