伯爵令嬢バーバラの婚約
異世界に転生して、伯爵令嬢バーバラとして育った。婚約者のポールとはもうすぐ結婚する予定だった。
なのに、ある日社交パーティへ行ったら、婚約者のポールがめちゃくちゃ酔っ払っていた。そして、ポールは他女性にアプローチし始めた。
「好みの女の子達がいっぱいいますねえ。ああ、浮気したくてたまりません。バーバラ様は綺麗系の大人びた美人ですけれど、幼く見えるようなかわいさが足りないんですよ。ですから、バーバラ様は俺の好みに合わないんですよねえ」
ポールはそんなことを言っていた。どうしよう。
正直言って、今すぐポールを見捨てたい。でも、私はポールの婚約者だから、ポールが恥をかかないよう庇う必要がある。
「ポール様はご冗談がお上手ですね。もしよろしければ、こちらへいらしてください。バルコニーで夜風に当たりながらお話ししましょう」
私はそのように言って、ポールを誘った。ポールの失言をジョークだと、周囲に思わせなければならないし。ポールがこれ以上醜態をさらさないように、人目のつかない場所へ移動させないといけない。
「バーバラ様は嫉妬しているんですかあ。男の浮気を許せない女なんて、全然かわいくないですねえ。女は男に尽くすべきですよお。ああもう、バーバラ様との婚約なんて破棄します。どっかへ行ってください」
ポールが面倒くさそうに言ってくる。ポールがそこまで言うなら、私はポールを止めない方がいいのかな。
「かしこまりました。失礼いたします」
そう言って、私は立ち去ろうとした。すると、なぜかポールが激怒し始めた。
「バーバラ様、なんで離れるんですかっ。お前は他の男と浮気するつもりなんですね。そうなんでしょうっ。ああもう、こんなクソ婚約者のバーバラ様なんか死んでしまえばいいのに」
ポールが訳の分からないことを言ってくる。あのさあ。ポールが私にどっか行けって言ったんじゃん。私はどうすればいいんだよ。酔っ払いの相手は面倒だな。
「ポール様、私はどこかへ行けばいいのでしょうか。それとも、ここにいた方がいいのでしょうか。どちらにすればいいのか教えていただけませんか」
困りきって、私は質問してみる。すると、ポールは更に怒り出した。
「そんなことも分からないんですか。女のくせに論理的な質問をしようとしている様子が、心底気持ち悪いですね。自分で考えてくださいよ。このクズ女ッ」
ポールはそんなことを言いつつ、ワイングラスで殴ってきた。甲高い音が鳴り響き、グラスが割れる。
殴られた頭が痛い。でも、それよりも怪我が怖い。脳にダメージが入っていそうだし。ガラス片が目に入っていないか、肌は傷ついていないか心配だ。
正直言って怖すぎる。今すぐ逃げたい。
でも、自分はポールの婚約者だから、逃亡したら外聞がよくない。どうしよう。
「ポール様、申し訳ございません。私が悪かったので、どうか落ち着いてください」
謝罪して責任を被ることは、あまりいい手段とは思えない。しかし、婚約者であるポールを立てるには、私が悪女だったというストーリーを作るしかない。
「ふん。バーバラ様が悪いと、今更認めましたか。バーバラ様は女だから感情的で、すぐ謝ることもできなかったんですね。そんなバカ女のバーバラ様なんか許すわけないでしょう。バーバラ様の顔なんてもう見たくありません」
ポールがそう言って、割れたワイングラスを振り上げた。あのグラスでまた殴られたら、今度こそ私は大怪我をしてしまう。さすがに怖い。
私は頑張って逃げ出そうとした。でも、ヒールのあるパンプスだから走りにくい。やばい。
「おやめください。バーバラ様はしっかり話しているじゃないですか」
不意に、他の男性が割って入ってくれた。それはジェフという方だった。公爵家の方だ。
ジェフの姿を見て、ポールはさすがに酔いが覚めたらしかった。ポールが頭を下げ始める。
「ジェフ様、申し訳ございませんでした。婚約者のバーバラ様を躾けていたのです。でも、公共の場で行うことではございませんでした。ご迷惑をおかけしました」
ポールが謝罪しつつ、私に責任をこすりつけてくる。分かったよ、私が泥を被ればいいんだろう。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません」
私はとにかく謝った。ジェフにも、他貴族やパーティ主催にも謝罪した。
後日、ポールとその侯爵家から正式に婚約破棄された。ちなみに、ポールはこう言った。
「この前の社交パーティの件は、バーバラ様が全部悪かったんです。バーバラ様のせいで俺は恥をかきました。バーバラ様との婚約は願い下げです。俺にはもっといい女がいるはずですから」
というわけで、ポールとは他人になったわけだけれど。正直言って安心した。だって、あのままポールと結婚していたら、私はポールに殺されていたかもしれない。
ちなみに、他貴族達は私よりも、ポールが悪かったと判断してくれたらしい。よかった。
「ポール様が多くの女性を口説いていますけれど、全部断られているらしいですわ。当然ですわよね。だって、ポール様と結婚して、暴言暴力を振るわれたい女性なんかいませんわ。バーバラお姉様に大怪我がなくて、本当に幸運でした」
私の妹はそんなことを教えてくれた。心配してくれて嬉しい。
しばらくして、ポールはうちに押しかけてきた。ポールは私に向かってこう言った。
「俺ともう一度婚約する権利を、バーバラ様に与えます。さあ、結婚に向けて早く準備してください」
ポールは上から目線で言ってきた。あのさ。普通に嫌なんだけど。
「お断りさせていただきます」
私はきっぱりと言った。するとポールはお酒も飲んでいないのに、私に対して暴力を振るおうとしてきた。けれど、使用人達がポールを止めてくれた。
「バーバラ様は女のくせに生意気ですっ。しかも、俺の元婚約者のくせにっ。俺の所有物であるバーバラ様が逆らうなんて、絶対許しませんっ」
ポールはそんなことを言っていたけれど、そのまま強制的にお帰りいただいた。ポールともう関わりたくない。
そのあと、ポールから手紙が何度かきたので、お断りのお返事を書いた。無視することも考えたけれど、ポールは一応貴族なので、最低限の礼儀を尽くさなければならない。
私がポールとよりを戻すつもりはないと、他貴族達にも伝わったらしい。私は他貴族達からお見合いの提案をされるようになってきた。
「バーバラお姉様っ。公爵家のジェフ様からもお見合いの申し出があったそうじゃないですか。ぜひとも受けるべきですっ。バーバラお姉様がポール様に攻撃されたとき、ジェフ様が庇ってくださったと聞いております。ジェフ様は絶対いい方ですわっ」
妹もそう言ってくれるので、ジェフはかなり優しい人なのだろう。多分。
「ありがとうございます。確かにジェフ様は素敵な方でしたね。ジェフ様のお見合いを受けてみようと思います」
私はそう言って、両親にも提案してみた。反対する意見はなかったため、私はジェフとお見合いを行うことにした。
「ポール様が暴れても冷静に対処するバーバラ様のお姿は、とても素晴らしいものでした。ですから、僕は惚れてしまったのです。バーバラ様のことを幸せにするので、どうか結婚してください」
ジェフはとても優しい声で言ってきた。ポールとは大違いだ。
「あのときは本当にありがとうございました。私もジェフ様と結婚したいと思っています」
私はそう返事をした。両親同士の話もまとまり、結婚までスムーズに進んでいった。
結婚生活が始まっても、ジェフは声を荒げることも、殴ってくることもなかった。すごく穏やかな毎日で、とっても幸せだった。




