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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高梨 梛
第3章 落ち葉の足音
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第9話 落ち葉が教えてくれてこと

翌朝。

恭介は早く目が覚めた。

昨夜の細道での“あの音”が、頭の中で何度も反芻されている。

カサ……


カサ……

布団の中で目を開けたまま、しばらく動けなかった。


(押していた……あの音は……)


確かにそう思った。

だが、それだけではまだ足りない。

何を押していたのか。

どうやって。

なぜ足跡が残らないのか。

考えれば考えるほど霧が濃くなる。

恭介はため息をつき、布団を跳ね上げた。


「……分かりそうで分からん」


部屋の窓を開けると、冷たい朝の空気が流れ込んだ。

庭の木から、落ち葉が一枚ひらりと落ちる。


カサ…


その音に、恭介の心がまたざわついた。


(あの夜の音と……何が違う?)


違いは確かにある。

だが言葉にならない。

指先で掴めそうで、すり抜けていく。

恭介は頭をかきながら屋敷を出た。

細道へ向かう足取りは、いつもより少し早い。


(もう一度、確かめるしかない)


昨夜の音。

落ち葉の厚み。

二本の線。

そして――押された何か。

すべてが、あと一歩で繋がりそうだった。



古道具屋の裏の細道。

街灯の光が落ち葉を照らしている。

恭介は腕を組んで立っていた。

その足元でヴァレリーが座っている。


「……つまり」


恭介が言った。


「台車か」


ヴァレリーが頷く。


「その通りだ」


恭介は地面を見る。

落ち葉の下。

薄く残る跡。

平行な線。


二本。


「最初は分からなかった」


恭介は言う。


「でも」


落ち葉を足で払う。


「この跡」


はっきり見える。

二本線。


「台車の車輪」


ヴァレリーが続ける。


「そして落ち葉だ」


恭介が頷く。


「普通なら台車はスーッと進む」


「でも」


足元の落ち葉を見る。

厚い。


「ここは違う」


ヴァレリーが言った。


「落ち葉が邪魔をする」


恭介の頭の中に音が蘇る。


カサ……


カサ……


ヴァレリーが説明する。


「押す」


「止まる」


「また押す」


「だから」


恭介が言う。


「音が途切れる」


ヴァレリーが頷く。


「その結果」


静かに言う。


「カサ……」


少し間を置く。


「カサ……」


恭介は息を吐いた。


「なるほどな」


沈黙。


細道の奥に古道具屋の裏口が見える。

恭介がゆっくり言った。


「つまり……」


ヴァレリーが続ける。


「この道を台車で通った人物」


小さな間。


「古道具屋の店主だ」


恭介が頷く。


「保険金か」


「そうだ」


ヴァレリーは言った。


「店の中身を運び出した後、盗難事件として扱われれば…店主は保険金を手に入れることになる」


恭介はしばらく黙っていた。

そして地面を見る。

落ち葉が揺れる。


カサ……


「証拠を消したつもりだったんだろうな」


ヴァレリーが言う。


「だが」


黒猫の金色の瞳が細くなる。

落ち葉が風で揺れた。


「証人が残った」


恭介が聞く。


「証人?」


ヴァレリーは言った。

静かに。

はっきりと。


「落ち葉だ」


風が吹く。


カサ……


落ち葉が鳴った。

恭介は小さく笑った。


「なるほど」


空を見上げる。

秋の夜空。

そして言った。


「落ち葉が証人か」


ヴァレリーが鍵尻尾を揺らす。


「だから問題はない」


ヴァレリーは言った。


「真実は」


落ち葉を見る。


「ちゃんと音を立てる」

明日12時30分に第3章の最終話を投稿し、いつもの17時50分にエピローグを投稿させていただきます。

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