第8話 ヴァレリーと家令
庭の木から、落ち葉が一枚落ちた。
カサ…
テラス置かれた白いテーブルと椅子。
そこに藤堂が座っていた。
ティーカップから湯気が立っている。
足音もなく、黒い影が現れた。
ヴァレリーだった。
藤堂は視線だけを向ける。
「お戻りですか、ヴァレリー様」
猫は答えない。
白い椅子に軽く飛び乗った。
しばらく沈黙。
落ち葉がまた一枚落ちる。
カサ…
藤堂が静かに言った。
「興味深い音ですね」
ヴァレリーの耳がわずかに動く。
「人間には分からない」
「でしょうね」
藤堂は紅茶を一口飲む。
「ですが、私にも少し聞こえました」
ヴァレリーの金色の目が細くなる。
「ほう」
「台車の音でしょう」
少し間。
ヴァレリーが尻尾をゆっくり振る。
「気づいていたか」
藤堂は穏やかに笑う。
「昔の癖でして」
風が吹く。
落ち葉が転がる。
カサ…
藤堂が言う。
「恭介様はまだお気づきではないようですね」
ヴァレリーは鼻を鳴らした。
「鈍い」
「若い方は皆そうです」
「違う」
ヴァレリーは空を見上げた。
「人間が鈍い」
藤堂は否定しない。
「なるほど」
沈黙。
藤堂が静かに続ける。
「ですが」
「?」
「恭介様は良い方です」
ヴァレリーは横目で見る。
「知っている」
「それは安心しました」
藤堂はティーカップを置いた。
「では、少しだけ手助けしましょうか」
ヴァレリーの尻尾が止まる。
「余計なことはするな」
藤堂は笑った。
「ヒント程度です」
ヴァレリーは小さくため息をついた。
「好きにしろ」
それから言う。
「どうせ最後は私が教える」
藤堂は深くうなずいた。
「ええ」
「それが一番美しい」
落ち葉がもう一枚落ちた。
カサ…
ヴァレリーが小さく言う。
「だから問題はない」
藤堂は静かに答えた。
「ええ。問題ありません」




