第7話 恭介の気づき
夕方。
古道具屋の裏の細道は、相変わらず静かだった。
両側の塀に挟まれた細い道。
古い板塀にはところどころ苔が生え、秋の湿った匂いが漂っている。
地面は落ち葉で覆われていた。
色の抜けた茶色や、まだ赤みの残る葉が重なり合い、柔らかな絨毯のようになっている。
恭介はゆっくり歩いた。
カサカサ。
カサカサ。
靴の下で葉が砕ける。
乾いた音が、細道に小さく響いた。
秋の匂いがする。
遠くで商店街のシャッターが閉まる音がしたが、この細道までは届かない。
「……やっぱりな」
恭介は呟いた。
足元を見る。
落ち葉は厚い。
少し歩くだけで、音が鳴る。
カサカサ。
カサカサ。
踏むたびに、葉が擦れ合い、細かな音が連なる。
こんな場所を夜中に歩けば、静かな道では目立つはずだ。
その時。
足元の黒猫が言った。
「違う」
恭介が止まる。
「何が?」
ヴァレリーは細道の奥を見ていた。
金色の目が、薄暗い道を静かに見つめている。
「この音ではない」
「は?」
恭介は首をかしげる。
ヴァレリーは続けた。
「あの夜の音だ」
恭介の眉が動く。
「あの夜?」
「お前も聞いただろう」
静かな声。
「カサ……」
少し間を置いて
「カサ……」
恭介は思い出す。
夜。
この道。
確かに音がした。
静まり返った裏道に、落ち葉を踏む音が響いた。
だが——
「……あれ?」
恭介の目が細くなる。
記憶の中の音が、どこか引っかかる。
「カサカサじゃない」
ヴァレリーが尻尾を揺らす。
「そうだ」
恭介は落ち葉を踏む。
カサカサ。
カサカサ。
「歩いたらこうなる」
もう一歩。
カサカサ。
乾いた音が連続して続く。
普通なら、こうなるはずだ。
だが。
あの夜の音は違った。
カサ……
(間)
カサ……
途切れていた。
まるで、誰かが途中で立ち止まりながら進んでいるような――
恭介の呼吸が止まる。
「……待てよ」
ヴァレリーが言う。
「どうした」
恭介の視線が地面をなぞる。
落ち葉。
細道。
あの音。
頭の中で、夜の裏道が再び浮かび上がる。
静かな闇。
落ち葉の上を進む何か。
「これ」
小さく呟く。
「歩いてない」
ヴァレリーの瞳が光る。
恭介の頭の中で何かが繋がった。
「カサカサじゃない」
「カサ……」
「止まる」
「またカサ……」
恭介はゆっくり顔を上げた。
「……押してる」
ヴァレリーが静かに言う。
「ようやくか」
恭介は細道の奥を見る。
あの夜。
誰かがここを通った。
でも。
歩いてはいない。
何かを前に押しながら進んでいた。
落ち葉に阻まれ、少し進んでは止まり、また押す。
だから音が途切れる。
「じゃあ」
恭介の声が低くなる。
「何を押してたんだ?」
ヴァレリーは答えない。
ただ地面を見る。
落ち葉の下を、視線がゆっくりなぞる。
そこには——
うっすら残る
二本の線。




