第5話 落ち葉の道
古道具屋「秋山堂」の裏には、細い道がある。
商店街の建物の裏側を通る、ほとんど人の通らない道だ。
地面には落ち葉が厚く積もっていた。
赤や茶色の葉が、道を覆っている。
恭介はそれを見て言った。
「ここ、掃除してないんだな」
ヴァレリーは答えない。
ただ耳を動かしている。
恭介は一歩踏み出した。
カサカサカサ。
乾いた音が鳴る。
もう一歩。
カサカサカサ。
恭介は肩をすくめた。
「普通の落ち葉の音だな」
ヴァレリーは道の真ん中で止まった。
そして言う。
「違う」
恭介が振り向く。
「何が?」
ヴァレリーは落ち葉を見ていた。
「あの音とは違う」
恭介は首をかしげる。
「音?」
ヴァレリーはゆっくり歩いた。
前足が落ち葉に触れる。
カサ。
小さな音。
「人が歩けば」
ヴァレリーは言う。
「こう鳴る」
恭介が歩く。
カサカサカサ。
続く音。
軽い音。
しかしヴァレリーは首を横に振った。
「あの夜は違った」
「どう違うんだ?」
ヴァレリーは少し考えてから言った。
「間だ」
「間?」
「音と音の間隔が長かった」
恭介は試しにゆっくり歩いてみた。
カサ……
カサ……
「こう?」
ヴァレリーは首を振る。
「まだ違う」
「え?」
「もっと止まっていた」
恭介はさらにゆっくり歩く。
カサ……
間が空く。
カサ……
ヴァレリーの尻尾がゆっくり揺れた。
「近い」
恭介は立ち止まる。
「なんだそれ。変な歩き方だな」
ヴァレリーは道の奥を見る。
落ち葉の道は古道具屋の裏口へ続いている。
その先は商店街の通りだ。
風が吹いた。
落ち葉が転がる。
カサ……
カサ……
恭介は腕を組んだ。
「でもさ」
首を傾げる。
「そんな歩き方する人いる?」
ヴァレリーは答えない。
ただ地面を見ていた。
落ち葉の下。
そこに、うっすらと線が見える。
恭介も気づく。
「ん?」
しゃがみ込む。
落ち葉を払う。
すると地面に跡があった。
二本の細い線。
まるで何か重いものを引きずったような、左右に並ぶ二本の線だった。
まっすぐ続いている。
恭介は眉をひそめた。
「これ……何の跡だ?」
恭介は線を見ても、何一つ結びつかなかった。
ヴァレリーはそれを見て、目を細めた。
しかしまだ何も言わない。
風がまた吹く。
落ち葉が揺れる。
カサ……
静かな音だった。
ヴァレリーは小さくつぶやく。
「落ち葉は覚えている」
恭介が聞く。
「何を?」
ヴァレリーは答えなかった。
ただ落ち葉の道を見つめている。
昨夜の音を思い出しながら。
カサ……
カサ……
恭介は頭をかいた。
「意味分からん」
ヴァレリーは小さく言う。
「お前はまだ気づいていない」
「え?」
「頭は使うのもだ、恭介」
恭介はため息をついた。
「猫に言われたくないな」
ヴァレリーは落ち葉の上を静かに歩き出す。
カサカサカサ。
普通の音だった。
だが、あの夜の音は違った。
ヴァレリーだけが、それを知っていた。




