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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高梨 梛
第3章 落ち葉の足音
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第4話 商店街の人たちと疑惑の話

古道具屋「秋山堂」の店内は、人でいっぱいになっていた。

商店街の人たちが集まっている。


「本当に盗まれたのか?」


「警察呼ぶか?」


「いや、そこまで大げさにしなくても……」


秋山は腕を組んだまま、困った顔をしていた。


「参ったな」


恭介は店の奥を見つめる。

昨日まで柱時計が立っていた場所。

そこだけ床の色が違う。

四角い跡。

本当に消えている。


「でも変ですよ」


恭介が言った。


「これ、すごく重いですよね」


秋山は頷く。


「ああ、さっきもいったが、大人二人でも大変だ」


「なら、一人じゃ無理ですよね」


そのとき。

店の入口から声がした。


「何の騒ぎ?」


入ってきたのは、骨董好きで有名な男だった。

佐久間。

商店街ではちょっと変わり者として知られている。

古い物を見つけると、すぐ値段を聞く。

秋山が説明する。


「時計が盗まれた」


佐久間は目を丸くした。


「え?」


そしてすぐ店の奥を見る。


「……あの柱時計?」


佐久間は時計の跡を見つめ、喉を鳴らした。

その目は、どこか名残惜しそうだった。


「そうだ」


佐久間はしばらく黙っていた。

それから低く言う。


「もったいない」


恭介が聞き返す。


「え?」


「いや」


佐久間は肩をすくめた。


「いい時計だったからさ」


そのとき、八百屋のおばさんが言った。


「そういえば昨日」


「佐久間さん、あんた、時計見てたよね」


一斉に視線が集まる。

佐久間は苦笑した。


「見るくらいするさ。骨董好きなんだから」


恭介が言う。


「欲しかったんですか?」


佐久間は少し考えてから答えた。


「まあね」


店の空気が変わる。

誰かが小声で言う。


「怪しいな」


「でもあんな重い物……」


「台車でも使えば……」


佐久間は笑った。


「冗談だろ。俺一人じゃ無理だよ」


秋山が慌てて言う。


「いやいや、佐久間さんを疑ってるわけじゃない」


「そ、そうだよ、ただ話してるだけだ」


しかし空気は完全に疑いのものだった。

恭介は困った顔をする。


「でも本当にどうやって運んだんだろ」


ヴァレリーが店の床を見ていた。

落ち葉が一枚、入口から入り込んでいる。


カサ。


ヴァレリーがそれを前足でつついた。

恭介が聞く。


「どう思う?」


ヴァレリーは佐久間をちらりと見た。

そして言う。


「違う」


「え?」


恭介は小声で聞く。


「なんで?」


ヴァレリーは尻尾を揺らす。


「音だ。あの音は……風の音ではなかった」


「音?」


「あの音は」


ヴァレリーは目を細めた。


「人間の歩き方ではない」


恭介は首をかしげる。


「意味分からん」


ヴァレリーはそれ以上何も言わなかった。

ただ古道具屋の奥を見つめている。

柱時計があった場所。

そこから裏口へ続く通路。

その先は――

落ち葉の道。

ヴァレリーは小さくつぶやいた。


「落ち葉は嘘をつかない」

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