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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高梨 梛
第3章 落ち葉の足音
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第3話 静かな夜のカサ…という音

夜だった。


商店街はもう眠っている。

街灯の光が、古道具屋の裏道をぼんやり照らしていた。

地面には落ち葉が厚く積もっている。

風が吹く。


カサカサ……


カサ……


風が止まる。

落ち葉が動きをやめた。


カサ……


止まる。


カサ……


また止まる。


まるで何かを押すような音。

音だけが続く。


カサ……


カサ……


やがて音は遠ざかり、消えた。




翌朝。


商店街はまだ店を開けたばかりだった。

パン屋からは焼きたての匂い。

八百屋は段ボールを並べている。

いつもの朝――のはずだった。

そのとき。

古道具屋「秋山堂」から怒鳴り声が響いた。


「な、ない!!」


店主の秋山だった。


「時計がない!!」


その声で、商店街の人々が一斉に振り向いた。


「どうしたんだ?」


「何がない?」


人が集まる。

秋山は店の奥を指さしていた。

そこには本来、巨大な柱時計が立っているはずだった。

しかし――

空っぽだった。

床に残っているのは、四角い跡だけ。

誰かが言う。


「盗難か?」


「まさか」


「いや、あれ高いだろ」


ざわめきが広がる。

そのとき、商店街の入口から自転車が止まった。

恭介だった。


「おはようございます」


いつもの調子で言いかけて、空気の違いに気づく。


「……どうしたんですか?」


秋山が振り向いた。


「ああ、恭介」


そして言った。


「時計が消えた」


「え?」


恭介は店の奥を見る。

確かにない。

昨日、自分が見たあの大きな柱時計が。

恭介は思わず言った。


「え、嘘でしょ」


秋山は腕を組んだ。


「おかしいんだ……店は閉めた」


秋山は鍵を取り出して見せた。


「鍵もかけた。でも朝来たら――」


途方に暮れたような声。


「ない」


商店街の人々が顔を見合わせる。


「盗まれた?」


「でもあんな重い物」


「一人じゃ無理だろ」


誰かが言った。


「昨日、最後に時計見たの誰?」


少し沈黙。

そして秋山が言う。


「……恭介だ」


全員の視線が恭介に集まった。

恭介は目を瞬いた。


「え?」


「昨日、手伝ってただろ。最後に店にいたの、お前じゃないか」


恭介は慌てて手を振った。


「いやいやいや!俺じゃないですよ!」


「分かってる」


秋山はすぐ言った。

だが周りの視線はまだ残っている。

恭介は頭を抱えた。


「また俺かよ!」


その足元で、黒猫がゆっくりあくびをした。

ヴァレリーだった。

恭介を見上げる。

そして一言。


「失恋の次は泥棒か」


恭介は叫んだ。


「違うわ!」


商店街の人たちが笑う。


「恭介、失恋もしたのか。」


「そりゃあ、災難だったな」


だがざわめきは消えない。

誰かが言う。


「でも不思議だな」


「重い時計だろ?」


「どうやって運んだんだ?」


秋山が腕を組む。


「大人二人でも大変だ」


恭介は店の奥を見た。

確かにそうだ。

あの柱時計は、見た目以上に重かった。

簡単に動かせる物じゃない。

そのとき。

足元で、落ち葉が転がった。


カサ……


ヴァレリーの耳が動く。

そして恭介だけに聞こえるように小さくつぶやいた。


「……やはり妙だ」


恭介が聞く。


「何が?」


ヴァレリーは店の外を見ていた。

古道具屋の裏道。

そこには落ち葉が厚く積もっている。

ヴァレリーは静かに言う。


「音だ」


恭介は首をかしげる。


「音?」


ヴァレリーは答えない。

ただ尻尾をゆっくり揺らした。

昨夜聞いた音を思い出していた。


カサ……


カサ……


普通の足音ではない。

ヴァレリーの目が細くなる。


「人間は気づかん」


小さくつぶやく。


「だが、あれは――」


そして静かに言った。


「歩く音ではない」

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