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黒猫ヴァレリーの事件簿  作者: 高梨 梛
第1章 雨の日の遺言
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エピローグ 猫だから問題はない

 午後の陽は穏やかだった。


 雨に洗われた庭石が、淡く光を返している。

 重厚な洋館の庭園に植えられた色とりどりのバラはその花びらの雨露に陽を纏い輝きを増していた。


 恭介は応接間のテーブルに広げられた書類を見つめていた。


 分厚い封筒。

 公証人の署名。

 正式な鑑定結果。


 間違いなく――正当な孫。


 莫大な遺産を引き継ぐ正当なもう一人の相続人。


 恭介は深く息を吐いた。


「俺は相続人なんて——」


 言葉が続かない。


「こんな厄介なもの、どうしろっていうんだ・・・」


 複数の企業、有価証券、預貯金、世界各地にある不動産、美術品。

 恭介は頭を抱えた。

 背後で、ソファの上から小さな欠伸が落ちる。

 先だけが白い前足を顔の前に置き、体を伸ばした。

 ヴァレリーが優雅に先だけが白い前足を揃える。


「安心しろ。管理は私がやる」


 恭介は振り向く。


「猫だろ、お前」


 ヴァレリーは瞬きひとつせずに言った。


「猫だから問題ない」


 しばし沈黙。


 やがて恭介は吹き出す。

 重くまとわりついていた緊張が、ふっとほどけた。


「……じゃあ、ついでに探偵事務所の方も頼む」


「高くつくぞ」


 当然のような口調。


 恭介は笑いながら紅茶を注ぐ。


「少しは手伝えよ、紳士」


 ヴァレリーはカップの湯気を眺める。


「観察はする」


 その声は穏やかだ。


 だがどこか、試すようでもある。


 恭介はその視線を受け止める。


 昨日より、ほんの少しだけ、まっすぐに。


 庭を渡る風がカーテンを揺らす。


 玄関のチャイムが鳴った。


 恭介とヴァレリーが同時に顔を上げる。


 目が合う。


 今度は、迷いがない。


 ヴァレリーが窓辺へ歩き、外を見下ろす。


 弁護士に会社関係だろう数人の男たちが立っている。


 ヴァレリーは尾をゆるやかに揺らし、そして言った。


「やれやれ、実に人間らしい。」


 陽光が、静かに差し込む。


 ――黒猫ヴァレリーの事件簿 第一幕・了

操作を誤って3月7日に全てを投稿してしまいました(ToT)

「第一部『雨の日の遺言』、完結です。ご愛読ありがとうございました。

もし、少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、嬉しいです。第2部『千束恭介の災難〜夏の花火〜』を2026年3月10日から開始します。あの雨の日の後、彼らはどうなったのか――

お会いできるのを楽しみにしています。

「やれやれ、昼寝の暇もない」

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